全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第三十六話 百年の因縁

 ご先祖に討たれた迷宮暴走(ダンジョン・スタンピード)犯。

 迷宮暴走(ダンジョン・スタンピード)を起こしたダブルエッジ。

 おいおいおいおい、まさかとは思うが・・・

 

「そうとも。ダンジョン・コアを奪って迷宮暴走(ダンジョン・スタンピード)を起こし、三つの村と一つの町を滅ぼして、当時の『白のサムライ』と戦い、敗れて斬首されたケイン・リッターのひ孫が俺さ!」

「カエラ様、それって・・・」

 

 ああ、うちの古文書に載ってた迷宮暴走(ダンジョン・スタンピード)犯だ。

 名前まで一致してるから間違いないだろう。

 まさかとは思うが迷宮暴走(ダンジョン・スタンピード)のノウハウでも残してやがったか。

 

「ああ。そんな事を実行しようと考える馬鹿も、実行出来る実力の持ち主もご先祖以来俺が初めてだったがな」

 

 そりゃそうだろうよ。

 で、なんだ。百年以上経ってから仇討ちに来たのか?

 ダブルエッジがまた薄笑いを浮かべる。

 

「それもなくはないがな。どちらかというとついでだ。

 ご先祖様の古文書を活用するチャンスがあって、しかも因縁のあるニシカワ伯爵家の人間を相手に出来る、美味しいところどりの依頼だったというだけさ」

 

 っ!

 噛み合っていた剣を外し、バネ足で大きく後ろに跳ぶ。

 直後、俺達の立っていた位置を中心に熾火の巨人のナパームブレスが炸裂した。

 

「カエラ様!」

 

 咄嗟にフジが畳の壁を立て、炎の海と俺達とを区分けする。

 

「ははは! はははははは!」

 

 炎の中で高笑いするダブルエッジ。

 ナパームはその周囲をよけて燃えさかっている。

 

「風の術です。彼の周囲を風の精霊が守っています」

 

 なるほど。

 ひょっとして兵士二人を殺したのもあの風の精霊か?

 

「鋭いな。その通り。我が家に伝わる風霊術だ。こうして我が身を守ると共に、攻撃する事もできる・・・こんな風にな!」

 

 畳の壁から顔を出した俺に、見えない「何か」が迫ってくる。

 咄嗟に高周波震動剣を振ると、何かを切り裂いた手応えがあり、衝撃があった。

 

「ほう、さすが。ならこれはどうかな!」

 

 歩みを止めずにいた熾火の巨人が、ついに俺達の眼前に到達する。

 咄嗟にみんなから離れて右に跳ぶ。

 

「踏みつぶせ! 熾火の巨人よ!」

 

 巨大な足が俺の方に迫る。

 いくらフジの畳が頑丈だからって、あんなものは防げない。俺自身を的にしてかわすしかない。

 俺は剣に集中し、再びフォノン・メーザー斬りを放つ。

 その瞬間、またしてもオリハルコンの剣が振られる。

 飛来した滅魔の刃によって、光の剣が叩き折られた。

 

「私の先祖はお前の先祖の放った『飛ぶ斬撃』によって敗れた。

 先祖も『飛ぶ斬撃』を習得してさえいれば、負けることはなかったろうにな!」

 

 やっぱりあれ『飛ぶ斬撃』の応用か。

 パネェな、おい。

 

 『飛ぶ斬撃』は《剣の加護》を持つ剣士の奥義と言われている。

 まあ気とか魔力とか、そう言うものを斬撃にして飛ばす技だ。

 俺のフォノン・メーザー斬りも広い意味ではこれに入る。

 奴はそれを応用して、滅魔合金(オリハルコン)の反魔法力場を斬撃の形にして飛ばしているんだろう。

 俺の高周波震動剣も魔力を介しているから、接近戦に持ち込んでも単純に剣と剣の勝負になる。秘印級の剣士を純粋な剣の勝負で打ち負かすのは俺でも簡単ではない。

 

 それだけならやりようはあるが、問題は後ろに控える熾火の巨人だ。

 こいつのブレスはフジじゃないと防げない。

 熾火の巨人に通用する火力の持ち主は俺だけだが、ダブルエッジがいる限りフォノン・メーザー斬りは無効化される。

 だが他の面々がダブルエッジを攻撃しようにも、奴はナパームの炎のただ中で風の精霊に守られている。

 うん、中々良い感じに王手かけられてるな。

 だがまだやりようは・・・

 

「まだ勝てると思ったか? 甘いな」

 

 !?

