全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
「知るか。アグナムなんざ行ったこともねえよ」
ティルに問われた人斬りローニンが不機嫌そうな顔で吐き捨てる。
ジューニャ、エフティ、どうだ?
「嘘じゃありませんね」
「大体嘘つくほど器用な生き方してねえだろこのオッサン」
オーケイ、撤収だ。それじゃあな、ダスキーニ。もう二度と会わない事を祈ってるぜ!
「うるせえ! 会いに来たって言うから期待させやがって!
手間賃に一勝負しやがれ!」
まっぴら御免よ。
会うだけのことで命かけてられるか。
「も、申し訳ござらぬ! されどお家の大事ゆえお許し下され!
どうしてもというならそれがしが立ち会い・・・」
「てめえナメてんのか! 極上の肉が目の前に転がってるのに、てめぇみてぇな
踏みつぶされる前にさっさと消えろ!」
「はいいいぃぃぃ!」
転がるように逃げ出すユリノスケ。
こうして俺達は人斬りローニン、ダスキーニ・ヴォルタのヤサから全力で撤退したのであった。
そしてちょっと時間は遡る。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「うおおおおお!? 空! 空飛んでるでござるよ!
風景が流れていくようでござる!」
MMR号の窓にかじりつくユリノスケを全員が微笑ましげに見ている。
幸い事情を話したら、全員好意的にこいつを受け入れてくれた。
フジシルジューニャあたりはもうちょっと深いところまで察してるだろう。
もっとも素直で善良、人を疑うことを知らない素朴な性格であるから、隔意を持つ方が難しいキャラではある。
ティルが横に座って馴れ馴れしく肩を叩いた。
「うむうむ、うい奴だニャ。素直な奴はみんなに愛されるニャ。このニャーのように」
お前が素直なのは自分の欲望にだろう。
「はい、ティル殿は裏表のない素直な方とお見受けしました」
「うむ、人を見る目のある奴だニャ。それはそれとしてニャーは先輩、ユリりんは後輩。これはいいニャ?」
「無論でござる。それ以前にティル殿は大恩あるカエラ殿のご側室。拙者でよければ何なりとお申し付け下され」
あくまで大まじめなユリノスケに、にまあと笑うダメ猫。
「わかっているなら結構だニャ。まずこれからはニャーの命令には絶対服従だニャ。
ニャーが申しつけたら即座に酒を・・・ギャニャニャニャニャ!?」
「ティル殿!?」
ええい、この駄猫めが。
こめかみにアイアンクローを食い込ませながら溜息をつく。
ユリノスケもこいつの言うことは真に受けないでいいからな。
というか、俺もお前をだまそうとしてる悪人の可能性だってあるんだから、もうちょっと用心しろよ。
よく今までの旅の中で売り飛ばされたり手込めにされたりしなかったな。
そう言うとこいつは満面の笑顔になりやがった。
「それはもう、いい人ばかりでござったゆえ!
そしてカエラ殿も間違いなく善良な御仁でござる。
疑うなど思いもより申さぬ!」
・・・。
「・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
周囲から注がれたのは「微笑ましいなあ」という温かい視線が三割、「こいつ大丈夫か」という危惧の溜息が七割。
俺? もちろん溜息の方だよ。
「カエラ様。そろそろティルさんが痙攣してます」
おっと、忘れてた。
MMR号でメットーに到着した後、向かったのは魔法省。
マット村周辺が謎の黒雲に覆われたときに縁のできた、ザイオン次官のところである。
アポイントも取らず突撃して大丈夫かなと思ったが、すぐに取り次いで貰えた。
コネと名声は偉大だな。
「やあ、久しぶりだね。今日はどんな御用かな?」
お久しぶりです。ちょっとしたお願いがありまして・・・
ザイオン次官に頼んだのは、この前の調査の時に集められた「飛ぶ斬撃」の使い手の連絡先だった。
「飛ぶ斬撃」なんて使える奴はディテクですらそうはいない。
まずはその辺から当たってみるべきだろう、最重要容疑者もそのリストの中にいることだし。
とは言え考えてみればあいつ連れて来たのはジョンおじさんだったな。
先に内務省行くか・・・
と、全員フル装備+タチバナたちまで引っ張り出して、シルの《
仇でなくて残念と言うべきか、あいつと戦うハメにならないで幸いと言うべきか。
「はぁ・・・ひぃ・・・」
おい、大丈夫かユリノスケ?
「・・・あ、あ・・・」
こっちを見上げてくるが、へたり込んだまま動かない。どうした?
そこに割り込んで来たのはエフティだった。
「あー・・・ユリ。おまえ、ひょっとして人斬ったことないな?」
「・・・!」
ユリノスケがうつむき、僅かに頷く。
そうか、ダスキーニの殺気で腰が抜けたか。
あいつにしちゃ遊び半分のもんだとは思うが・・・シルやティルですら平気なのに。
「理屈じゃねえんだよ。こう言っちゃなんだがロビンやティルは育ちが悪いし、シルは元が図太い。ジューニャだってゴブリンとやりあったりダンジョン潜ったりはしたんだろ?
道場で腕が立っても戦場だと役に立たない奴ってのはいるもんさ」
そう言う事か・・・女のひとり旅でよく生きてこられたな。
「剣を叩き落とせば大体逃げていってくれましたし・・・そもそもこの背丈ですから、滅多に絡まれることもなく・・・お恥ずかしゅうござる」
仇を捜すのと並行して、お前の精神面を鍛える事も考えた方が良さそうだな。
「何から何まで・・・何とお礼を申し上げたらよいか」
礼は仇を討ったときに聞こう。取りあえずは・・・よいしょっと。
「きゃあっ!? ななななななななななにを」
えらいかわいい悲鳴を出すユリノスケ。
何をって、立てないんだろう? 抱えていくしかないじゃないか。
「気合で! そこは気合で何とかするでござる! 武士の情け、お放し下され!」
殿中でござる! じゃなかった文句があるならさっさと立て。こら、じたばたするな。
・・・ん? なんか周囲の視線が冷たいような・・・。
「まーたカエラちゃんが女の人増やそうとしてるんだよ」
「いえ、あれは天然ですよ。結果は同じですけど」
「おう、カーヴェ。そいつオレが担ぐから手を離せや(据わった目)」
「カエラ様はもう本当に・・・」
「にゃはは、生まれつきの女たらしって奴ニャ」
あ、いや、そう言う事ではなくてな!? そう言えばこいつも嫁入り前の娘ではあるなあ!
そこに何故かニコニコと乱入してくるのはやはりタチバナである。
HERE COMES A NEW CHALLENGER!
「そうは申されますがエフリーティ様は鎧にスパイクがついておりますので人を担ぐには不向きでございましょう?
ロビン様もユリノスケ様を担ぐには背丈がたりませんし、ここは若様のご厚情におすがりするのがよろしいのでは」
「えーと、私の念動なら・・・」
「ジューニャ様。な・に・か?」
「いえ何でもないです・・・」
タチバナの笑顔の一睨みで黙らされるエルフの大魔術師。弱い・・・。
結局俺はユリノスケをおんぶして、宿まで戻る事になったのだった。
>かなっぺら
なまくら刀、もしくは竹光のこと。