全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第二十八話 ダンジョン・コア

 気がつくと俺は懐かしくも忌々しい実家の談話室にいた。

 

「これカエラくんの実家ですねえ」

 

 え?

 思わず振り向いた先に杖を持ったエルフ。

 ジューニャ、お前何でここにいる?

 

「わかりません。私、コアに接触はしてませんよ?」

 

 困惑するジューニャに唸る。

 ダンジョン・コアは神の夢の中核だ。

 それに触れた人間はコアの作り出す精神世界に引きずり込まれる。自分の内面世界(インナースペース)、記憶の世界に。

 

「はい。同時にという例はありますが、その場合でも引きずり込まれるのは接触したか、ごく近くにいた人間だけのはずなのですが」

 

 だから全員下がらせてたんだがな。

 お前なんかしたか?

 

「万が一のことを頼まれたので魔術的接触はしてましたが、それ以外は・・・」

 

 カラテチョップ!

 

「痛い!」

 

 どう考えてもそれだ馬鹿!

 というかそんな真似出来るのか? そんな術持ってなかったよな?

 

「魔力というか、妖精族の持つ精霊力感知の応用ですね。感覚の手で魔力や精霊力に触れると言うか・・・」

 

 オーケー分からないけど分かった。お前にとっては取るに足りないことなんだな。

 人間からすれば想像もつかない事象だが。

 

「あー、確かに。人間は妖精族と違ってそうした能力を与えられてませんし。わからなくてもしょうがないですね」

 

 賭けてもいいがエルフの間でも異常だろう。立証は出来ないが。

 閑話休題(それはさておき)

 

「いつ頃の伯爵家でしょう?」

 

 多分お前が来る直前くらいかな。聞いた話の通りなら・・・来たか。

 扉が開く。入ってきたのはやはり七歳くらいの俺とフジだった。

 

「・・・」

 

 お茶の用意をするフジと、ソファに腰を下ろす「俺」。

 二人とも、それを眺める俺とジューニャには全く気付いていない。

 あくまで記憶の中の俺達って事か。

 

「兄様!」

「おう」

 

 お茶の用意ができたところでまた扉が開き、弟のヘルムが駆け込んできた。

 飛びついてくるのを「俺」が抱き留め、頭を撫でてやる。

 

「それでね、兄様。

 オーガスタスが・・・」

「うんうん」

 

 飼ってる子犬のことを話すヘルムに相槌を打ってやる「俺」。

 フジも後ろで控えながら笑みを浮かべ、時折会話に混じる。

 ああ、この場面は覚えている。

 無邪気に俺を慕ってくれる弟との、暖かい時間。

 あの家でも数少ない、幸せな思い出。

 それは突然に遮られる。

 

「ご歓談中のところ失礼しますわ、嫡子どの」

「!」

「・・・」

 

 フジとヘルムが身を固くする。

 入ってきたのは俺の継母、ゲルタだった。

 

「母様」

「ヘルム、お母様はお兄様と少し話があるの。いいかしら?」

 

 ヘルムににっこりと微笑むゲルタ。今なら分かる、嘘くさい笑み。

 

「ヘルム様、母上様は嫡子様と話がおありです。我々は控えていましょう」

 

 こちらも同じような笑みを浮かべるのはアルガン・ペカル。

 ゲルタの実家からついてきた騎士で、いつもこの女と一緒にいる。

 ハンサムな聖職者のような容貌をしているが、どこか粗野さと卑しさが見えた。

 

「さ、こちらへ。話の邪魔になるといけませんからね」

 

 手をさしのべるアルガン。ヘルムが「俺」を見る。

 「俺」が溜息をついて頷いた。

 まあ、母親と兄が言い争いをしている場面なんて、子供に見せたいものじゃない。

 振り返りながら部屋を出ていく弟に手を振ってやる「俺」。

 アルガンとヘルムが外に出てドアを閉めると、ゲルタがフジに目をやった。

 

「あなたも出て行きなさい。私は嫡子殿と話があります」

 

 フジが反抗的にその眼を見返す。

 

「私はカエラ様付きのメイドですので」

「母親の私が言っているのですよ」

「出ていく必要はないぞ、フジ。

 それに何を話すにしても、後で聞かせるんだ。外させる意味はないですよ、『母上』」

「・・・いいでしょう。では聞きますが、そろそろ将来のことはお決めになったのですか?」

 

