全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第三十三話 最後のひとしずくまでも

 扇動者たちを気絶させて、鳥人たちが戻ってくる。

 音もなく着地する様はまるで忍者だ。

 

「チッ」

 

 タントが一瞬舌打ちするが、その表情は暴徒たちには見えない。

 

「見ましたか! これがケダモノどもの本性です!

 何をするでもない、ただ抗議にやってきたあなたたちの仲間に暴力を振るった!

 許されるものではありませんねえ!」

「そうだ!」

「俺達は被害者だ!」

 

 盛上がる、サクラではない一般の暴徒たち。

 手に手に棍棒だの斧だの持ってる奴らが言えたセリフか!

 とは言えこの類の連中に道理を説いても始まらない。

 やりたくはないが、心底やりたくはないが最悪波動陣でこいつらを吹っ飛ばすしかないかもしれん。

 それより、だ。

 

「何かね? 私に言いたいことがありそうだが。言ってみたまえ、偽の『飛竜殺し』よ!」

 

 ではお言葉に甘えて訊かせて貰おう。

 お前がこの獣人街を焼きたがるのは何故だ。逆恨みの復讐なのか、それともそれ以外に理由があるのか。お前だって獣人の血を引いているんだろう。

 

「ははははは!

 何を馬鹿な事を。獣人の血などこの身に一滴たりとも流れていませんよ!

 獣人街を焼くのは私ではありません! 神がそうせよとささやくのです!

 それが正義であり、人の世の秩序を守る手段だと!」

「一から十まで――」

「――嘘っぱちだな」

 

 嫌悪に顔をしかめるジューニャ。

 吐き捨てるエフティ。

 二人に言われなくてもわかっている。

 その歪んだ笑みがハッキリと言っていた。

 ただひたすらに嫌いだからここを焼くのだと。

 何か獣人街に重要なものがあるのか、それとももっと深い理由があるのか。

 それが気がかりだったが・・・オーケイ、それなら問題ない。

 

「何をするつもりか知りませんが!

 神の力に守られた私には邪悪な刃など効きはしません!

 さあみなさん、やっておう゛ぁっ!」

 

 奴の言葉を遮り、俺は真っ向唐竹割に西川正宗を振り下ろした。

 刀身が液体を乱し、奴の言葉を泡立たせる。

 続けて一撃、袈裟懸けに。

 更に一撃、胴を薙ぎ。

 脇の下から切り上げ。

 頭。喉。胸。みぞおち。へそ。腰。

 ありとあらゆる太刀筋で、ありとあらゆる部位を斬りつける。

 

「はははははは! 何を無駄な事う゛ぉっ! 言ったであう゛ぉう! 不浄のやいう゛ぁっが私に届くことなう゛ぉないっ!」

 

 高笑いを続けるタント。

 時折言葉が泡立つのは、喉や顔を刀が通り抜けるから。

 びちゃびちゃと、時折剣先からしずくが飛ぶ。

 

「司祭様!」

「我らに神の加護あれ!」

 

 奴の言葉で暴徒は更に盛り上がり、今にも獣人街に突撃しそうだ。

 だがそんな事はどうでもいい。

 斬る。

 斬る。

 斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る――!

 

 十回。

 二十回。

 五十回。

 百回。

 二百回。

 

「はう゛ぁははははは! だから効かない、と・・・?」

 

 手を広げてアピールしていたタントがぐらり、と揺れた。

 膝を折り、四つん這いになる。その間にも斬る手は止まらない。

 ようやく効いてきたか。

 

「な、何が・・・」

 

 どよめきが上がり、一部からは「司祭様!?」という悲鳴も聞こえる。

 相変わらず手応えのない体を切り続けながら、俺は冷酷にこの液体人間を見下ろした。

 注意力が足りないぜ、タント。

 お前に医療の知識があれば、そして俺の刀を注意深く観察していれば、ひょっとしたら気付いたかも知れないな。

 

「な、に・・・?」

 

 霞む視界の中でタントが見たのは、白い砂利の上にはねた赤いしずく。

 

「・・・血? だが、俺の体は斬られて血が流れることなどない・・・」

 

 それはもちろん、お前は斬られても血を流さないだろうよ。

 だが、体が液体化していようと、その中に血が流れてることには違いないんだ。

 磁力って知ってるか? 法廷でお前の投げた短剣を引き寄せた力だ。

 そして人間の血の中には赤血球というものがある。血が赤いのはこれのせいだ。

 赤血球の中には鉄分があり、これが酸素というものを体中に運んでいる。

 そして鉄分は磁力にくっつくんだ。鉄の短剣と同じようにな。

 

「まさ、か」

 

 そうだ。お前が敗れる原因は・・・貧血さ。

 

「くそったれ・・・が・・・」

 

 この問答の間も止まることのなかった斬撃を止め、剣を振る。

 刀身に付着した赤い粘液・・・無数の赤血球が払い落とされる。

 それが地面に落ちたときには、既にタントは意識を失っていた。

 

「・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 さあ、どうする! 司祭は倒れた! 神の加護などお前達の上にはない!

 それでも進むというなら、この西川正宗の刃にかかる覚悟で進んでこい!

 

 《波の加護》の一つ、拡声能力で暴徒全員に聞こえるように言い放つ。

 さあ、どうだ、これで?

 よし、最前列の連中は完全に腰を抜かしてるな。後一押し・・・

 

「・・・ざけるな!」

 

 え?

 

「ビビってんじゃねえ!」

「立ち止まってるな臆病者の●●●●が!」

「汚ぇ獣人どもを丸焼きにしろ!」

 

 うそお!

 後ろの連中が、腰の引けた前の連中押し出してこっちに向かってくる!

 あ、後ろから来た連中に踏みつけられてる。

 考えてみれば後ろの連中には今何が起きてるか分かってる訳ないな!

 頭が冷えてねえ! 何か司祭がやられたってだけで、頭に血が昇ったままだ!

 

「ブッ殺せ!」

「ケダモノに手を貸す奴は同罪だ!」

「礼法神(ザルス)に栄光を!」

 

 逃げ惑う前列。それを踏みつぶして前進してくる後続。

 ・・・この手だけは使いたくなかったんだがなあ。

 シル!

 

「準備は出来てるんだよ! 《明晰(クリア・マインド)》をカエラちゃんに・・・」

 

 いや。ティルにかけてくれ。

 ジューニャは全力で魔力アシストだ。

 

「・・・」

「・・・本気ですか?」

 

 人死にを限りなく減らしてこの場を収めるにはそれしかないだろうが!?(悲鳴)

 

「チクショー! なんだよーっ! 《明晰(クリア・マインド)》!」

「ニ"ャ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"! み"~な"~ぎ"~る"ぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

 その夜。

 国王から乞食まで、メットーに住む全ての人間がゲロにまみれた。




なんて汚ねえ話だ・・・(呆然)

>赤血球
どうも明治維新の頃には赤血球の酸素を運ぶ機能は解明されてた模様。
ついでに言うと発見されたのは何と1658年だとか。顕微鏡すげえ。

>みーなーぎーるー!
特に関係はないが「超力ロボガラット」の主役メカが巨大化するところをイメージした。
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