全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
「ひっ、ひっ」
今日も今日とて引きつけのような呼吸をしているユリノスケ。
エフティの特訓は俺に比べて荒っぽく、限度を超えてこうなることも多い。
「ほれ、ゆっくり息しろや。ひっひふー、だっけ?」
ぽんぽんと肩叩いて落ち着かせるエフティ。鬼教官だが面倒見はいいんだ。
なお、それ子供産むときの奴なと言ったら顔真っ赤にして怒り出した。
俺悪くないだろ。
「うるせえな! ユリもあんまこの馬鹿に近づくなよ、孕まされるからな!」
何で話がそっちに飛ぶ!?
ユリノスケも顔赤くしてるじゃないか!
「大体
そもそもあなたの場合、迫ってきたのはそっちからだったと思いますがね。
「ぐっ」
「あの、事情はしかとは分かりもうさぬが、大身の武家の頭領であれば、ご側室は持ってて当然なのでは・・・」
「・・・そうなのか?」
「少なくともアグナムではそうでござる。拙者も先代当主の側室の娘の娘でございますし」
「その辺はディテクもそれほど変わりませんね。貴族から裕福な商人まで、側室やお妾はよくあることです」
と、フジ。
ちなみに江戸時代の経済力指標として石高というのがあるが、確か1ヘクタール(100mx100m)で十石だったはず。
うちの村の今年の作付面積は一万ヘクタールを超えているので、ざっと十万石。
すげーな、江戸時代なら普通に大名じゃねーか。
ちなみに江戸時代は約300の大名家があったが、十万石あればそのトップ40くらい。
ギリギリ大大名に入るレベルだ。
まあ村にいるのが今三千人くらいで、明らかに人口に比して耕作面積が広すぎるから余りこまめに手入れしてない。なので面積ごとの収穫はもうちょっと減ると思うが、それでも七万か八万石はあるだろう。
冬になってからも開拓民志望がやってくるし、サツマイモという神の作物も手に入ったし、来年は下手すると作付けが更に倍。十五万石の大大名ってわけだ。
なるほどそう考えると複数の側室を持っていてもそれほどおかしくはないな。
「まあその、フジ殿、シル殿、ジューニャ殿、エフティ殿、ロビン殿、ティル殿、それにタチバナ殿もでしょうか・・・?
帝の後宮でもあるまいし、七人というのはいくらなんでも多すぎるとは思いますが・・・」
ぐっ。
一方でエフティが我が意を得たりとばかりに大きく頷く。
「ほーれ見ろ! それ見ろ! お前がおかしいんだよ!」
ぐぬぬぬぬぬ。
「それはそれとして、そろそろ出発のお時間では? 今日は色々お約束がございましょう」
フジ、ナイスアシストだ! エフティもユリノスケも戻るぞ。水浴びて着替えないとな。
「チッ。フジはカーヴェに甘すぎんだろ」
「さて、何のことでございましょう」
一通り身だしなみを整えると、俺達はMMR号に乗ってメットーに向かった。
まずは実家。じいさんに頼みがあるのだ。
あらかじめ訪れることを伝えてあったから、門前で家令のモンドが迎えてくれる。
影の一族の現頭領で、タチバナの父親でもある。
出迎えご苦労。元気そうだな。
「若様・・・いえ、カエラ様もご立派になられまして、爺は嬉しゅうございます」
ありがとよ。タチバナとフジ、ヒョウとレイのおかげだ。
「はっ」
さて、さっさと用事を済ませるか。
「はっ」
今度の返事には、僅かに笑いの気配が含まれていた。
「最近随分と顔を見るものだ。村の方を放り出してはおるまいな」
便利な足が手に入ったもんでしてね。言われなくても開墾やら水路の掘削やら農業試験やらでてんてこ舞いですよ。
「開墾? まさか領主たるお前が自分の手で鍬を振るっておるのか」
鍬は振るってないけど、この《波の加護》でね。
そう言うと爺様がひどく微妙な顔になった。まあ色々と複雑だろうな。
