全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第一章「王宮の鬼姫」
第二話 幼馴染み


「心のやさしい鬼のうちです。どなたでもおいでください。おいしいお菓子がございます。お茶も沸かしてございます」

 

      ――泣いた赤鬼――

 

 

 

 びくん、と震えた後小刻みに震え続ける「赤鬼」。

 おい、まさか本当にエフティ。おまえなのか。

 

「う・・・ああ・・・」

 

 「赤鬼」が地面に崩れ落ち、顔を覆って泣き声を上げる。

 

「おいこの野郎!」

「俺達の団長に何しやがった!」

「領主様でも承知しねえぞ!」

「『飛竜殺し』がなんぼのもんじゃい!」

 

 それと同時に周囲の荒くれどもが一気にいきり立つ。

 いやだから! お前らも見てたろ! 俺何もしてねえよ!

 

「ふざけんな!」

「お前が何かやったんだろ! こう――魔法とか!」

「そうだ! 俺らに見えない《加護》かなんかで何かやったに違いねえ!」

 

 んな無茶苦茶な。

 殺気立った傭兵たちは俺の肩を掴んで詰め寄ってくる。

 中には剣の柄に手をかけるやつも。

 

「カエラ様!」

 

 さすがに顔を険しくしたフジが駈け寄ってくる。

 こちらも右手は既に刀の柄。

 

「ザッケンナコラー!」

「ナニよそ見さらしとんじゃい!」

「貴様の犯した罪に真っ向正面から向き合えィ!」

 

 だから罪って何の・・・わぷっ!?

 

「のわっ!?」

「がぼっ!」

 

 いきなり大量の水が空から降ってきた。

 雨とかじゃない、プール一杯分くらいの水が落ちて来るというか叩き付けられる。

 フジがあわてて後ろに跳んだ。

 俺としゃがんでいた「赤鬼」はかろうじて耐えたが、傭兵たちはまとめて流される。

 これは・・・ジューニャの《水生成(クリエイト・ウォーター)》か。

 びしょびしょになりはしたが、ナイスだ駄エルフ。

 振り向いてサムズアップすると、ジューニャも笑顔で親指を立てて返す。

 それと同時くらいに傭兵たちが正気に返った。

 

「な・・・なんじゃい!?」

「あ、あっちのエルフの魔術師の仕業じゃねえか!?」

「エルフ!?」

 

 一斉に立ち上がって剣を抜く傭兵たち。

 身のこなしもかなりのもので、腕利き傭兵団って噂は嘘じゃないらしい。

 

「え? え?」

 

 先ほどとは違う、完全な戦闘モードに入った傭兵たちにジューニャがうろたえる。

 まずいな、このままだと刃傷沙汰になりかねない。

 少なくとも刃物は収めさせないと。

 

「何やってんだい、このバカども!」

「ぐわっ!?」

 

 いい音がした。

 頭を抱えてうずくまる傭兵A。

 その後ろには明らかに俺より一回りでかいマッソーなおばちゃん。

 手には大きめのフライパン。

 恐らくはこれがガイシャの後頭部をどやした凶器と思われます、デカ長。

 

「何すんだよハーラ!」

「お黙り!」

 

 すげえ、剣士級(第三級)だろう男を迫力で黙らせた。

 腕なんかどう見ても俺より太いし、ただ者じゃないなこの人。

 

「ほら、ニムちゃん立てる? それでええと、領主様ですか? すいませんけど、こっちに来ちゃ貰えませんかね?」

 

 あ、ああ。

 手を引かれて立ち上がる「赤鬼」。

 俺は戸惑いつつそれについていった。

 毒気を抜かれて立ちすくむ傭兵たち。

 唖然としていたフジたちがあわてて追ってきた。

 

 

 

 女性たちの生活場所だろう、幌馬車の一つに「赤鬼」共々連れ込まれる。

 

「すいませんね、狭い所で。どうも野郎どもには聞かせられない話のようですし。

 ほら、何やってんだいあんたら! さっさと散りな! あ、領主様のお付きの方はそのままで結構ですよ」

 

 大声で吼えると(睨みつけるとかそう言うレベルではない)、周囲に群がっていた傭兵たちが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。よほどこのおばちゃんが怖いらしい。

 後で聞いたら「女人喰い鬼(オーガレス)」ってあだ名で親しまれている?そうだ。さもありなん。

 「赤鬼」は馬車の床にぺたんと座ったまま。フジたちは馬車の外、元から中にいた女性たちも外に出て、性懲りもなく近づこうとする男どもを追い払っている。

 

