全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
「ひい・・・はあ・・・」
汗をびっしょりかいてへたり込むユリノスケ。
それを見てエフティが溜息をついた。
「やっぱダメだなあ。全然進歩がないぜ、この姉ちゃん」
例の殺気稽古である。
路線は間違ってないと爺さんも保証してくれたんだが。
やっぱりゴブリン退治か何か、適当な実戦に放り込むか?
「どうしても仇を討たなきゃならないってんなら、まあそうなるわな。
このまま戦場に放り込んでみろ、味方巻き添えにして派手に死ぬぞ」
戦場で生きてきた傭兵の言葉は重い。
冒険者の酒場で何か探してみるか。
「無理ですねえ、もう冬ですから。野外をうろつき回るには厳しい季節ですし、山賊やゴブリンも活動しなくなってその手の依頼は減るんですよ」
あちゃあ。
確かに、ここのところダンジョンに来る冒険者が増えたと思ったら・・・。
「ああ、そう言えばカエラ卿はダンジョン持ちでしたね。
そうなんです、冬場の冒険者は貯め込んだ金で冬ごもりするか、暑さ寒さの関係ないダンジョンに潜って日銭を稼ぐかのどちらかでして。
隊商の護衛やら街の清掃やらで細々と食いつなぐ連中もいますがね」
討伐依頼は出そうにないな。
「全くないって訳じゃないんですが、いつ来るかは・・・一冬で二回しか来なかったこともありますしね。
来る場合も大抵オーガとか大型魔獣とか、ゴブリンどころじゃない厄介な案件ですし」
さすがにユリノスケをいきなりオーガ戦に放り込む訳にもいかないか・・・。
わかった、ありがとう。依頼が来たときにはよろしく頼む。
「はい。どうぞごひいきを」
深々と頭を下げる冒険者の酒場の主人。
念のため他の店も十軒以上回ってみたが、どこも同じような回答だった。
つくづく時期が悪いらしい。
「申し訳ないでござる・・・」
別にお前のせいでもあるまい。いや、ヘタレなのはお前のせいだが。
「ううっ」
そうなるとやっぱりダンジョンに潜って適当に実戦経験を積ませるしかないかね。
最近ひまわりダンジョンもカピラ・ダンジョンもお客さんが多いから、邪魔になりそうで控えていたのだが・・・あ、もう一つ手があったな。
「罪人の斬首をやらせて欲しい? それは構わないが何でまた」
カクカクシカジカで仇討ちをしなきゃならないんですが、どうにも度胸がありませんで。
山賊もゴブリンもダンジョンも今すぐには難しいんで、
「サムライの本懐という奴か。四日後の日曜日になるが、それで構わなければいいぞ」
ちなみにこの世界には地球と同じ曜日がある。例によってオリジナル冒険者族が(ry
「こ、公開処刑でござるか」
ユリノスケのこわばった顔。
「うむ。その辺はお国だと違うのかな?」
「い、いえ。士分はまた別にござるが、アグナムでも処刑は基本群衆が集まるものにござる。問題はあり申さぬ」
いやな話だが、この世界では処刑は基本娯楽の一種である。
悪人が死ぬところを見て、民衆は日々の憂さを多少なりとも晴らすのだ。
「そうか、ではまた四日後にな」
はい、ありがとうございました。
「重ね重ねお礼申し上げるでござる・・・あいたっ!」
一礼して出ていこうとしたユリノスケが鴨居に頭をぶつける。
大丈夫かなこいつ・・・。
月日は夢のように流れて四日後、中央広場の処刑場。
前にダスキーニがぶっ壊したらしいが、今は完全に修復されていた。
おいユリノスケ。大丈夫か?
