全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第三十二話 強奪

「若様! 若様!」

 

 兵士長(実質自警団長)のロージが扉を叩く音で目が覚めた。

 キングサイズのベッドには俺とフジ、シル、タチバナ。

 外を見るとまだ夜も明けてない。

 ただ事じゃなさそうだ。

 どうした!

 

「殺人です! ゲルタ様の護衛が、兵士たちを殺して、倉を破って逃げました!

 お持ち帰りになったダンジョンの石・・・ええと、あの黒い奴がなくなっています!」

 

 一瞬で目が覚める。

 素早く最低限の身支度をして、俺達は領主館を飛び出した。

 

 

 

 村長の家に着くと、ゲルタ一行が武装解除されて村の兵士に囲まれていた。

 さて、ゲルタどの。これはどういう事かな?

 

「私は何も知りません! あの者が勝手にしでかしたことです! この無礼な扱いを即刻やめなさい!」

 

 わめくゲルタを無視。殺意を込めた視線をアルガンに向ける。

 兵士たちを殺した護衛というのは?

 

「ま、マリネスキー商会から紹介された冒険者です。

 ベグイル殿によれば信用がおけて腕も立つ人物とのことでしたが・・・」

 

 完全にビビッてる。となると嘘ではあるまい。

 しかしアレン・ベグイルか。修道院の事件にも関わってたとおぼしき男だ。それでそいつの名前は?

 

「その、『ダブルエッジ』と名乗っていました。30絡みの特徴のない男でしたが、少なくとも秘印級(第二級)並の使い手なのは間違いありません」

 

 ダブルエッジ・・・「諸刃の剣」か。まあ本名じゃないだろうな。

 いささか物騒な名前だが、冒険者ともなればそんなものか。

 シル、そいつの顔は覚えてるか?

 

「結構細面の優男なんだよ。体にぴったりした革鎧を着ていて、戦士と言うよりは剣士とか盗賊とか、そんな感じの奴だったんだよ」

 

 言われて思いだした。ああ、あのちょっとうさんくさい男か。

 諜報員や工作員と言われたら結構しっくり来る感じだな。

 兵士たち・・・ダッカードとマンターロだったか、が殺されたときの状況は?

 

「双方正面からバッサリ袈裟懸けにされていたそうです」

 

 どっちも実戦経験はある奴だったな?

 

「二人ともご存じの通り元兵士で、ゴブリンを20匹は倒したことがあると言っていました」

 

 そうだな、それを買って自警団の兵士に抜擢したんだ。

 遺体のところに案内してくれ。

 ああ、ゲルタ殿。事態が解決するまでは一つの部屋に軟禁させて頂く。

 一時間ごとに点呼をして、一人でも姿が消えていたら全員処刑するからな。

 

「・・・」

 

 ゲルタとアルガンは何か言いたげだったが、結局素直にこちらの命令に従った。

 見張りを五人ほどつけて、集会所に閉じ込めておく。

 

 それを見届けてケイトーに指示。

 ヘルムはこちらに来させないでおけ。

 残念だが会わせるわけにはいかん。ルマをつけておくんだ。

 

「かしこまりました」

 

 ケイトーに後を頼んで遺体のところに向かう。

 倉の見張りは二人ずつ、六時間交代だった。第一発見者の朝組の兵士二人と、真夜中に二人と交代した兵士達からも事情を聞く。

 前の組と夜十二時に交代、朝六時くらいに交代の組が倉の前に行ったら二人が倒れていたと。

 

「はい、その通りです」

 

 ジューニャの魔法の明かりに照らされた遺体を改める。ロージの話の通り、二人とも首の左側から脇にかけて、袈裟懸けにバッサリ一太刀。直接の死因は首筋からの出血多量だな。

 

「血の固まり具合と硬直からして、多分交代した直後ですね、殺害されたのは」

 

 このエルフ医術にも造詣が深いから多分間違いあるまい。

 ・・・? 何か違和感がある。おい、あいつらの中でいなくなったのは一人だけか?

 

「間違いないんだよ。あの女の一行は19人。ヘルムちゃんといなくなった男を除いて17人。少なくともこの17人は昨日と同一人物なんだよ」

 

 シルが言うなら間違いあるまい。

 ジューニャ、あの17人の中で、魔法を使って顔を変えてたりする人間はいたか?

