全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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挿話 輝く汗は美しい

「なんでワイン一杯だけなんですかぁぁぁぁぁぁ!

 昨晩は一瓶飲ませてくれたじゃないですかぁぁぁぁ!?」

 

 俺が初恋を遂げた翌朝。

 汚い悲鳴が感慨を台無しにしてくれやがった。

 昨晩は迷宮暴走阻止したお祝いだから特別に決まってるだろ!

 というか毎晩ワイン一本飲むつもりだったのか!

 

「だってタチバナさんが、お嫁さんになったら毎晩飲み放題ですって・・・」

 

 集中する視線。もちろんタチバナの笑顔はこの程度では崩れない。

 

「あら、そんな事は申しませんでしたよ? 今よりお酒を許して頂けるかもと、それだけで」

「そんなぁぁぁ! 嘘つきぃぃぃ!」

 

 おまえな・・・そんな理由で隷属契約書にサインしたのか・・・?

 図星だったらしく、駄エルフがびくりと震える。

 

「まあまあ。それだけではないのも確かですから、若様」

 

 そこは理解してるがなあ。

 溜息をつくと、俺の耳元でタチバナが囁いた。

 

(それに、初恋をお遂げになれたでしょう?)

 

 今度はびくんと俺が震える番だった。

 何で知ってんの!?

 

(あら、若様に乳を含ませたのはわたくしですよ? 隠し通せると思わない事です)

 

 ぐぐ・・・。

 

「母様・・・?」

「ちょっとタチバナさん! 何か私の知らないカエラちゃんの秘密知ってるんだよ!?」

「それはもう、生まれた時からお世話をしてきましたので」

 

 おほほほと笑ってフジとシルの追求をかわすタチバナ。

 こいつには一生かなわないかもしらんなあ。

 

 まあそれはともかくジューニャ。

 話を聞いたときから思ってたんだが、酒を飲みたいならお前にぴったりの仕事があるぞ。

 

「ホントですか!?」

 

 まばゆいばかりに顔を輝かせる現金な駄エルフ。

 ああ、注文したものをロウが持ってきてくれてからの話になるがな。

 

 

 

 半月後。

 

「・・・これはなんでしょう?」

 

 目の前のものをマジマジと凝視するジューニャ。

 見てわからんか? 鉄の檻だ。足元まで鉄格子で、上から吊す鎖が付いている。

 平たく言うと人間サイズの鳥かご。外を覆う布も完備だ。

 どこかの変態貴族が使ってたものをロウが引き取ってきたやつ。

 広い納屋は清潔に掃除され、空の樽が並べられていた。

 

「あの、まさかとは思いますが」

 

 ジューニャに蒸溜酒を飲ませてこいつに入れて、《汗の加護》で蒸留酒の汗をかかせて、樽に入れて売る。この村でもワインは作ってるから、それにジューニャの《蒸溜(ディスティル)》の呪文をかければ、技術も設備投資もいらずにブランデーのできあがり。

 蒸留酒は結構いい値段がするから、大量に売りさばけるならかなりの収入になるはずだ。

 もうブランドロゴも出来上がってるんだ。美人エルフの肖像画が入っててな、「この人が作ってます!」って感じに宣伝する。 ブランド・アウジュニャだな。

 何故か固まっていたタチバナが再起動する。

 

「・・・人の汗ですよ? それを他人に飲ませるんですか?」

 

 ばれなきゃ問題あるまい?

 

「今真の邪悪を見ました」

「私もなんだよ」

 

 別にいいだろ、ワインだって女が足で踏んづけて作るんだし。

 若い娘が口の中でクチュクチュしたものを吐きだして酵母代わりにする酒だってあるんだぞ。

 

「関係ありませぇん! 私に裸になってここに入れって言うんですか!?」

 

 大丈夫だ、鉄格子は念入りに洗ってある。今度は下着を着ててもいいし、隠すための布もこのとおり。

 

「そう言う問題じゃないです!」

 

 この仕事をするなら、毎日蒸留酒をグラス一杯飲めるぞ? 晩酌のワインとは別にだ。

 

「ぐっ!?」

 

 頭を抱えて悶え苦しむ駄エルフ。

 おーおー、プライドと欲望がせめぎ合っておるわ。

 そして数分後。

 

