全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第三十五話 ダブルエッジ

 脳が揺さぶられる。

 腹に響く轟音。

 音も限度を超えると、それは耳に感じる音ではなく、身体に感じる震動になる。

 畳の障壁越しにもかかわらず内臓を殴られるような衝撃。

 それが突然ふっと消えた。無くなったわけではないがほとんどが消える。

 

「これは・・・?」

 

 タタミ・シェルターの周囲には未だに爆風が渦巻き荒れている。

 音と震動だけが断たれていた。

 

「そうか、カエラちゃんの仕業なんだよ? カエラちゃんによれば音も波な訳だから・・・」

 

 正解。空気や地面を伝わる振動・・・つまり波を、俺の《加護》で打ち消したのだ。

 さすが付き合いが長いだけはあるな。

 

「えへへー」

 

 撫でてやるとニッコニコになるシル。

 ヘルムが大型犬ならこいつはお座敷犬だな。

 

「・・・何か視線が生暖かいんだよ」

 

 お前がかわいいからな。

 

「フォローするならもうちょっと心を込めるんだよ!」

 

 さて、外の爆音も収まったようだしちょっと覗いてみるか。

 よっと。

 

「カエラちゃん!」

 

 騒ぐシルを無視して外を覗くと・・・正しく地獄絵図だった。

 焦熱地獄ってのが現実に存在するならこんな光景だろう。

 風が耳元で唸り、見渡す限りの平原が燃えている。その上昇気流によって更に風が吹き、新鮮な酸素が供給されて更に燃えさかる。

 炎の中に動くものはいない。

 

「・・・いったい何が起きたんですか?」

 

 服で体の前だけ隠しながらも呆然とするジューニャ。

 喜べ、大半はお前の仕事だぞ。

 

「草原を焼くような真似をして喜ぶエルフはいません!」

 

 そりゃそうか。

 つまりだな、油は燃える。

 

「はい」

 

 そして激しく、一瞬で燃えると燃焼は爆発を伴う。

 大量にあればなおよしだ。

 

「あ・・・つまり、油を霧にして周囲にまき散らしたのは」

 

 そう。広範囲に噴霧すると同時に、一瞬で燃焼しやすくするためでもあったわけだ。

 いわゆる気体爆薬をイメージしたんだが、思った以上にうまくいったな。

 

 そして爆発は衝撃波を伴う。

 外皮を貫通しない限り、ダンジョンの油脂モンスターは炎上はしても爆発はしないが、この規模の爆発にはさすがに耐えられなかったと言うわけだ。

 表皮が破れて体内のナパームに着火、自爆してこのとおりよ。

 

「うわあ・・・」

「まさに地獄絵図なんだよ」

「かなり近くまで火が来てますね。私たちも早めに避難した方がよろしいのでは?」

 

 タチバナの進言にふむと頷く。

 この辺は赤茶けた荒野でろくに草も生えてないから延焼の心配もないか。

 よし、村まで戻る・・・

 

「!?」

 

 全員が正面を向いた。

 地響き。

 平原全てを灼き尽くす業火と黒煙の中、何か巨大なものが動いている。

 あの巨大ワイバーンより更に大きいシルエット。大雑把に人型。

 

「あれは・・・」

「最下層の守護者(ガーディアン)なんだよ!」

 

 黒煙を通して見えるシルエットは確かにそれっぽい。

 だが距離を考えると身長は30m、最下層にいた奴の三倍近いぞ!?

 本来守護者(ガーディアン)は一度倒されると再生しないはずだが、ダンジョン・コアを支配していればこんな事もできるのか。

 

「そう言う事だ。一つ勉強になったな?」

「!」

 

 突風が走った。

 炎が割れ、道が出来る。

 焦熱地獄の中に出来た一本の道を男が歩いてくる。

 右手に短めの剣。左手にダンジョン・コア。

 「ダブルエッジ(諸刃の剣)」を名乗る自称冒険者。

 陰険そうな表情を浮かべたまま、そいつはニヤリと笑った。

 

 

 

 お前何者だ。誰の差し金で行動している。

 

「さあ、誰だろうな? お前の継母か、マリネスキー商会の大番頭か。

 あるいはお前の祖父か、マリネスキー男爵かもしれんぞ?」

 

 薄笑いを浮かべたままのダブルエッジ。

 その表情からは何も読み取れない。

 分かるのは、こちらの事情にかなり詳しいと言う事くらいか。

 

 地響き。

 そうしている間にも巨大化ガーディアン、熾火(おきび)の巨人が近づいてくる。

 「いいぜ、パッティー。やってみろよ」って感じだな。

 

「何です、今の?」

 

 『アリーノ』の名セリフだよ。お前も一緒に何度か見ただろ。

 そう言うとフジの片眉が跳ねた。

 

