全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第三十三話 迷宮暴走

 燃える北の空。

 呆然とする一同。

 

「いったい何が起こっているんですか?」

 

 その中で、いち早く冷静さを取り戻したのはタチバナ。それに答えたのがジューニャだった。

 

「恐らくは"迷宮暴走(スタンピード)"です」

「なんだってぇ?!」

 

 うるさいぞ、ロージ。

 

「も、申し訳ありません。しかし、間違いないので? そもそもそんな事が人の手で起こせるんですか?」

 

 ダンジョンマスターはモンスターを抑えてダンジョンの外に溢れないように出来ると言う話は聞いたな?

 だったら逆も出来るだろうと思わないか?

 

「っ・・・」

 

 事の重大さを理解して絶句する一同。

 ダンジョンを活性化させ、モンスターの生成を増やしてそれをダンジョン外に解き放つ。

 その地の領主への復讐のため、実際にそれをやって処刑された男の話がニシカワ家の古文書にあった。

 迷宮暴走が終わるまでに村三つと町が一つ消え、伯爵家が一つ断絶したそうだ。

 

「うわあ・・・」

 

 タチバナ、ダンジョンまで行って様子を見てきてくれ。無理はするな。

 

「かしこまりました」

「え、ヒョウかレイじゃないんだよ? 二人は離れてても話が出来るんでしょ?」

「ですねえ」

「ですよね?」

 

 ハテナマークを浮かべたシルとジューニャとロージ。

 逆にニヤリと笑みを浮かべる俺とニンジャ母子四人。

 これは一般には知られてない情報だし、シルにも伝えていない。

 日本からの先人がたくさんやって来て影響を与えまくったこの世界に転生して十年ほど。

 当然誰か伝えているだろうと思ったものが存在していなかったことに気付いた。

 

 ()()()()()()

 もちろん光の術で何らかの合図を送るという発想はフジたち影の一族にもあった。一回点滅すれば安全、二回なら危険、というように。

 しかし光の点滅で文字を表現して文章を送る技術は彼らも持っていなかった。

 多分知識を持っていたオリジナル冒険者族はいたが、秘匿して自分たちだけで使っているのだろう。どこかの商会とか、あるいはフジたちのような間諜集団とかが。

 それで俺はこの世界の文字を表すモールス信号を作り、それをタチバナたちに教えたのだ。

 今のところこの事は俺達五人しか知らない。影の一族は基本俺に同情的だが、それでもお家大事でゲルタの側につく奴がいないとも限らないからな。

 そしてタチバナは光と闇の術に関しては達人一歩手前の優秀な術者だ。

 恐らく北の山からでもこちらに光を届かせることが出来るだろう。

 

「そう言う事です、皆様。それではヒョウ、レイ、フジ。カエラ様のことは任せましたよ」

 

 俺と子供達が頷くのを見て、タチバナは身を翻して駆け出した。

 あっという間に小さくなるその背中を、ロージは唖然と見ている。

 ぼけっとしている暇はないぞ。

 村人全員を避難させる必要がある・・・まずは全員叩き起こしておくか。

 

「若様、何を?」

 

 お前達耳を塞いでおけ。

 

「? はい」

 

 全員が耳を押さえたのを確認して、俺は声を張り上げた。

 

「全員起きろ! 領主のカエラだ! 迷宮暴走の恐れがある! 指示に従って村の東に避難しろ!」

 

 《波の加護》による音波の増強。つまりは簡易拡声器だ。多分村の大半には届いたはず。

 元からそろそろ村人たちも起き出してくる時間だ。これで大体は目が覚めたろう。・・・ん?

 

 そこで俺は、フジたちが頭を抱えて突っ伏してることに気がついた。いかん、やり過ぎたか。

 大丈夫か、聞こえるか? 苦笑と共に全員が頷く。

 ヒョウはまだ寝てる奴がいないかどうか確認してきてくれ。レイはここで合図を待て。フジたちは俺について来い。

 

「かしこ――」

「――まり!」

 

 返事と共にヒョウの姿が消え、俺達は村長の家に向かって走り出した。

 

 

 

 例によってギャアギャアわめく元継母を蹴り出して村の外に追い出す。

 護衛に影の一族が二人付いてきてたのが助かった。

 アルガンは「避難しないならたたっ切る」と言ったら素直に従ったしな。

 

 同時進行でケイトーたちと村長に命じて、ヒョウが向かわなかった方の村人を叩き起こして避難させる。

 肩すかしになればいいが・・・そう考えて10分ほど。

 準備を整え、フジの入れた香草茶を飲んでいると、レイが食堂に駆け込んできた。

 

「母から連絡が来ました! 『迷宮暴走(ダンジョン・スタンピード)』です!」

 

 くそっ。嫌な予感ってのは外れて欲しい時だけ当たるもんだ。

 モンスターの進行速度は?

 

「それほど早いわけではないようです。詳しくはこちらにて、直接お伝えすると」

 

 タチバナがそう判断したなら問題はないだろう。

 そうして十五分ほどしてからタチバナが戻ってきた。

 無事だったか、良かった。

 

「ダンジョン入り口付近に赤い光が灯っているのが見えました。モンスターで余り近づけませんでしたが」

 

 ダンジョンの工事がまだ始まっていなくて幸いだったな。

 しかしそれだとダブルエッジは確認出来なかったか。

 

「はい。確認出来たのはこちらに向かってくるモンスターたちだけです。

 オーガーにジャイアントリザード、ロック・トロール、ジャイアントバット、モールワーム・・・見たところあのダンジョンでも中層から下層のモンスターばかりかと」

 

 ゴブリンとかは踏みつぶされたかね。速度は?

 

「早いもので乗用馬程度・・・今から三十分から五十分ほどかと。一時間はかからないでしょう」

 

 ふむ・・・フジ。タチバナでもレイでもいいが、ダンジョンで使ったあの揮発性の高い油はまだあるか?

 

「え? ええ。ございますが・・・」

「カエラちゃん、火をつけるだけじゃあいつら効かないんだよ?」

 

 分かってる。今回はあの油、そしてジューニャが鍵になる。

 

「私ですか?」

 

 ああ。ともかく俺達は村の北で奴らを迎撃する。

 ついてこい。

 

 

 

 その後、丁度戻ってきたヒョウをケイトー達のところに走らせ連絡役に。

 例によって俺がジューニャ、フジがシルを背負い、農地を囲む獣避けの畳の壁を抜けて走った。

 村から数キロ、ヒョウとレイの心話がギリギリ届くくらいのところで二人を下ろす。

 今や赤い光は北の山全体を照らしていた。

 カチカチ山・・・いや、燃える地獄の針山と言ったところか。

 無数の影が山の表面をうごめいているのが見える。

 恐らくは迷宮暴走であふれ出たモンスターたちだろう。

 

「ここからどうなさるのですか?」

 

 さっき言ったろう。影一族の油と、ジューニャがカギだ。

 準備はいいか。

 そう言うと緊張した顔でジューニャが頷く。

 

「は、はい。何をすればいいでしょう。村を助けるためなら何でもします」

 

 ありがとう。

 それでだな。

 

「はい」

 

 脱げ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ?」

 




昔「エルフを狩る者達」って漫画があってね・・・(ぉ
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