全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
第三十話 お前達もう寝なさい
「立ち別れ いなばの山の 峰に生ふる まつとし聞かば 今帰り来む」
――百人一首、中納言行平――
「カエラくんー! ヘルプ! ヘルプみー!」
マジ顔のフジとシル。もはや涙目のジューニャ。
タチバナとレイは苦笑してるが止める気もなし。
はいはい、そこまで。
声をかけると一応フジとシルの動きは止まる。目は険悪なままだが。
迷宮を出るぞ、忘れ物はないか?
「ないと思います。皆様は?」
タチバナの言葉に全員が頷いたのを確認して、俺は手元のでかい石炭――ダンジョン・コアに意識を集中させた。
「え?」
「ほわっ!?」
「おお」
「・・・!」
「凄ぇ! 言い伝えの通りだ!」
「若様!? 他の皆様も!」
五人と地上で待っていたヒョウの驚きの声。
周囲にはそれなりに鬱蒼とした森と焚き火の光、テント、木々の隙間から見える星空、そして山の中腹に開いたダンジョンの入口。
「どういう事でしょうか?」
混乱している面々を代表してタチバナが問う。
「あ、そうか! ダンジョンの力を手に入れると、外まで瞬間移動出来るんでしたっけ!」
答えたのは俺ではなく、留守番していたヒョウだった。
レイとジューニャがうんうんと頷いている。
つまりダンジョン・コアを支配した俺はこのダンジョンの主になった。
ダンジョンマスターは内部のモンスターをコントロールしたり、ダンジョンの地形をある程度変えたりする他、ダンジョンの中を自在にテレポートで移動出来る。
その機能を使って、最深部から出口まで脱出したというわけだ。
特に重要なのはモンスターの生成を抑えたり外に出なくしたりも出来るということ。
つまりマスターがいれば暴走を起こさない安全なダンジョンとして運営出来る。これは大きい。
「かしこまりました」
「やっぱり表皮を貫通させるかどうかがキモだと思うんだよ。
高温でも油をかけて火をつけただけじゃ爆発しなかったし」
「賛同いたします。内部の油脂に着火出来るかどうかが炎上と爆発の境目ではないかと」
そうなると、火矢とか穂先に火をつけた投げ槍が有効か? クロスボウもいいな。
飛び道具なら爆発に巻き込まれずに済む。
ガチガチに耐火装備固めた前衛が炎の剣や斧をぶち込む手も無いではないが。
「手裏剣だとさすがに貫通力が――」
「――足りませんからねえ。そもそも火の魔剣やらを早々用意出来るのかって話もありますし」
「あれは意外と使い勝手が悪いという話も聞きますね。剣に油をかけて燃やすのと威力は大差ないとか」
トロールの再生封じとかにも使うが、蜘蛛の巣を切り払ったり明かり代わりにしたりといった便利道具としての利用が意外に多いらしいな。
「ダンジョンの中でドロップした火の魔鉄鉱があるでしょう。あれで武器を作れば燃える剣や槍が出来ますから、それを加工して貰って貸し出すのはどうでしょう?」
テントの中で盛上がる戦術談義。この辺を用意出来るかどうかで、ここが「おいしい」ダンジョンになるかどうかが決まる。
「あなたたち、もう寝なさい」
結局苦笑した
翌日、マット村に帰還。荷物が多いので半日くらいかかった。
魔力結晶以外にも昨夜話に出た火の力を秘めた魔法の鉱石とか、半永久的に超高熱を発する魔法の石炭とか、メチャクチャ美味しいひまわりの種とかオリーブオイルが何百リットルも出てくる樽、びっくりするほど綺麗になる石けんなんてのもあった。
「そう言えばダンジョンの名前はどうしましょう?」
「『マット・ダンジョン』でいいんじゃないですか?」
「地名だとありきたりなんだよ。せっかく油脂神の珍しいダンジョンなんだから、『ひまわりダンジョン』がいいんじゃないかな?」