「えーと、それでですね。ひょっとしてですけど、ニムちゃんの・・・」

 

 角が自前って話なら知っている。

 

「! そうですか・・・昔のお知り合いで?」

 

 親友だよ。

 そう言うと、赤鬼の兜の下からまたくぐもった泣き声が漏れ始めた。

 何泣いてるんだよ、馬鹿。

 こつん、と兜をこづいてやる。

 

「ほら、ニムちゃん。兜外すからね?」

 

 おばちゃん・・・ハーラさんが手際よく留め金を外し、フルフェイスの兜を脱がせる。

 下から現れたのは金と赤のメッシュのざんばらな短髪。

 額の生え際から伸びた二本の角。

 そして涙でべしょべしょに濡れた頬。

 よう、久しぶり。随分美人になったじゃないか?

 そう言うと、十年ぶりに会った俺の友人、エフティことディテク王家第二王女エフリーティ・エル・レイン・ドネは泣きながら俺に抱きついてきた。

 

 

 

「その・・・なんだ、わりぃ。みっともないとこ見せちまったな」

 

 十数分後。

 ようやく落ち着いたエフティが照れ笑いをしている。

 そこは子供の時と変わらないで安心する。

 しかし立派になったなあ。角が。

 

「角がかよ・・・って、こら、触んな!」

 

 いいだろ、減るもんじゃなし。

 そうやってじゃれ合ってると本当に昔に戻ったようで思わず笑みがこぼれる。

 こいつの名前はエフリーティ・エル・レイン・ドネ。この国のマジモンの王女だ。

 

 ただ見ての通り角が生えていて、しかも怪力。

 五歳くらいの時から大人の男を軽々と投げ飛ばすくらいの力があった。

 付いたあだ名が「鬼姫」。腫れ物扱いで、後宮の一角に閉じ込められていた。

 友達も話し相手もろくにいないのを気の毒に思った先々代の国王、エフティの祖父が昔馴染みの親友・・・つまり俺の祖父に相談し、俺が連れてこられたってわけだ。

 出会った初日に大喧嘩して打ち解けて、それからも時々王宮に伺候してお相手ってやつを務めてたんだが、ある時からぱったりと呼ばれなくなった。

 しばらく後にエフティのじいさんが死んだので、多分庇護者を失ったエフティは王宮からも追い出されてどこかに閉じ込められてたんだろう。

 ちらり、とおばちゃんの方を見る。それからエフティの方を見ると、首を横に振った。

 まあさすがに秘密にしてるか。女たちの中で知っているのはフジだけなので、こっちにも目配せ。軽く頷いてくれる。察しが良くてありがたい。

 んでエフティ、この何年か何やってたんだ? 話したくなきゃいいが。

 

「まあ・・・そんな大した事はねえよ。じいさんが病気になったら家から追い出されて、変な山奥の城に閉じ込められてさ。

 そこを逃げ出して、ここに拾われて剣振って、先代が死んだ後ガラじゃねえのに後釜に座らされちまって・・・まあ、みんなが助けてくれてるからなんとかやってる」

 

 また照れ笑いするエフティ。

 いやあ、お前の人徳だろ。愛されてるな。

 

「馬鹿、恥ずかしい事言うな!」

 

 はたかれた。照れ隠しにしろ力が強い! まあ口には出さないが。

 

「それよりお前のほうがすげえだろ。そっちも家を追い出されたのにあんなでかいワイバーン真っ二つにして、こんなでかい村作って、ダンジョン踏破してんだろ? いい領主様じゃねえか」

 

 みんなが助けてくれてるからさ。

 馬車を覗き込んでるフジたちを親指で指す。

 三人が(シルは身長が足りないのでジューニャに抱えられたまま)笑顔で一礼した。

 

「あ・・・ひょっとしてお前、カーヴェと一緒にいたちっこいメイドか? フジだっけ?」

「覚えて頂き恐縮です、エフリーティ様」

 

 フジがもう一度一礼する。

 ちなみにカーヴェってのは俺のこと。

 フルネームがカエラ・ヴィクトリアス・ヴォロディア・ヴァレンタイン・ニシカワ(長いって)で、イニシャルがKVVVNなのでKV3、略してカーヴェである。

 エフティが笑って手をひらひらと振る。

 

「まあ、ニムでもエフリーティでも好きにしてくれ。けどエフティって呼んでいいのは・・・」

「カエラ様だけですね、心得ております」

 

 フジの言葉に、エフティは照れくさそうに笑ってボリボリと頭をかいた。

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