全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第二十九話 記憶の中で

 場面が変わると、そこは岩作り・・・石の建物ではなくて、洞窟の内壁を削りだして作った部屋だった。樽や瓶が並んでいる。何らかの倉庫だろうか。俺の記憶にはない場所。

 

「あ・・・」

 

 ジューニャが顔色を変える。

 やはり、ここはジューニャのほうの記憶の世界らしい。

 それも恐らくは辛い記憶の。

 

 かたん、と軽い音がして扉が開く。

 入ってきたのはやはり「ジューニャ」だった。

 人間で言えば八才くらいだろうか?

 こちらのジューニャの体が硬くなるのが分かった。

 

「・・・!」

 

 手を握ってやると、感謝の表情で頷く。

 その間にも「ジューニャ」は樽に近づき、蓋を開け・・・中の酒を飲み始めた。

 

「おい」

 

 こちらのジューニャが、ついっと視線を逸らした。

 やがて「ジューニャ」は樽の酒を1/3ほど飲み干すと、顔を真っ赤にして寝っ転がり、いびきを立て始める。

 繋いだ手にじんわりにじむ汗。

 自分でも視線の温度が低下していくのが分かる。

 ジューニャが例のごまかし笑いを浮かべた。

 ・・・で? この後どうなるんだ?

 

「ええっとそのう・・・」

 

 時間の無駄だ、さっさと言え。

 

「・・・この後お酒を管理してるおじさんに見つかって、村人全員の前でお尻を叩かれました・・・」

 

 何だそんな事か。心配して損した。

 

「そんな事とは何ですかぁ! 未だに夢に見てうなされるんですよ!」

 

 お前の脳みそは進化が遅れてるらしいな。

 

「ひょっとしてけなしてます?」

 

 これがほめ言葉に聞こえるならいっそ尊敬するよ。

 やがて倉庫の中に中年のエルフ(エルフも歳を取るとちゃんと老けるらしい)が入ってきて愕然とした顔になると、バケツに水を汲んできて「ジューニャ」にぶっかけた。

 その後広場に人を集めて尻をめくり、百回ばかりも叩く。

 尻が真っ赤に腫れ上がった娘を両親が家に連れ帰ったところで場面は終わった。

 

「・・・ううう・・・」

 

 泣き崩れるジューニャ。

 うんまあ小学校低学年には確かに辛かろう。100%自業自得だが。

 手を振り払ってコブラツイストでもかけてやろうかと余程思ったが・・・何と言ってもこいつは、さっき俺をかばってくれた。俺のために怒ってくれたのだ。

 俺は数秒考えると溜息をついて、そのまま手を握っててやった。

 

 

 

 場面はそれからも何度か変わった。

 俺の方は継母のイジメがこれまでのように直接的ではなく、間接的になったこと。

 と言うのも前回の場面では、実際には俺がブチ切れて継母を半殺しにしていたのだ。

 継母の言動を聞いた祖父はさすがに激怒し、離縁して実家へ帰すとまで言ったらしい。詳しい事は知らないが継母の実家――デイヴァ侯爵家が謝罪・譲歩し、出戻りは免れたとか。

 いっそ出て行ってくれれば良かったのにと思うが、ヘルム連れて出て行かれることを考えると良し悪しか。

 

 ジューニャの方はもう少し波瀾万丈だった。

 魔術を学んで酒をくすねようとして大目玉を食らったこと。

 魔術で酒を造ろうとして、周囲も驚くほど熱心に修行を重ねた結果、挫折して涙にくれたこと。

 結局酒をくすねて、汗をかかされたら酒臭くてばれてお仕置きを食らったこと。

 森の中で猿が作っているという猿酒を探しに出かけて、狼に食われそうになったこと。

 

 ・・・酒ばっかりだな!