確かにあんまりなさそうで耳に残るな・・・よし、ひまわりダンジョンで決定だ。
「うーん――」
「――まあいいですけど」
村に帰ったら、村人総出の大歓迎を受けた。
領主である俺が半月ほども音沙汰無しなのでみんな不安がっていたらしい。
ダンジョン・コアへの反応は微妙だったが、ガーディアンを倒したときの魔力結晶を見せたら大盛り上がりだった。
まあ石炭の塊と、直径1mの綺麗な水晶じゃな。
荷をほどくのもそこそこに、手紙を書いてロウに鳩を飛ばす。
目的はただ一つ、宣伝である。まあレンタル装備とかの発注もあるが。
ともかく前世の日本と違って情報の乏しい中世ファンタジー世界。
つまり巨大ワイバーンを退治した俺のうわさはまだそれなりに話の種になっている。
そこに新たなる燃料をくべて、ダンジョン人気の起爆剤にしようという話だ。
とは言え、ここは地の果てアルジェリア。王都まで一ヶ月のド辺境。
お客さんが来るには最短でもそれ位の時間がかかる。
ではその間何をするか――土木事業である。
たーおれーるぞー。
「く」の字に切れ込みを入れた木がめきめき、と音を立てて倒れる。
「抜きますよー」
残った切り株が《念動》の呪文で根っこごと引っこ抜かれる。
切り株は切り倒した木と同じく道の脇にどけられ、空いた隙間にフジが畳を敷き詰めていく。地面のでこぼこはジューニャの《念動》で削ったり、《土くれ》で埋めたりして整地。
オズの国に繋がる黄色いレンガの道ならぬ、ダンジョンに続く畳の道か。
幸せに続いてそうには見えないな。
「まあ収入には続いてるんじゃないかな、なんだよ」
オリジナル冒険者族によって翻訳されてるので普通に「オズの魔法使い」を知ってるシルが相槌を打つ。
金がなけば幸せを求めることも出来ないか。
世の中は世知辛い。
「だからみんな頑張るんだよ」
二人してしみじみする俺とシルである。
自分ひとりの懐でもつらいが、村や商会の財布を全部預かるとなるとまた別の感慨がある。
金を循環させないと世の中うまく回らないのだ。
こればかりはその立場になってみないとわかるまい。
「ほら、しゃべってないで次の木を切ってください。仕事をして頂けないと私もすることがありません」
へーい。
土木工事は二日で終わった。
その後木と切り株をジューニャが《念動》の呪文でダンジョン入り口に運び(建築材料+たきぎだ)、フジは迷宮入口周辺に畳の家を建てる。
出入りを管理してダンジョン使用料を徴収する仮事務所とか、冒険者用の仮宿とか、大工たちのための飯場とかだ。
将来的にはここにちゃんとした宿屋とか、ロウの商会の支店を出したい。
「夢が広がるんだよ!」
収入があるってのはいいもんだよな!
ダンジョン攻略もうまくいったし、当初の予定通り大工たちの契約を延長して、そっちの方も作って貰うか。
だが休んでる暇はないぞ。次はここに泊まり込んでダンジョンの中で実験だ。
まずはヒョウたちがひとっ走りして届けてくれたクロスボウの火矢と、炎の槍、耐火装備のテストからだな。
どうやればモンスターを効率的に倒せるか、それが今後の利益率にも繋がる。後は安全地帯の設置もしなきゃならん。
頼むぞみんな!
「えいえいおーっ!」
そして一ヶ月後。
「お久しぶりですわね、カエラさん?」
どうしてお前がここに、という顔のフジとシル。
驚きはしていないが厳しい顔のジューニャ。
扇で顔の下半分を隠し、俺の継母、ゲルタはにっこり笑った。
>あなたたち、もう寝なさい
おまえたちもう寝なさい。@バルディオスの皇帝陛下
マイナーロボットアニメの一瞬で死んだキャラがこんなミームになるのがインターネットの恐ろしさというかw
スパロボにまで出張したからなあ、このネタw