全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

27 / 30
第二十七話 ダンジョン・ガーディアン

 四十回の食事と十三回の睡眠を挟んで俺達は迷宮の最深部らしき場所に到達した。

 レイを介して外のヒョウと話したところ、今は十五日目の夜だそうだ。

 結構時間感覚がズレてるな。

 

「忍びがどこかに潜入するときも同じ事がありますね。

 そう言う時はことさらに規則正しい生活をして生活のリズムを整えるのですが」

 

 らしいな。そう言うリズムのずれが意外と体調に響くのは聞いたことがある。

 本職の冒険者はどうしてるんだろうな。そのうち聞いておこう。

 

「ところで、どうしてここが最下層だと? 確かに雰囲気からしてそれっぽい気はするんですが・・・」

 

 そう言えばジューニャは俺のアクティブ波動感知のことは知らなかったな。

 経緯説明(かくかくしかじか)

 

「なるほど、ここより下に魔力の反応がないんですね?」

 

 その通り。加えてダンジョンは構造自体が強い魔力を持っているから、何かこの下に隠し階層があったとしても、魔法的に隠蔽されてない限り判別出来ると思う。

 そしてこの階層に巨大な魔力が二つあるから、これは決まりだろう。

 

「二つですか、カエラ様?」

 

 フジに頷く。一つはダンジョンを作ったダンジョン・コア。そしてもう一つは・・・

 

「"守護者(ガーディアン)"ですね!」

 

 食いつき気味に混じってきたのは双子の弟レイ。

 そう言えばお前らもこういう冒険譚好きだったな。

 

「ええ、ダンジョン・コアの直前に必ず存在するボスモンスター。

 初代様(白のサムライ)地竜(リンドヴルム)の稲妻を切り裂いた次の瞬間、『紅の影』さまが眉間に忍者刀を突き立てて倒したという!」

 

 あったなあ! 昔タチバナから話を聞いて、男三人で盛上がったものだ。

 

「そう言えばそんな話もありましたね」

「今は目前のモンスターに集中するんだよ」

「すいません、人間界の英雄譚は詳しくないです」

 

 この女どもの反応の薄さよ。

 やはり男と女の間には深くて広い川がある。

 まあ、ヘルムもそれほど盛上がらなかったような記憶があるから人それぞれだろうが。

 閑話休題(それはさておき)

 

 

 

 いたぞ。密集! フジは畳で壁を作れ!

 

「はいっ!」

 

 角を曲がってそいつが現れた瞬間、フジに命令する。

 ほとんど同時にそいつ――燃える石炭で出来た10mの巨人が口から炎の吐息を吐いた。

 一瞬にして周囲が炎の地獄に変わる。

 ブレスの効果範囲は床も壁も燃え上がり、吐息が途切れても消えることはない。

 コールタール・ロックトロールが爆発してまき散らしたのと同じ、粘着質で高い温度で燃える液体。

 ナパームかナフサみたいな燃焼粘体が付着し、燃え続けているのだ。

 幸い本式の稲藁畳というのは密度が高く、そう簡単には燃えつきない。

 フジはそのまま畳を維持しろ! ジューニャはありったけの魔力で《水作成》を準備! 俺の合図か自分の判断で発動しろ!

 それだけを言うと、俺は畳の防御壁の外に飛び出す。

 

「カエラ様!?」

 

 壁の外は一面の炎。酸素がある限り消えない無限の燃焼。

 燃える石炭――言わば熾火(おきび)の巨人の胸が大きく膨らんでいた。

 ブレスの準備動作は既に終わっている。

 恐らくは待ち構えていたのだろう。俺が何をするよりも早くブレスが来る。

 

「カエラ様っ!」

 

 悲鳴。

 俺の姿は炎の吐息の中に消えた。

 

 

 

 全身震動(ボディソニック)っ!

 

『!?』

 

 無機質な石炭で出来た巨人が、その瞬間はっきりと驚愕の色を浮かべた。

 ナパームのブレスの中から俺が無傷で飛び出す。

 消せない、振り払えない火を、俺は一瞬ではじき飛ばしていた。

 焼き尽くされるどころか、俺の体には火の粉の一片すらまとわりついてはいない。

 

 種は例によって《波の加護》。そしてジューニャのかけてくれた《鎧》の呪文。

 相手の吐きだした生体ナパームは表面の防御力場に付着し、俺の体には直接触れない。

 そこで俺は力場ごと全身を震動させ、付着したナパーム粘体を強引に振り払ったのである。

 乱暴な言い方をすれば、濡れた犬猫が全身を震わせて水をはじき飛ばすような。

 そしてその時点で勝敗は決していた。

 

「キェェェェイッ!」

 

 鋭い気合いと共に、剣から伸びる光の線が振り下ろされる。

 ブレスを吐き終わった、一瞬の停止時間。

 フォノン・メーザーの刃が巨人の正中線をなぞり、ダンジョンの守護者は動きを止める。そのまま形が崩れ、巨人は光となって消えた。

 

「ふわぁ・・・凄いですねぇ。メートルサイズの魔力結晶なんて初めて見ました」

 

 後に残ったのは天然石のようにごつごつした巨大な魔力結晶。

 これだけで一財産だな。ロウに売り先を探して貰うか。

 

 

 

 少し休むと俺達は奥に進んだ。

 坑道のような、木枠で支えられた土壁の通路。

 それを数百メートルも行っただろうか。

 

「うわぁ・・・」

「・・・」

「綺麗・・・」

 

 百メートルほどの岩壁の広間。

 壁にも床にも天井にもびっしりと生える、きらめく水晶の柱。

 中央に石英と水晶で出来た華のような祭壇。

 その上に、周囲のきらめきから浮き上がった、石炭のような無骨な黒い石が鎮座していた。

 

 精神を集中する。

 世界に満ちる波を感じる。

 周囲の全てを圧倒する巨大な波を発しているのは、やはりあの石。

 

「ですね。あれがダンジョン・コアでしょう」

 

 OK、それじゃ全員ちょっとここで待機しててくれ。

 万一の時はジューニャ、頼む。

 

「わかりました」

「え、何をなさるのですか? お一人では危険・・・」

「何だフジ、ご先祖様(紅の影)の話を聞いてなかったのか? 守護者の地竜を倒した後、初代様(白のサムライ)がダンジョンの心臓に触れてその力を得たとあっただろう」

 

 呆れ顔のレイと俺。本当に興味なかったんだなお前(フジ)・・・

 

「ああ、ダンジョンの心臓って言うのがダンジョン・コアのことなんだよ?」

「でしょうね。ダンジョン・コアは触れたものと精神的な接触を持ち、これを精神力でねじ伏せることで支配下に置くことが出来ます。つまりダンジョンの主になるわけですね。

 なので、ここはカエラくんが単独で接触するべきでしょう」

「なるほど、そう言う事ですか」

 

 フジも納得してくれたらしく頷く。

 それじゃ行ってくるぞ。お前達は下がっていろ。

 

「お気をつけて」

 

 おう。

 後ろ手に手を振って、石英と水晶の祭壇に昇る。

 てっぺんの黒い石に近づく。差し渡しは十五センチほど。

 それに手を伸ばした瞬間、世界が暗転した。




>男と女の間には深くて広い川がある
エヴァで有名だが、実は「黒の舟歌」という半世紀前の歌謡曲の一節。
歌手は紅の豚の人(加藤登紀子)であり、作詞は火垂るの墓の人(野坂昭如)である。
今回ググってみてびっくりしたw
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。