全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
偽シェイファーことタント・ドーベルを見失った俺達は、溜息をつきつつ帰途に着いた。
なんだ? 飛び出したときにはなかった人垣が内務省の周囲にあるな?
シュプレヒコールとまでは行かないが、口々に叫んでいる・・・
「汚らしい獣人の手先に成り下がりやがって! それでも警邏か!」
「国王陛下を侮辱した獣人どもをブッ殺せ!」
「獣人の味方をするなんて、貴族の誇りはないのか!」
・・・。
いかん、一瞬思考が止まってしまった。
ジューニャ! エフティと念のためにお前も幻影かぶせろ!
「は、はい!」
平凡な人間魔法使いと戦士の幻影が瞬時に二人にかぶせられる。
内務省を取り囲む連中も、これで襲いかかって来たりすることはないだろう。
ティルやアーザックを連れてくる余裕がなかったのはむしろ幸いだったな。
だが・・・
「ケダモノどもを追い出せ!」
「ここは人間の国だっ!」
「立場ってものを教えてやれ!」
あいつらをかき分けて内務省に入るのはやめておいた方がいいな。
タチバナ、そこの路地で全員に《透明化》の術をかけてくれ。
ジューニャの《念動》でまとめて浮かせて、群衆回避して中に入るぞ。
「かしこまりました、カエラ様」
「は、はい」
どうにか暴徒一歩手前のデモ隊を回避して庁舎に入った。
ほのかにゲロの匂いを漂わせる人を見つけて聞いてみる。
「え? 私ですか? その、わかりません。
裁判がああなってカエラ卿が飛び出して行かれた後、あっという間に人が集まってきて・・・私も見ていた訳ではありませんので、詳しい事は分からず・・・」
そうか、ありがとう。
ともかくおじさんに会うのが先決だな。
途中でティル、アーザック姉弟と合流して俺達は執務室に向かう。
俺達の顔を見たおじさんの表情は「うれしさも中くらいなり」という感じだった。
「カエラ、無事だったか。・・・その様子では取り逃したようだな」
すいません。地下に潜られるとさすがに限界がありますね。
「まあしょうがない。地中に潜行出来る術師などそうゴロゴロしているものでもない。
あれをやられたら中々対処はできないな」
そう言えばゴットリープの手下にいたなあ。
多分地下トンネルに紛れたんだとは思いますが、飛ぶ斬撃でもダメージを負わないとなると、今んとこ打つ手がないですね。
「地下トンネル? メットーにそんなのがあんのか」
古い都だからな。
それこそ古くは古代王国時代から大都市があった。
天災やら戦乱で昔の町並みはほぼ残ってないが、地下には昔の街とか下水道とかが残ってる。
住んでる奴もいるし、犯罪者がよく利用していると聞くがさすがに詳しくは知らない。
それよりも問題は外の群衆ですよ。まさかとは思いますが・・・
「シェイファー、いやタントの仕込みではないかと言うことだな?」
さすがにタイミングが良すぎですからね。
裁判に影響を与える手段として用意してたものを、予想外の方向に転がったので八つ当たりというか、憂さ晴らしに使ってる、ってとこでしょうか。
「根性曲がりめ」
「逆恨みもいいところニャ!」
アーザックとティルが憤る。人間族としては耳が痛い。
結局のところ獣人に対する差別感情がなければ、ここまで簡単に扇動はされまい。
そしてこればかりは簡単に解決出来る事じゃないからな・・・。
そんな物思いにふけろうとした瞬間、執務室の扉が激しく叩かれた。
「閣下!」
「なんだ、入れ!」
声の必死さが一気に緊張レベルを引き上げた。
入ってきた職員の顔には、声に劣らぬ必死さがみなぎっている。
「暴動が起こりました! 城壁外、南西の区画で万を超す人間が松明を持って行進しています! 目的地は恐らく・・・」
獣人街かっ!
「信じられん・・・そこまでやるか!?」
あるいは獣人街そのものに何かあるのか。
ともかくそう言う事なら俺が出ます。
今まであそこを守っていた麻特の戦力はもういない。
暴徒と自警団がぶつかれば双方シャレにならない被害が出る。
今なら、俺ならまだ穏便に抑えられるかもしれない。
「・・・すまねえ」
感に堪えない、と言った様子で頭を下げるアーザック。
いいってことよ。
「やっぱりカエラんはいい男ニャ! 恥ずかしいけどとっときのライスワインでワカメ・・・ギニャアアアアアアアアアア!?」
かなり本気のアイアンクローが馬鹿の顔面に食い込んだ。
この作品は非18禁だと言っておろうが!
「わかめ? 海藻は好きですけど・・・」
ああ、ロビン。お前だけは清らかなままでいてくれ。
夕闇を駆ける。
ヒョウを連絡役に残し、俺、フジ、エフティ、タチバナ、レイ、そしてアーザック。シル、ジューニャ、ロビンとティルは吹き流し状態。
ティルは証人としての価値はもうないにしろ、タントからはこの上なく恨まれてるだろう。
内務省に残しておいたほうがいいかとも思ったのだが。
「ニャーの街が焼かれるとか許せないニャ!
なんならニャーの《加護》で暴徒全員ゲロ吐かせてやるのニャ!」
人間のダメなところを凝縮して煮詰めたような女だが、それなりに正義感とか街への愛着とかはあるらしい。評価を上方修正しておく。
「それにここで活躍すれば獣人街の愚かな酒場の亭主どももニャーを見直すのにゃ!
土下座して是非うちの店でお酒を飲んで下さい! ただでいくらでも!って言ってくるに違いないのニャ!」
あ、上昇した評価が下がる音がした。
それでも爪一枚くらいは上昇したままだが。
ともかく今は獣人街だ。急ぐぞ!
>地下トンネル
モデルはパリの地下トンネル。
地盤沈下で昔の街が地下に沈んだところもあれば、かつての採石場の跡もあり、ローマ時代の下水道もある。
オペラ座の怪人とか、レ・ミゼラブルとか、パリが舞台の作品ではちょこちょこ出てくる。
>ワカメ
磯野さんちの次女だよね?(棒)