「・・・もう一度やってもらえます?」

 

 いいぜ、パッティー。やってみろよ。

 

「救いがたいほどに似てませんね。劇作家と役者への冒涜です」

 

 そう言う時は世辞でも似てるって言うもんだぞ。

 

「世辞と追従は甘い猛毒です。虫歯になるのが分かっていて、せがむ子供にあめ玉を上げる大人はいません」

 

 同い年だろうが。

 

「知らないんですか? 男と女では、女の方が成熟が早いんですよ?」

 

 鼻の頭にそばかすくっつけてるくせにナニ言ってんだかな。

 

「刺しますよ?」

 

 手を上げて降参のポーズをする俺。苦笑する他の面々。

 まあそろそろマジメに・・・

 

「そうそう。カエラ様がお亡くなりになったら、わたくしも後を追いますのでそのつもりで」

 

 思わず吹いた。この状況で何言ってるんだお前は!

 

「何もへちまも、わたくしはカエラ様の所有物ですから。

 今更一人では生きていけませんし、他の誰かの所有物になるのもごめんこうむります。

 そうなると選択肢は一つしかないでしょう?」

 

 だからちゃんと生きて帰ってきて下さいね、とにっこり笑って俺を脅迫する所有物(フジ)

 おかしいな、奴隷って普通もっと従順なもののはずだが。

 

「わたくしは十分従順だと思いますが?」

 

 ああ、そうだな。ただ重いだけだ。

 

「女性に向かって重いはデリカシーに欠けますね、カエラ様」

 

 いいんだよ、お前は女じゃなくて俺の所有物なんだから。

 そうやって馬鹿な事を言い合ってると、苦笑を浮かべたタチバナが割って入った。

 地響きはすぐそばまで来ている。

 

「楽しいおしゃべりも結構ですが、そろそろ時間がございません、若様」

 

 らしいな。フジ、お前の判断で畳の防壁を出せ。

 ジューニャは全員に《鎧》を。

 シルは支援と回復に備えてくれ。

 タチバナとレイは全体のフォローを。

 

「かしこまりました」

「カエラちゃんはどうするんだよ?」

 

 決まってる。

 俺の視線の先で薄笑いを浮かべるあいつと、こっちに歩いてくるあのデカブツをぶった切るんだ。

 

「オッケー! 任せておくんだよ!」

 

 

 

「むっ!?」

 

 戦いはまばゆい閃光と、ダブルエッジの驚きの声から始まった。

 《閃光(フラッシュ)》の呪文。

 光と闇の術なら印を組むだけで発動出来るタチバナの早業。

 秘印級と言えどもそれをまともに食らったのではたまらない。

 それによって生まれる一瞬の隙。

 震動する西川正宗と、そこから生まれる光の刃。

 バネ足ダッシュで一気に距離を詰め、闇を切り裂く光の剣を巨人に振り下ろす。

 オリジナルの熾火の巨人同様、特に防御力場とかそう言うのをまとっている節はない。

 その上迷宮は狭かったから、こちらも全力でのフォノンメーザー斬りは出せなかった。

 ならば全力のこれで勝負は付く。

 そう思っていた。

 

「!?」

「なっ!」

 

 驚きの声が口々に漏れた。

 フォノン・メーザーが・・・砕かれた!?

 

 

 

 巨神に向けて振り下ろされた光の剣。

 それが粉々に砕かれた。

 驚愕の余り、一瞬動きを止めてしまったのは我ながら修行が足りない。

 あの瞬間、ダブルエッジの持つ剣から妙な力場が伸びてフォノン・メーザーを「叩き折った」のだ。

 そして更なる驚愕。

 動きが止まった俺に、踏み込んできたダブルエッジの、切り上げの二の太刀。

 それはかろうじてかわしたが、鎧をかするように振り抜かれたそれがジューニャの発動していた《鎧》呪文を砕いた。

 三太刀目を正面から西川正宗で受け止める。

 魔法強化された刀の霊気が、その一瞬揺らいだのを俺は見逃さなかった。

 ただの鋼にしか見えなかった右手の剣が今はオレンジ色に輝いている。

 魔力を破壊し、魔道具の永続的な魔法強化すら揺るがす神代の合金・・・うそだろ、こんなもんがまだ現存してたのか。

 俺の表情からそんな思考を読み取ったのか、ダブルエッジがニヤリと笑う。

 

「そうとも。これは我が家に伝わる滅魔合金(オリハルコン)の剣。

 カエラ・ヴォロディア・ヴィクトリアス・ヴァレンタイン・ニシカワよ。

 貴様の先祖に討たれた我が先祖が使っていた剣だっ!」

 




>気体爆薬
FAEとか燃料気化爆弾とかサーモリック爆薬とか言われるもの。
古くはナチスが研究開発していたとか。
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