 

「うーん、《顔変化(オルター・フェイス)》で物理的に顔を変えてたりするとわかりませんけど、少なくとも幻術や魔道具で一時的に顔を変えてる人はいませんでしたね」

「領主様、何をお考えで?」

 

 いや、犯人はひとりだろう?

 けどふたりとも真っ向正面からバッサリやられてる。

 こいつらが発見されたとき、剣は抜いていたか? もしくは剣の柄に手をかけてたか?

 

「いいえ、どちらも・・・」

「あっ!」

 

 ロージは分かったようだな。

 正面から斬り伏せたなら、ひとり斬った時点でもう片方が反応しないとおかしいんだよ。

 素早くふたり斬り伏せた可能性もゼロじゃないが、その場合両方とも首の左側から袈裟懸けってのがおかしい。連続して斬ったならもっと違う切り口になる。

 そこに倉の様子を見に行かせた双子が戻ってきた。

 どうだ?

 

「若様の――」

「――お考えの通りでした」

 

 鞍の前の土に残ってた足跡は八つ。

 殺された二人の分。前夜夕方から真夜中までの見張り二人の分。第一発見者の二人の分。

 そして現場をあらためたロージと犯人の分。つまり犯行は単独と言う事になる。

 

「と言うことは二人を同時に倒せる術か《加護》の持ち主ということですね」

 

 そうだ。

 攻撃魔法か高速機動か金縛りのたぐいか・・・剣の腕自体も秘印級と言うんだから中々やっかいだぞこれは。

 それでヒョウ、レイ。なくなっていたのはやはりダンジョン・コアだけか?

 

「はい――」

「――間違いありません」

 

 魔力結晶や金貨に手を出さずコアだけを狙ったのは、その価値を分かっているからだ。

 ジューニャの顔をちらりと見る。

 くそ、こいつが物体の位置を探る術とか持っていればな。

 ダメ元で聞いてみるが、呪文か何かでダンジョン・コアの場所が分からないか?

 

「え?」

 

 そんなことを聞いたら、きょとんとした顔をされてしまった。

 まあ分かっていたけどな。お前がそんな難しい術を習得してるわけがない。

 

「カエラくんひどくないですか?! 大体場所を知るだけなら私に頼る必要ないじゃないですか!」

 

 なぬ? どういうことだ?

 

「ダンジョンマスターになった時点でコアとカエラくんの間には霊的な接続があるんですから、それを辿れば大体の位置はわかるでしょ!」

 

 そうなの!?

 そう言う事は先に言ってくれ!

 

「接続した時点で普通分かりません?」

 

 エルフでも術師でもない俺にわかるか!

 具体的にはどうすればいいんだ。

 

「うーんと・・・まずあのコアをイメージしてみて下さい。それで自分の中から、何か外に伸びるものがあると思いますのでそれを感じて下さい」

 

 出来るのかなあ。

 

「《加護》をあれだけ使いこなしているカエラくんなら、コツを掴めばすぐだと思いますよ。

 《加護》というのは精霊魔法、あるいは真なる魔術に似たある種の生得魔術だというのがエルフの術師の間では定説ですし」

 

 ふーむ。まあやってみるか。

 その場で集中してみる。自分の中に・・・お、本当だ。何か紐みたいなものが繋がっているのを感じる。

 それは北に伸びて・・・ダンジョンの入口近く!?

 その瞬間、ぶっつりと接続が切れた。

 最後に見えたのは陰険そうな優男。間違いない、「ダブルエッジ」だ。

 

「・・・ダンジョンコアの所有権を上書きされましたね。かなり危険な状況かもしれません」

 

 そう言えばそういう事ができるんだったな。

 今は奴がダンジョンマスターってわけだ。

 しかしダンジョンの所有権を書き換えて何を?

 まさか自分がダンジョンの権利を握って大もうけとかそう言う話でも・・・あっ!?

 

「まさか!?」

 

 その可能性に思い当たった俺とジューニャが顔色を変え、外に駆け出す。

 

「カエラ様!?」

 

 驚きながらも俺に追随するフジたち。

 くそ、遅かったか!

 外に出た時点で俺達の足が止まる。

 歯がみする俺とジューニャ、呆然とするフジたち。

 夜明け前の暗い空。

 その暗闇の中、北の山が真っ赤な光を放っていた。




>ダッカードとマンターロ
ソードワールドとT&Tソロ・アドベンチャーのサンプルキャラから。
後者は「無敵の万太郎」ってのは当時でもどうかと思ったw
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