全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
木刀を構えてジューニャと相対する。
それなりに本気で殺気をぶつける俺。
ユリノスケは引きつりまくった顔。
「・・・」
こら、逃げるな。後退は不可だ。
「で、ですが・・・」
度胸をつけるための修行だろうが。逃げたら仇は討てんぞ。
「うううううー・・・!」
固まってるユリノスケにそれから何度か木刀を打ち込み、腰を抜かしたこいつを無理矢理立ち上がらせて、また殺気をぶつけて打ち込む。
そんな事を繰り返しているうちに二時間ほどが経っていた。そろそろ休憩にするか。
「うう・・・ちょっと漏れたでござる」
ん、何か言ったか?
「何でもござりもうさん!」
「ユリノスケ様、どうぞ」
「かたじけない」
何故か苦笑するフジが手桶で水を渡すと、ユリノスケはガブガブと全部飲んでしまった。
凄いな、1リットル以上あったぞ。
で、どうだ。多少度胸はついたか。
「わかりもうさんでござる・・・ただひたすらに恐ろしいばかりにて」
まあこう言うのは慣れだ。殺気をずっとぶつけられてれば多少は耐性が出来る・・・と思うんだがな。
昔読んだ時代小説では、ビビリの男に度胸をつけるために柱に縛りつけて真剣を突きつけ、胸に薄く傷をつけることまでやってた。
さすがに女の子(俺より二つ年上)にそれやる訳にはいかんしなあ。
そう言う訳でここのところ俺とエフティとの交代でユリノスケの精神修養に付き合ってやってたのである。
フジにも手伝いを頼もうかと思ったのだが、「私はむしろ殺気を抑えるように訓練されておりますので難しいかと」とのことだった。なるほどニンジャだもんな、そりゃそうか。
「ふはー」
水を飲み干し、だらんとした顔で木の根元によりかかるユリノスケ。
こうしてると男装している以外はごく普通の田舎娘なんだよなあ。
お。
「ござるー!」
「しゅぎょうおわったー?」
「今日もだめだったなー」
「ははは・・・」
修行が一段落したと見たのか、村の子供達がワラワラと寄ってきた。
素直で人に好かれるタイプの女だが、子供達には特に人気がある。
というかナメられてる。
「かたきってつよいんだろー? 休んでる暇あるのかよー」
「だめだぞー、さぼってちゃー」
「サムライの話してよ!」
「おねえちゃんっておっきいよねー。何食べてたらこんなになるの?」
ほっぺたを引っ張られたり、ぺしぺし叩かれたり、さらしを巻いた胸をつつかれたりしても苦笑するだけなので、ガキどもはやりたい放題である。
まあ本人も子供好きみたいだし放っておいてもいいだろうけど。
「おっぱいもしりもでかいよなー」
「あんざんがたってやつだ!」
「本当に何食べてたらこうなるの?」
あ、胸をつついてる女の子の目がちょっとマジだ。そう言うお年頃かもしれない。
「そうでござるな・・・これとか?」
ユリノスケが懐からスティック状の何かを取り出して子供達に配る。
それを口に入れた子供達から、次々に驚きの声が上がった。
「なにこれあまーい!」
「うめえ! 何だこれ!?」
「干し芋でござる」
「何の芋なの? キクイモ?」
「拙者にもわからんでござるな。さて、そろそろ休憩も終わり。ちょっと離れてるでござるよ。話はまたしてやるでござる」
「ちぇーっ」
不服そうな顔をしながらも、子供達は離れていく。
連中に手を振ってやってからこっちへ歩いてくるユリノスケ。
「さ、カエラ殿。続きをお願いするでござる」
それはいいんだが、さっき子供達にやってたのはなんだ?
干し芋とか言ってたが。
「ああ、これでござるな。どうぞ。フジ殿もどうかご遠慮なく」
懐から出した黄色いスティック状のものを俺達に差し出すユリノスケ。
かじると、柔らかい甘味がふわっと広がる・・・これサツマイモか!?
「なんでしょう、不思議な味ですね・・・」
この世界では初めて食ったな・・・これアグナムのものか?
「さあ、どうでござろう? 少なくともそれがしの故郷では、これがどんな名前の芋なのか知る方はおられませんでした」
まあサツマイモって確か中南米原産だからな・・・アメリカ大陸がない(少なくとも知られてない)この世界では存在しなくてもおかしくないか。
「ですが、そうするとユリノスケ様はこれをどこで手に入れられたのです?」
「それはですな・・・こうやって」
むん、と気合いを入れると手の平に今食べた干し芋がどこからともなく現れた。
・・・《加護》か!
「はい。《芋の加護》というそうにござる。何の役にも立たない《加護》にて・・・いえ、旅をするには便利ではござるが、これのせいでユリノスケではなくイモノスケだなどと・・・ぶつぶつ」
・・・。
「カエラ殿?」
お前の故郷の人間は揃いも揃ってアホぞろいか?!
食べ物をいくらでも出せるだけで神《加護》だろうが! 何なら売ればいいし!
それより生の芋は! 生の芋は出せるのか!
「カエラ様(汗)?」
「お、落ち着いて下され。余り出したことはござらぬが・・・こう、でござったかな?」
もう一度気合いを入れると、見事なサツマイモがその手の中にあった。
でかした!
悪いが稽古はここまでだ。エフティ呼んできて引き継いで貰え!
フジ、ジューニャを河原まで連れて来てくれ。あの砂地のところだ。
俺はロビンを呼んでくる! あ、後十個くらい生の芋出してくれ!
「は、はあ・・・?」
「かしこまりましたでござる・・・?」
まずエルフの大魔術師と古代の涙滴型機動艇を用意する。
河原の砂をMMR号の魔力炉の熱で溶かし、ジューニャの《念動》で触れずに板ガラスに成形。
試験用に確保していた耕作地にフジのタタミハウスを作って貰い、その屋根に板ガラスをはめてロビンに接合してもらう。つまり原始的な温室だ。
ジューニャに絞り出させた油を燃やし続けて中を暖めて・・・えーと、確かサツマイモって直接植えずに芽を出してからそれを畑に差して増やすんだったかな?
芋切って植えるのと並行して色々やってみよう。
後のことになるが、一月半ほど後に無事成長した芽を温室の畑に植えると、春には見事なサツマイモができた。
逆に芋のまま植えた奴はよく生育はしたが芋が余り大きくならなかった。
そのまま春には大規模に植え付ける事に成功し、マット村特産のサツマイモは甘味の貴重なこの世界で我が村の財政を支える大ヒット商品になる。
この世界ではスイートポテトも大学芋も芋けんぴも全てマット村発祥。そのうちいくつかにはユリノスケの名前がついて後世に残ることになる。
やったぜ父ちゃん、明日はホームランだ!
まあ
農業無双やるにはちょっと季節が遅すぎたなあ・・・w
>昔読んだ時代小説
剣客商売「悪い虫」。
ヤクザ者の兄につきまとわれる鰻屋の兄ちゃんが主人公に弟子入りして度胸をつけて貰う話。
「剣術を十年やると自分の強さが分かる」
「二十年やると相手の強さが分かる」
「三十年やると自分の弱さが分かる」
「四十年やるともう何がなんだか、わけがわからなくなる」
は作中でも一番好きなセリフ。