「ゆ、指ぬきグラスじゃなくて」

 

 オンザロックの大きいグラスで飲ませてやる。

 

「わかりました・・・」

 

 こうして酔いどれエルフの薄っぺらいプライドは、欲望の前に完全敗北を喫したのであった。

 

 

 

 数日後、ダンジョン目的の冒険者が初めて村に来た。

 村の送迎馬車でダンジョンまで運ばれていく彼らを横目で見つつ、出発するロウと握手。

 荷馬車の中にはエルフ印蒸留酒の樽が山と積まれている。

 まずは第一陣の売れ行き次第だな。

 

「元手がほぼタダなんです、薄利多売で行きますよ」

 

 タダなんだから、いくらでもいい値段つけられると思うが。

 そう言うとロウがニヤリと笑う。

 

「商人にはこう言う格言があります。『一人から金貨一枚を盗むより、千人から銅貨一枚を盗め』ってね」

 

 なるほどね。商人なんてドロボウみたいなもの、か?

 

「みたいなもの、じゃなくてそのものですよ。

 ともかく市場をもぎ取ってしまえばこっちのものです。量産は利くんでしょう?」

 

 むしろしばらく仕事を休めと言ったら酒が飲めないと泣いてたからな。

 追加注文は早めに頼む。

 

「了解しました。すぐに鳩を飛ばしますよ」

 

 笑顔のロウが実に頼もしかった。

 

 

 

「あの、お酒の再生産まだですか? 注文があるならどんどん働かせていただきますが!」

 

 翌日、そわそわしながらジューニャが聞いてきた。

 どれだけ飲みたいんだお前は。

 ともかく在庫を抱え込んでも仕方ないし、売れ行き次第だから当分は・・・と言いかけて一つのアイデアが閃いた。

 「蒸留所」で待ってろ。用意してくる。

 

 

 

「変な味ですね。何ですかこれ?」

 

 ・・・まあ色々役に立つ液体だよ。

 ともかく量はそれだけで十分か?

 

「ええ、一口飲めば問題ありません」

 

 ジューニャが「鳥かご」に入り、液体がしたたり落ちてくるのを見て、俺はちょっと罪悪感にひたっていた。

 実はあの液体、肥料なのである。

 材料は硝石、とりのふん、植物の葉を燃やした灰。

 窒素、リン酸、カリウムといった肥料の三大要素を全て満たす超優秀肥料。

 ちなみに硝石は近所に鉱脈なんてないし、ロウを通じて購入してもやっぱり高くつく。

 ではどうやって手に入れたかというと・・・うんこである。

 肥料にするべく発酵させていた人間や家畜のうんこを、ジューニャの《発酵(ファーメント)》の呪文で瞬時に数年分の発酵過程を経て生みだした硝石なのだ。

 つまり、奴が最初に飲んだのは・・・

 

 

 

 三日ほど出させると、予備を含めても村の畑全てに撒けるだけの量が溜まった。

 ごくろうだったな。これは褒美だ。

 

「うわあ、すごい! 最高級のメットー・ウィスキーじゃないですか! 飲んでいいんですか!?」

 

 ・・・今回はよく働いてくれたからな。次も頼むぞ。

 

「はい! はい! こんなお酒飲ませて貰えるならいくらでも働いちゃいますよ私!」

 

 満面の笑顔が心に痛かった。

 なお、例の納屋が村人の間で「とりのふん製造所」と呼ばれてる事を知って、ジューニャが泣きながら怒鳴り込んでくるまで後三日。




>ブランデー
蒸留酒というのは醸造酒の水分を飛ばしてアルコール濃度を高めたものですが、
果実酒を蒸溜したものがブランデー、穀物酒を蒸溜したものがウイスキーです。

>硝石 
>とりのふん
>植物の葉を燃やした灰
主な肥料には植物そのものを大きくする葉肥(はごえ、窒素)、
実や花をつけやすくする実肥/花肥(みごえ/はなごえ リン酸)、
根っこを発育させる根肥(ねごえ、カリウム)があります。
硝石は窒素とカリウム、鶏のふんはリン酸、草木灰はカリウムやマグネシウムを含みます。
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