 ちなみに狼に襲われた時役に立ったのが、例の《発火》呪文による炎の剣だった。

 どうでもいい情報だが。

 

 互いの鍛錬の様子も見えた。

 ひたすら剣を振る俺。

 魔術の先生を呼んで、瞑想や精神修養、魔力を体内で動かす修行。

 俺の《波の加護》、フジの《畳の加護》、シルの《そろばんの加護》、ヒョウとレイの《双子の加護》の鍛錬と使い方のアイデアを出す為のブレインストーミング。

 タチバナやたまにジューニャも交えてうんうん唸ってるのは苦しいけど楽しかった。

 

 一方でジューニャはひたすら魔法の修行。

 ちゃんとしたお師匠様がいる分楽なような気もするが、どうもこの人、頭はいいし術力や魔力の生成も馬鹿げたレベルで高効率なんだが、その二つが結びつかないらしい。

 普通のエルフは例えば火とか風とかについての学識を学び、術力や魔力生成の修行をすれば自然と呪文を覚えるようなのだが、ジューニャに関してはそれがちぐはぐなのだ。

 なので、例えば火の系統について人の数倍学んでも初歩の呪文しか使えない。

 それはまあ、くじけもするか。

 なお食糧系の呪文についてのみ《発酵》や《蒸溜》と言った割と上級の呪文も習得出来たのは・・・まあ人の欲望は凄いよねって。

 

 

 

 そんなあれこれをくぐり抜けた後、俺達は真っ黒な空間にいた。

 中央に実体のない光の塊。

 これが・・・

 

「ええ。ダンジョン・コアの本体です。どうぞ手を」

 

 一歩下がって微笑むジューニャ。

 お前はいいのか。

 

「カエラくんのダンジョンですからね」

 

 では遠慮無く。

 両手をさしのべて光の塊を手に取ると、コアは驚くほどあっさりと俺の色に染まっていく。

 

「ああそうそう」

 

 ん?

 振り向くと、ジューニャがはにかむように笑っていた。

 

「手、繋いでてくれてありがとうございました。すごく・・・嬉しかったです」

 

 一瞬その笑みに心を奪われる。

 何かを言おうとして、その瞬間、世界が光に包まれた。

 

 

 

 気がつくと石英と水晶の祭壇の上にいた。

 手には15センチくらいの、石炭のようなダンジョン・コア。

 振り向くとコアに触れたときのまま、フジたちが心配そうにこちらを見ていた。

 ジューニャだけが微笑んで手を振ってくる。それであれが夢でないのだと理解した。

 ・・・フジ、俺がこれを手に取ってどれくらい経った?

 

「え?」

 

 意外そうな顔。他の面々も同じだ。

 違うのは「ああ」と手を打つレイとジューニャだけ。

 

「フジ、あれは手にすると心の中を旅するんだよ。その辺は冒険譚にも謳われてたぞ」

「多分こちらでは全く時間が経っていないのでしょうけど、内面世界での旅は時間の流れが違います。

 カエラくんはそれなりに長い時間を一瞬で経験してたんですね」

「そう言う事があるのですか・・・」

 

 感心したように頷くフジやタチバナ。

 一方でシルが鋭い目になっていた。

 

「『多分』? 『こちらでは』? どういう意味なんだよ、ジューニャ先生?」

 

 びくり、と震えるダメエルフ。自爆しやがったぞこいつ。

 

「その、それはですねえ・・・」

 

 またしても例のごまかし笑い。それじゃ白状しているようなもんだ。

 

「ひょっとして魔術か何か使って、ダンジョン・コアに接触したのかな? そんでもって、カエラちゃんの内面世界を一緒に旅したりしたのかな?」

「ええと、その、それは」

 

 ギャグマンガみたいにダラダラと流れる汗。

 あ、すげえ。汗が赤ワインになってる。

 こっちまで匂いがしてきたぞ。

 あれか、昨日一杯だけ飲ませてやった分か。

 

「そうなのですか、ジューニャ様?」

「やっぱりそうなのかあ・・・だとしたら、一人だけ許せないんだよ」

 

 ジューニャに詰め寄るフジとシル。二人とも目がマジだ。

 

「そ、それは・・・カエラくん助けてぇ!」

 

 やれやれだ。

 俺は盛大に、本日何回目かの溜息をついた。

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