全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
「やりましたね」
「お見事でございます、カエラ様」
お前たち全員のおかげさ。
「そーだよ! わたしがいなかったら勝てなかったんだからね! ちゅーするんだよ、ちゅー!」
お前は状況を考えろ。
特大熾火の巨人の爆発。
それは半径100mを越えて、波動陣の周囲をすっぽり包み込む業火を発生させていた。
見渡す限りの火の海。
その状況でこう言う事を言い出せるこいつは、やっぱりどこかおかしい。
まあ疲労困憊して脳がバグってるのかもしれないが。
改めて周囲を見渡す。見事に火の海で、取りあえず退避するしかあるまい。
草薙の剣でもあればどうにかなるだろうが・・・ん?
「いかがされました、カエラ様」
ほれフジ、あそこ。
「・・・あっ」
「ぐわあああああああああああああああああああああああ!」
熾火の巨人の起こした爆発のほぼ中心、炎の中で人型の何かがもがいている。
波動陣の衝撃波とあの爆発を食らってよく生きてるな。
「多分風霊の守りと相殺してダメージはかなり減じたんでしょう。それでも・・・」
ああ。立ち上がる力は残っていないようだな。
「くそぉ! どうして! どうしてぇ! オリハルコンの剣が・・・!」
ああ、それか。
単純にエネルギー量の差だ。
線状に収束させるのが精一杯のお前の飛ぶ斬撃と、面どころか立体で押し寄せる波動陣の衝撃波をぶつけたら、それはああもなるだろうよ。
歴史上最初のオリジナル冒険者族である「始まりのサムライ」は飛ぶ斬撃で海を割ったと言うが、斬撃で海は割れても津波を防ぐことは出来ないんじゃあないかな。
「ぐががが・・・おごおっ!」
何かを言おうとして、ダブルエッジはついに力尽きた。
炎の中に崩れ落ち動かなくなる、百年越しの模倣犯。
じゃあな。もう化けて出てくるなよ。
頬に光を感じて振り向くと、東の空から夜明けの太陽が顔を出していた。
村までは数キロ。歩いて帰れる距離だが、ヒョウに連絡を取って貰い馬車を呼ぶ。
流石に全員疲労困憊していた。
この世界の魔力は体力生命力を練って生み出される。つまり魔法を使えば肉体的に疲れる。
多少なりとも余裕があるのは、その手の《加護》や術を持ってないレイくらいだ。
ナパームの炎はまだ燃えさかっているが、上昇気流が起こっているせいで周囲から風が吹き付けてくる。煙に巻かれて窒息する危険はない。
安心して俺達は腰を下ろした。こうすると疲れがどっと襲ってくるなあ。
体力のないシルなんかは地べたに転がって溶けている。
一方でジューニャはもたもたと今頃服を着ている。
肌がてかてかと油で光ってる・・・つくづく引火しなくて良かったな。
その手伝いをしながらフジが炎を見上げた。
「冬ならこの火もありがたいんでしょうが」
もう夏だからな。暑いだけだ。
タチバナは傷は大丈夫か?
「シル様に癒して頂きましたので」
魔力切れと大規模演算による疲労で脳が溶けたシルを膝の上に乗せて頭を撫でながら、タチバナが微笑む。
そこに割り込んで来たのは服を着たジューニャ。
「カエラくん。お話があります」
今暇だからいいけどなんだ? ここじゃないとできない事か?
「責任とって下さい」
はい?
「だから責任とって下さい!」
だから何のだよ!?
「嫁入り前の娘の服を剥ぎ取っておいて、それはないでしょう! もうお嫁に行けません! 責任とって下さい!」
ええええええええええええええええ。
いや、いくらなんでも裸見ただけでそれは・・・と思ったが、周囲は違うようだった。
えーと、シル。
これ俺が悪い奴か?
「・・・あの時は必死で考えてる暇がなかったけど、言われてみたらその通りなんだよ。
カエラちゃんがお嫁さんにするか、少なくとも嫁ぎ先を見つけて上げなきゃいけない案件なんだよ」
不本意そうながらもジューニャの肩を持つシル(男爵家令嬢)。
うんうん頷くフジとタチバナとレイ。
「ですよね!? 責任とって下さい!」
涙目で俺に迫ってくるジューニャ。
いや、俺人間、お前エルフ!
下手に関係持ったりしたら後で辛いことになるぞ!?
そう言うとジューニャが途端にモジモジし始めた。
「あーその・・・カエラくんは結構いじわるですけど、かわいいし、頭が良いし、それにたくましくてかっこよくなりましたし・・・エルフじゃないのを差し引いても、まあありかなって・・・」
どきん、と跳ねる俺の心臓。どれだけチョロインだよ俺。
いや、外見だけなら確かに俺の理想そのものだし、酒絡みの駄目な点さえなければわりかしこう、性格も理想的なのだ。頭が良いし優しいし包容力もあるし。
そう言う事なら引き受けるのもやむを得ないが・・・あ、いや待て。
俺の側室なり愛人になるってのは、つまりあれだ。
例の隷属契約書にサインさせるって事だぞ!?
「え? 何か問題あるんですか?」
ところがその辺説明したらこの女、きょとんとした顔でそんな事を言いやがった。
いや問題大ありだろう。かくかくしかじかで俺の奴隷になるんだぞ?
そう言うとこいつ、にっこりと微笑みやがった。
「愛というのは互いに隷属することですよ。自分の意志でそうするのであれば素晴らしい事じゃないですか」
・・・。
「・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
絶句するしかなかった。
タチバナまでもが唖然としている。
やべえ。俺達が思っていた以上にピュアッピュアだ、この女。
どこの箱入り娘だよ――!?
「ジュ、ジューニャ様。ちょっとこちらへ」
「はい?」
冷や汗を浮かべたタチバナが、ジューニャの手を取って俺達から離れた。
20mほど離れた所でぼそぼそ話し始める二人。
時折「えぇ?」とか「ホントですか!?」みたいなジューニャの声が聞こえてくる。
どうしようこれ。