全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
タネはこうだ。フジがジューニャの呪文に続いて畳を複数「射出」する。
子供の時に俺が出したアイデアの最後の一つ、畳手裏剣。
質量で敵をはじき飛ばす、忍者らしからぬ泥臭い切り札。
それを複数空中に射出し、ジューニャの《念動》で保持。
流れる水の上を歩けなくとも、空中に数枚の畳が浮かんでいれば足場には十分。
「風霊よ・・・っ?!」
風の刃で迎撃する瞬間、ダブルエッジが動揺した。
タチバナの姿が三つに分裂したからだ。
咄嗟に一振りの大きな刃ではなく、広範囲の細かい刃に変えてタチバナを迎撃するダブルエッジ。
左端を除いた、二人のタチバナの姿が消えた。左端のタチバナが着地して荒い息をつく。
「なんだ・・・ニンポーと言う奴か!?」
「ええ、忍法分身の術・・・もっとも、始祖様は七分身を操ったそうですけどね」
影の一族に伝わる光の術の奥義。光学的幻影を生み出して敵を眩惑する分身の術。
初めて見たなら、それは驚くだろうさ。
そしてここまで全てが前振りだ。
「いっただきいっ!」
「あっ!」
母親の影に隠れてこっそり畳を渡ってきたレイが、ダブルエッジの足元に転がったダンジョン・コアをかっさらって離脱する。
いかにダブルエッジが秘印級の剣士とは言え、俺の剣を両手で防いでいるうえに風霊も動かしてしまったこのタイミング、対応することはできない。
撤収っ!
「はいっ!」
軽傷を負ったタチバナをフォローしつつ後退する。
追撃で放ってくる「飛ぶ斬撃」と風の刃を、フォノン・メーザー斬りで軽く迎撃。
そちらに出来ることは、こっちにも出来るんだぜ。
「ちっ・・・だがお前らに勝ち目はない!
ダンジョン・コアの所有権を上書きするような時間は与えん!
それとも逃げるか? 逃げないよなあ!」
確かにそれはそうだ。
ダンジョン・コアを手放したとはいえ命令権は依然として奴にあるし、まっさらのコアを支配下に置くのに比べ、管理者権限の上書きには遥かに時間がかかる。
そして逃げたらダンジョンは取り戻せても村は焼かれる。
だからな、ダブルエッジ。
切り札はもう一つあるんだよ。
がちゃがちゃ、バチバチという音。
剣戟や風、叫び声に紛れて気付かなかったそれに、奴はようやく気付いたらしい。
薄暗い空中に無数に浮かんでいる四角い何か。
それがバチバチと、木のぶつかり合うような音を立てている。
「何だ・・・あれは・・・
正解。
シルの持つ《そろばんの加護》。
そろばんスケートで遊ぶことも出来るが、その本質は計算能力・・・つまり情報処理能力の強化だ。
通常のままでもシル言うところの「頭の中のそろばん」で人並み外れた思考力や記憶力を発揮出来るが、これを体の外に複数出現させて、外部処理装置として使うこともできる。
名付けて《無限珠算》。この状態のシルは、スパコン並みの情報処理を一人でこなせる。
そして重要な事だが・・・魔法の使用もまた、情報処理なのである。
《
名前の通り精神のポテンシャルを最大限に発揮させる強化魔法。
非常に処理が重く発動に数時間もかかるため、瞑想か特殊な精神治療くらいにしか用いられない。
ただし、《無限珠算》という外づけCPUとメモリを持つシルなら話が別だ。
「カエラちゃん!」
おう、よこせ!
「《
瞬間、呪文の効果が俺を包んだ。
爪の一枚、髪の毛一本にすら神経が通るような感覚。
波動感知を展開したときのように、周囲の「波」が全て感じられる。
それらの情報を処理しつつ、俺の精神には微塵の乱れもない。
自分と、世界と、その繋がりを完全に理解し、シンクロした状態。
即ち明鏡止水。
「・・・そんな呪文がなんだ! 消えない炎に焼き尽くされるがいい!」
畳を出しまくったフジはさすがに疲労困憊している。
恐らく出せて後数枚。
周囲を包囲した熾火の巨人の分身達が一斉に炎を吐いてきたら対応は出来ない。
ジューニャでさえ魔力は尽きかけており、タチバナも似たようなものだ。
シルとレイにはこの状況をどうにかするような手札はない。
「死ねぇ!」
びしょ濡れになり、薄笑いを浮かべる余裕もなくなったか、狂ったように剣を振り回して熾火の巨人たちに命令を下すダブルエッジ。
巨人たちの胸がふくらみ、ナパームが吐き出され・・・そして爆発した。
「うおおおおおおおお!?」
何度目かの驚愕の声。
俺達のではない、ダブルエッジのだ。
爆発したのは俺達ではない。
俺達の周囲だった。
ナパームは綺麗にはじき飛ばされ、円形の空白地を描いてその周囲を焼いた。
もちろん石炭の巨人が炎で倒れはしない。
「くそ! 二発も三発も防げるか! 続けて・・・」
ダブルエッジが命令を下そうとした刹那、俺が左腕を振る。
目に見えない「波」が走り、左側の分身数十体が粉々に吹き飛び、爆発した。
やはり爆風とナパームは空白地の外側に飛び、俺達には一滴たりともかからない。
「ど・・・どういう事だ!? 波?」
ほう、そこは見て取れるのか。さすがだな。
俺の周囲100メートルは今、言ってみれば魔力のドームで覆われている。お前達もその中にいる。
そのドーム内部に波を起こし、衝撃波として叩き込むとこうなるんだ。
右手の剣を振ると、今度は右側の分身達数十体が同様に爆発した。
「・・・馬鹿な。エルフの術師や
今俺は、シルの呪文によって強制的に潜在能力の全てを引き出された状態にある。
それに燃料である大量の魔力結晶があれば不可能ではない。
攻防一体、《波の加護》最大の奥義。
そうだな、こう名付けようか――『波動陣』と。
「ふざけるな! ニシカワの小せがれ如きが!
百年だぞ! 俺達は百年以上この機を待ったのだぞ!
貴様如きに――!」
うるさい。
再び吹き付けられるナパームのブレスと風霊の斬撃と、本体の巨人の拳。
衝撃波がそれら全てを跳ね返し、フジたちを守る「陣」内部には僅かの衝撃も伝えない。
分身達が全て吹き飛び、本体の巨人が仰向けに倒れた。
「くそおっ! だが《加護》ならこの剣で!」
咄嗟に本体の足に隠れて衝撃波から逃れたダブルエッジが、滅魔の斬撃を放つ。
同時に俺の衝撃波。
二つがぶつかった瞬間奴の斬撃は空中でかき消え、逆に衝撃波に吹き飛ばされた奴は炎の中に落ちて消えた。
それと入れ替わりのように熾火の巨人が立ち上がる。
最後に受けた命令に従って、俺達を殺そうと拳を振り上げ、叩き付けようとする。
忠義ご苦労。お前の役目はもう終わりだ。
剣を構える。波動陣を構成する魔力が収束し、巨大な波動の剣となる。
斬!
ダンジョンにいた同類と同様、巨人は真っ向唐竹割に切り裂かれ、巨大な爆発が起きた。