 そう言われた「俺」が薄笑いを浮かべる。

 我ながらむかつく顔だ。

 果たして継母もあからさまに機嫌を損ねた。

 

「なんですその笑い方は。私はあなたの事を思って言っているのですよ。

 《剣の加護》も持たないものが継げるほど、ニシカワの家は甘くありません」

 

 今度は鼻で笑う「俺」。

 

「そう言うのを余計なお世話と言うんですよ。

 当主の座など大して興味もありませんが、あなたみたいな人間にくれてやるのも面白くない」

「なんですって、このこまっしゃくれたガキが! やっぱりあなたは当主候補としてふさわしくありませんね!」

 

 御年七歳のガキにこうまで言われて、当然継母としては面白くあるまい。

 だがその七歳のガキにここまで言うのだからお互い様だ。

 

「幸か不幸かマセた子供でしてね。それだからこうしてあなたと楽しい会話も出来る」

「はあ、まったく出来損ないはこれだから。やはり母親が悪かったのかしらね」

 

 ぴくり。

 「俺」とフジの表情が同時に動く。

 それを見た継母が、勝ち誇ったような表情を浮かべた。

 

「だってそうでしょう? ニシカワは初代『白のサムライ』様以来の剣の家。

 代々《剣の加護》を持つ立派な御当主様が続いてきたのに、直系のあなたが《剣の加護》を持ってないとは」

 

 険しくなる「俺」とフジの表情。

 

「まあね、お気の毒だとは思いますわよ。

 産褥がよろしくなくて、あなたが二歳の時に亡くなられたそうじゃありませんの。

 つまりあなたが殺したようなものでしてよ」

「っ!」

 

 激発しかけたフジを、「俺」が手で制する。

 もっともその「俺」もかなりマジ顔だ。

 それを余裕がないと見たか、継母の言葉はどんどんエスカレートしていく。

 

「これは失礼。でもねえ、生まれからして問題があるのですから?

 努力で補えない部分はあると思うんですの。

 できない事を目指すより、早めに見切りをつけて新たな道を探すというのは賢いやり方だと思いますわ」

 

 「俺」の顔から表情が抜け落ちる。

 無表情になった俺にも気づかず、調子に乗る継母は、ついに一線を越えた。

 

「考えてみればカエラさんもおかわいそうですわよね。

 身分卑しい家の女からお生まれになって、当然持つはずの《加護》もお持ちにならないで。

 あら、ひょっとしてタケシ(俺の父親)様以外の種でお生まれになったのでは? それでしたら納得も・・・」

 

 「俺」の顔から完全に表情が消えた。

 素早く立ち上がった「俺」は継母に――

 

「何てことを言うんですか! あなたはそれでもお母さんですか!」

 

 殴りかかる直前、激発したのはジューニャだった。

 

「な、何ですかあなたは! エルフ!?」

「・・・!?」

 

 「俺」、フジ、継母の三人が唖然としている。

 こいつらからすれば、舞台にいきなり観客が上がってきたようなものだろう。どういう理屈かはわからないが。

 

「言っていいことと悪いことがあります! しかも子供相手に!

 血が繋がってなくてもあなたはカエラくんのお母さんでしょう!

 何でそんなに酷い事を言えるんですか!」

「だ、だって私に全然懐かないし・・・そもそもあなたには関係ないでしょう! 下がりなさい、無礼者!」

 

 我を取り戻した継母(ゲルタ)が叱責するが、ビビリのジューニャが今は怯まない。

 

「無礼なのはあなたです! カエラくんに謝りなさい!

 七歳の子供なんですよ! 母親が、いいえ、大人が取っていい態度ではありません!

 だいたい・・・」

 

 ジューニャに肩に手を置く。

 ありがとうな。

 もういいよ、十分だ。

 

「カエラくん・・・」

 

 振り向いたジューニャを軽くハグして背中を叩く。

 もういい、十分だ。ありがとう。

 

「はい・・・」

 

 今までの激昂が嘘だったかのように、恥ずかしげにジューニャがうなだれる。

 その背後で、「俺」とフジと継母がぐにゃりと歪み、風景ごと消えて周囲が闇に閉ざされた。

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