「・・・問題ござらん」
ハチマキにたすき掛け、いかにも果たし合いか首切り朝右衞門かという勇ましい格好のユリノスケだったが、顔が青い。手が震えたりはしていないが、今にも倒れそうだ。
「大丈夫でございますか? 凄い顔色をされてらっしゃいますが・・・」
「問題ござらん」
それでも心配そうな顔をするフジたちを、手で制する。
サムライがこう言っているんだ、これ以上は侮辱になる。
「かたじけなく」
ユリノスケが一礼する。
それでも胸中の不安は消えてくれなかった。
頭に布をかぶせた罪人が引き出され、処刑台に据えられる。
強盗先で人を殺して死罪になったやつらしい。幼い子供を残して皆殺しっていうからまあ、死んで当然の男だな。
「助けてくれ! 俺ぁ死にたかねえ! 後生だ!」
泣きわめきながら刑吏たちが苦労するほどに暴れる死刑囚。上がる笑い声と怒声。
「人殺しめ、いい気味だ!」
「勝手な事言ってんじゃねえ!」
「てめぇが殺した家族に地獄で詫びてこい!」
死刑囚が固定されると、続いてユリノスケが壇上に立つ。どよめきが上がった。
「女!?」
「サムライだ! アグナムのサムライだ!」
動きに乱れはないが、顔色が凄い。先ほどよりも真っ青で、今にも倒れそう。
正面に一礼するとカタナを抜き、手桶からひしゃくで水を垂らす。
死刑囚の横に立ちカタナを振りかざすと群衆から歓声が上がった。
「いやだぁ! 助けてくれぇ!」
恐らくは顔も涙と鼻水でぐしゃぐしゃなのだろう。頭の袋に染みができている。
股間からは小便を垂れ流し、枷と鎖で固定されながらもジタバタと暴れている。
「・・・」
ごくり。誰かが唾を飲んだ。
昼の太陽がユリノスケのカタナに反射している。
大上段に掲げたカタナは不動。
泣きわめく死刑囚の声だけが響いている。
「・・・」
「・・・・・・?」
群衆がざわめき始めた。
カタナは動かない。死刑囚の泣き声。
いつの間にか、ユリノスケが滝のような汗をかいている。
「何やってるんだ!」
「さっさと首をはねろ!」
カタナは動かない。死刑囚の泣き声。
「そのカタナは飾りか!」
「度胸がねえならカタナなんか捨てて、娼館で男に股開いてろ!」
群衆のざわめきに罵声が混じり始める。
意を決して壇上に昇る。
ユリノスケの表情が初めて揺れた。
「か、カエラ殿・・・」
ふんっ!
「助けっ・・・」
死刑囚の泣き声が途切れた。
「も、申し訳なく・・・申し訳なくっ!」
屋敷の一室で、ユリノスケが土下座している。
先ほどの死刑囚のようにボロボロ泣きながら。
「拙者は自分が情けないでござる・・・あそこまでお膳立てされておいて、それがしはカエラ殿のご厚意に泥を塗り・・・!」
全員が一斉に溜息をついた。
普段は間違いなく茶々を入れてくるティルまで気の毒そうに眉をひそめている。
互いに牽制というか様子を窺って、最初に口を開いたのはエフティだった。
「なあカーヴェ、もうこいつに仇討ちさせるのは諦めた方がいいんじゃねえか?
仇が見つかっても、これじゃ死ぬだけだぜ」
うーん。それは考えないでもないんだが。
ただ、こいつはサムライだ。ヘタレでも何でもサムライだ。
それをするってのは、今までの生き方全てを捨てることに等しいだろう。
「まあ仇討ちには助っ人がつきものなんだよ。カエラちゃんとエフちゃんが実際に戦って、ユリちゃんはとどめだけ刺せばそれでいいんじゃないかな?
幸いユリちゃんの《加護》は凄く有用だから、仇を討った後も村にいてくれれば随分助かるし」
それはまあな。
問題は本人が納得するかどうかだ。
「お察しの通りにござる・・・押しつけられた仇討ちでござるが、それでも拙者自分に誓い申した。
それが叶わぬとあらば、腹を切るより他にございませぬ」
「それを為せる力がないのにですか?」
あえて冷たく、タチバナが問い詰める。
初めてユリノスケが頭を上げた。顔はぐしょぐしょだが、目には決意の光がある。
「ち、力が足りなければ死ぬまでのこと。ご迷惑を掛けるのは心苦しゅうございますが、それであれば拙者カエラ殿のもとを離れまする。
死ぬのはこの身だけのこと。されど、サムライの矜持を失うのは死ぬよりも苦しい事にござりまする」
「・・・」
タチバナが溜息をついて口を閉じた。
ニンジャの生き方とは正反対の誇り高さだが、サムライの家に仕える人間として否定はできなかったんだろう。
「はあぁ~。ユリりんは頑固だにゃ。ヘタレのイモ侍のくせして」
「面目ない・・・」
ティルの呆れ節に、涙に濡れた顔で苦笑いするユリノスケ。
イモ侍・・・まあイモ侍だな。本人の性格的にも能力的にも。
・・・待てよ? イモ侍。イモ侍か・・・
「カエラ様?」
いや・・・いけるかもしれん。
「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」
視線が一斉に俺の方を向いた。