 ダブルエッジが薄笑いを浮かべると、熾火の巨人の背中が爆発した。

 背中から無数に散らばった炎の固まりが地面に落ちると、むくりと起き上がる。

 最初、ナパームの炎に隠れるほどだったそれは見る見るうちに巨大化して、身長4mほどの熾火の巨人のミニチュアになる。その数、百以上。

 

「・・・!」

 

 誰かが息を呑む。

 炎の燎原に無数に立ち上がる燃える巨人たち。

 その中央に立つ大巨人。

 それらが全て、一斉に体を膨らませる。

 フジッ!

 

「はいっ!」

 

 俺がみんなと合流するのと同時に畳が屹立する。直後にナパームの嵐が吹き荒れた。

 

「っ!」

「タタミが焼き切れ・・・」

 

 次の瞬間、今度は爆発によって俺達が吹き飛ばされる。

 大丈夫か!

 

「な、何とか!」

 

 全員燃えているが、ジューニャが張った《鎧》の呪文がある。実質負傷者はいない。

 だがこのままでは・・・

 

「どうした、逃げてもいいんだぞ? その場合お前の村は焼き尽くされ、お前の名も地に落ちるがな!」

「若様」

 

 タチバナが何か言いたそうなのを手で黙らせる。

 名前はどうでもいいが、あの村は俺の村だ。

 俺と、フジたちと、村人たちが協力して作った村だ。

 夏には早生の麦も実り、秋には春植えたばかりの陸米が収穫出来る。

 それをこんな奴にどうこうさせるのは我慢ならん。

 逃げたい奴は逃げていいぞ。

 

「そうおっしゃると思ってました。子供の時からこうと決めたら頑固なんですから」

 

 笑ってるんじゃねーよ、フジ。

 他の連中もだ。

 まあいい、逃げる気がないなら地獄の底まで付き合って貰おうか。

 そう言うと全員が頷いた。小声で作戦を伝達する。

 ダブルエッジが笑みを大きくした。

 

「そうか、なら仲良く地獄に行くがいい!」

 

 熾火の巨人とその「子供」達の胸が再び膨らむ。

 ブレスの前動作。その数、百体以上。

 だが、呪文も印も必要ないジューニャの方が一手早い。

 

「《水生成(クリエイト・ウォーター)》!」

「!?」

 

 次の瞬間、莫大な量の水がダブルエッジと熾火の巨人たちの上に降り注ぎ・・・いや、雪崩れ落ちてきた。

 恐らくは数十万トンの水が、鉄槌となって叩き付けられる。

 

「うおおおお!?」

 

 熾火の巨人たちの全身から激しい蒸気。

 本体は耐えたが、分身たちは転倒し、流される。

 ダブルエッジもまた、そうした分身達の上に立って流されるのを免れた。

 

「ばかめ、こんな一時しのぎ・・・!?」

 

 その目が驚愕に見開かれる。

 水が流れている間は到底素早い動きなど出来ない。

 水が消えたら炎が復活する。ナパームの火は水中に放り込んだ程度では消えないのだから。

 だから例の光の剣さえ注意していればいい。

 そんな事を考えているんだろう。

 それは正しい。正しいがゆえに誤りだ。

 

 ダブルエッジが絶句したのはフジの作った防水壁を飛び越えて、水の上を走ってくる俺を見たから。

 これももちろん《波の加護》のちょっとした応用。

 水素結合力だかファンデルワールス力だとかそんな感じ。

 水の上を歩いているので多分水素結合力だろう。知らんけど。

 

「キェェェェェイッ!」

 

 剣叫と共に俺の渾身の一撃が振り下ろされる。

 右手に剣、左手にダンジョン・コア。片手だけで俺の両手の振り下ろしは防げない。

 どうする?

 奴は一瞬だけ迷った後、コアを手放して剣の腹に左手を添え、両手で俺の剣を防いだ。

 正解だ。ダンジョン・コアで俺の剣を止めようとしたら、もろともにぶった切るつもりだったからな。

 だがそこまで俺の術中。

 

「ぐっ・・・なっ!?」

 

 俺の剣を押し返そうとした奴の目に再び驚愕の色。

 瞳に映るのは空中を飛び跳ねてくるタチバナ。

 その足元、空に畳が浮かんでいた。

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