「・・・まあそれはいい。ジョンから『飛ぶ斬撃』の使い手を捜していると聞いたが、それの絡みか?」
ああ。ユリノスケ、こっちへ。
爺さん、こっちはカマタ・ユリノスケ。
アグナムから来たサムライで、仇討ちの旅の途上だ。
「ふむ。話してみろ」
微妙な《加護》ゆえに貧乏くじを引かされたこと、恐らく国元からは期待されていないことまでそこはかとなくほのめかすと、爺様は大きく溜息をついた。
俺が肩入れする動機も察しがついたんだろう。
「それで、影の一族か」
ああ。
仇を捜すのに手を貸して欲しい。もちろんロウやジョンおじさん(後盗賊ギルドのタムレイン)にも依頼はしてあるが、手が多いのに越したことはないしな。
「よかろう。モンドとも話さねばなるまいが、手の空いたものを使って情報を集めてやろう」
「か、かたじけのうござる!」
ユリノスケが深々と腰を折る。
じいさんが僅かに笑みを浮かべた。
「お気に召さるな。国は違えども仇討ちはサムライの本懐。
それを手助けするのは同じサムライとして当然のことだ」
「重ね重ねかたじけなく。カエラ殿もそうでござるが、ケンシン殿も真のサムライにござる」
爺さんの笑みが深くなる。と、それが一転して厳しい顔になった。
「しかし、腕は相応だが覚悟が定まっておらんな。
話を聞く限り仇はかなりの使い手。今のままでは本願成就は叶わぬぞ」
「そ、それは・・・」
うつむくユリノスケ。ダスキーニといい、
爺さんが俺に視線を向け、俺は頷いた。
今日はそのこともあって話をしに来たんだ。
これこれしかじかで度胸をつけるような修行はさせてるが、今一つ結果が出なくてな。
何か良い案はないか?
「ふむ」
爺さんが腕組みをして考え込む。
「方向性は間違っておらん。だがやはり実戦を経験させるに越したことはないだろうな」
やっぱりそうか。冒険者の酒場で山賊退治の依頼でも受けるかね。
「それが良かろうな。話がそれだけなら、この後ヘルムの相手をしてやれ。
最初からそのつもりですよ。チラチラこっちを見てたしね。
爺様が笑みを浮かべる。
「あれも寂しいのだ。察してやれ。
ではな、ユリノスケ殿。武運を祈る」
「重ね重ねかたじけなく」
一礼して俺達は爺様の執務室を出た。
「兄様!」
執務室の扉が閉まるなり、廊下の角から小麦色の弾丸が突進してきた。
どん、とぶつかってくるのを受け止めてやる。
久しぶりだな、ヘルム。
「はい、兄様!」
太陽のような笑顔で俺を見上げるかわいい弟。
髪をくしゃくしゃとなぜてやる。
・・・あんまり背が高くなってないな?
育ち盛りなんだから、ちゃんと食って動かないとダメだぞ。
「そ、そうですか・・・?」
そこでヘルムの視線が冷たいものに変わった。
「また女の人が増えましたね。月に一度くらいのペースで増えてません?」
え? まあなんだこれは色々あってな・・・
「エッチな兄様なんて知りません! 不潔です!」
いや、お前だってその歳なら多少は分かるだろう?!
「知らないったら知りません! しょっちゅうメットーに来てるのに、僕には会いに来てくれないし!」
いかん、完全にへそを曲げている。
いや、とにかく忙しかったからさあ・・・でも事件終わった後に顔を出すくらいはすべきだったかなあ・・・
フジかシルかタチバナ、助け船を・・・全員生暖かい笑みを浮かべている!
くそっ、頼りにならねえ!
それから三十分ほど、俺は弟の機嫌を取り結ぶために平身低頭し、あれこれ約束をする羽目になったのであった。
「確かこう言うのを因果応報というのでしたね」
黙ってろそこの毒舌メイド!
>堕落
こーゆー字を書く・・・ っ「墜落」
>石高と耕作地
米の場合の換算なので、麦だと2、3割くらい石高は減ると思います。
それでも大したものですが。