全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第三十一話 プランB

 偽シェイファーことタント・ドーベルを見失った俺達は、溜息をつきつつ帰途に着いた。

 なんだ? 飛び出したときにはなかった人垣が内務省の周囲にあるな?

 シュプレヒコールとまでは行かないが、口々に叫んでいる・・・

 

「汚らしい獣人の手先に成り下がりやがって! それでも警邏か!」

「国王陛下を侮辱した獣人どもをブッ殺せ!」

「獣人の味方をするなんて、貴族の誇りはないのか!」

 

 ・・・。

 いかん、一瞬思考が止まってしまった。

 ジューニャ! エフティと念のためにお前も幻影かぶせろ!

 

「は、はい!」

 

 平凡な人間魔法使いと戦士の幻影が瞬時に二人にかぶせられる。

 内務省を取り囲む連中も、これで襲いかかって来たりすることはないだろう。

 ティルやアーザックを連れてくる余裕がなかったのはむしろ幸いだったな。

 だが・・・

 

「ケダモノどもを追い出せ!」

「ここは人間の国だっ!」

「立場ってものを教えてやれ!」

 

 あいつらをかき分けて内務省に入るのはやめておいた方がいいな。

 タチバナ、そこの路地で全員に《透明化》の術をかけてくれ。

 ジューニャの《念動》でまとめて浮かせて、群衆回避して中に入るぞ。

 

「かしこまりました、カエラ様」

「は、はい」

 

 

 

 どうにか暴徒一歩手前のデモ隊を回避して庁舎に入った。

 ほのかにゲロの匂いを漂わせる人を見つけて聞いてみる。

 

「え? 私ですか? その、わかりません。

 裁判がああなってカエラ卿が飛び出して行かれた後、あっという間に人が集まってきて・・・私も見ていた訳ではありませんので、詳しい事は分からず・・・」

 

 そうか、ありがとう。

 ともかくおじさんに会うのが先決だな。

 途中でティル、アーザック姉弟と合流して俺達は執務室に向かう。

 俺達の顔を見たおじさんの表情は「うれしさも中くらいなり」という感じだった。

 

「カエラ、無事だったか。・・・その様子では取り逃したようだな」

 

 すいません。地下に潜られるとさすがに限界がありますね。

 

「まあしょうがない。地中に潜行出来る術師などそうゴロゴロしているものでもない。

 あれをやられたら中々対処はできないな」

 

 そう言えばゴットリープの手下にいたなあ。

 多分地下トンネルに紛れたんだとは思いますが、飛ぶ斬撃でもダメージを負わないとなると、今んとこ打つ手がないですね。

 

「地下トンネル? メットーにそんなのがあんのか」

 

 古い都だからな。

 それこそ古くは古代王国時代から大都市があった。

 天災やら戦乱で昔の町並みはほぼ残ってないが、地下には昔の街とか下水道とかが残ってる。

 住んでる奴もいるし、犯罪者がよく利用していると聞くがさすがに詳しくは知らない。

 それよりも問題は外の群衆ですよ。まさかとは思いますが・・・

 

「シェイファー、いやタントの仕込みではないかと言うことだな?」

 

 さすがにタイミングが良すぎですからね。

 裁判に影響を与える手段として用意してたものを、予想外の方向に転がったので八つ当たりというか、憂さ晴らしに使ってる、ってとこでしょうか。

 

「根性曲がりめ」

「逆恨みもいいところニャ!」

 

 アーザックとティルが憤る。人間族としては耳が痛い。

 結局のところ獣人に対する差別感情がなければ、ここまで簡単に扇動はされまい。

 そしてこればかりは簡単に解決出来る事じゃないからな・・・。

 そんな物思いにふけろうとした瞬間、執務室の扉が激しく叩かれた。

 

「閣下!」

「なんだ、入れ!」

 

 声の必死さが一気に緊張レベルを引き上げた。

 入ってきた職員の顔には、声に劣らぬ必死さがみなぎっている。

 

「暴動が起こりました! 城壁外、南西の区画で万を超す人間が松明を持って行進しています! 目的地は恐らく・・・」

 

 獣人街かっ!

 

「信じられん・・・そこまでやるか!?」

 

 あるいは獣人街そのものに何かあるのか。

 ともかくそう言う事なら俺が出ます。

 今まであそこを守っていた麻特の戦力はもういない。

 暴徒と自警団がぶつかれば双方シャレにならない被害が出る。

 今なら、俺ならまだ穏便に抑えられるかもしれない。

 

「・・・すまねえ」

 

 感に堪えない、と言った様子で頭を下げるアーザック。

 いいってことよ。

 

「やっぱりカエラんはいい男ニャ! 恥ずかしいけどとっときのライスワインでワカメ・・・ギニャアアアアアアアアアア!?」

 

 かなり本気のアイアンクローが馬鹿の顔面に食い込んだ。

 この作品は非18禁だと言っておろうが!

 

「わかめ? 海藻は好きですけど・・・」

 

 ああ、ロビン。お前だけは清らかなままでいてくれ。

 

 

 

 夕闇を駆ける。

 ヒョウを連絡役に残し、俺、フジ、エフティ、タチバナ、レイ、そしてアーザック。シル、ジューニャ、ロビンとティルは吹き流し状態。

 ティルは証人としての価値はもうないにしろ、タントからはこの上なく恨まれてるだろう。

 内務省に残しておいたほうがいいかとも思ったのだが。

 

「ニャーの街が焼かれるとか許せないニャ!

 なんならニャーの《加護》で暴徒全員ゲロ吐かせてやるのニャ!」

 

 人間のダメなところを凝縮して煮詰めたような女だが、それなりに正義感とか街への愛着とかはあるらしい。評価を上方修正しておく。

 

「それにここで活躍すれば獣人街の愚かな酒場の亭主どももニャーを見直すのにゃ!

 土下座して是非うちの店でお酒を飲んで下さい! ただでいくらでも!って言ってくるに違いないのニャ!」

 

 あ、上昇した評価が下がる音がした。

 それでも爪一枚くらいは上昇したままだが。

 ともかく今は獣人街だ。急ぐぞ!




>地下トンネル
モデルはパリの地下トンネル。
地盤沈下で昔の街が地下に沈んだところもあれば、かつての採石場の跡もあり、ローマ時代の下水道もある。
オペラ座の怪人とか、レ・ミゼラブルとか、パリが舞台の作品ではちょこちょこ出てくる。

>ワカメ
磯野さんちの次女だよね?(棒)
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