全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
昼を食べた後、エフティ達「真紅のオーガ」団は自前の馬車と馬でダンジョンに向かっていった。
領主印押した手紙持たせたから、宿屋の連中も融通利かせてくれるだろう。
うーん、と伸びをして執務室へ向かう。
「カエラ様。昔の約束とのことですが、また村をお空けになるつもりで?」
フジが眉をひそめる。
ダンジョンまでの往復自体はバネ足ダッシュなり生体活性化馬なりでどうにでもなるが、最下層まで本格的に探索するとなると、最短ルートを通っても往復で十日はかかる。
つまりその間村の政務が滞るわけだ。
ま、その間くらいはケイトーに任せてれば大丈夫だろ。今日一日使って、片付けられるものはみんな片付けてしまおう。
「お約束は確かに大事でございましょう。ですが、今は村もダンジョンも大事な時期。仕事は決して少なくはないのですぞ。ご自分がこの村で最も重要な人間だと御自覚下さいませ」
で、ケイトーに話したら、めっちゃ睨まれた。
別に約束だけで行くわけじゃない。視察だよ。
この村の大きな収入源になるダンジョンが、実際にちゃんと稼動しているのかどうか確かめるのも必要だろ。
「だとしてもご自身でダンジョンの最下層まで向かうのはいかがなものかと」
しょうがないだろう、これは接待でもあるんだ。
「接待・・・ですか?」
いぶかしげな表情のケイトー。
そうだ。詳しくは明かせないが、傭兵団の長はさるやんごとなき家の出だ。
実家との関係を考えれば好印象を持って貰うに越したことはない。
俺の状況は知っての通りだからな。コネは一つでも欲しい。違うか?
「むむむ」
ちなみに傭兵や冒険者に貴族や騎士の家を継げない次男坊三男坊が参加するのは良くある話である。継承権がない彼等が選択出来るのは、僧侶か軍隊かの二択だけなのだ・・・おい、フジシルジューニャ。何故白い目を俺に向ける?
言っておくが嘘はついてないぞ。言ってないことがあるだけで。
「・・・」
ケイトーはしばらく俺を睨みつけた後、肩を落として深い溜息をついた。
「若様は本当に・・・口が達者というか自分の欲求を通すだけの材料を集めるのがうまいというか」
「まったくです。カエラ様が詐欺師にならなくて心底ホッとしていますよ、私は」
おい、ケイトー、フジ。何意気投合してるんだ。
シルとジューニャもうんうん頷くな。
「若様の手に負えなさを一番理解しているのが私どもですので」
「被害者同士が愚痴り合うのは自然な心の働きでは?」
うるせーな。いいから納得したなら口じゃなくて手を動かせ。
仕事が多いと言ったって、住民千人に満たない開拓村だ。今日一杯仕事すればしばらくはケイトーたちだけでも回るだろ。
「その通りではありますが、あれからまた人口もぼつぼつ増えて、もう九百人を超えております。これくらいになるともう村と言うよりは街と言っていい規模ですからな・・・」
まあそれはそう。
実際農業じゃなくてサービス業で生計を立てる者達も出て来てる。ロウの言ったように伯爵領規模になるのも遠い未来の話ではないかも知れない。
まあそれはいい。いいから仕事だ。あるだけよこせ。俺はダンジョンに行くんだ。
そう言うと、その場にいた俺以外の人間が全員溜息をついた。
いや、一人はエルフだが。
翌朝、早起きして軽く朝食をかきこむとシルとジューニャを馬に乗せ、フジは徒歩で追随させて俺達はダンジョンに向かった。
ダンジョン前の小集落・・・まあ入口を塞ぐように作った事務所と、宿屋と、ロウ商会の出張所しかないが・・・で用意を整えた「真紅のオーガ」団と合流。
傭兵や冒険者ってのは宵っ張りだと思ってたが、そうでもないんだな。
「まあ普段はそうなんだけどさ。さすがに仕事の時はな」
なるほど。エフティの言葉に頷く。
ずらりと顔を並べたフル装備の傭兵たちが二十人ほど。中年のおっさんから俺と同じ位の若いのまでいるが、どいつもこいつもふてぶてしい面構えで頼もしい。全員《
レンタル装備はどうする?と聞いたら、何とエフティが下げてるのが炎の魔剣らしい。と言う訳でアーバレストと耐火装備をワンセットずつ。
そう言えば兜はかぶってないんだな。鉢金(額を守る防具)だけか。
「あれ重いし見えづらいし好きじゃねーんだよ。
まあそりゃそうだな。俺もフルフェイスの兜なんてかぶりたくない。
それより最初の隊形はどうする? というかダンジョン経験はどれくらいあるんだ?
「ナイとか何人かのベテランは・・・」
と言いつつ、重そうな鎧を着たハゲヒゲ巨漢のおっさんを指すエフティ。
「結構経験豊富で、トロールをやった事もあるが、オレ含めて若いのは経験無しだ。
まあさすがにゴブリン程度にはおくれを取らないだろうけど・・・」
ほお、剣士級がトロールに勝ったのか。そりゃ大したもんだ。
そう言うとナイのおっさんがハゲ頭をかいた。
「いやあ、一匹のトロールを20人で囲んで、長槍や飛び道具も使っての事でしたから、余り期待されても困りますぜ。
ご領主様は一騎打ちで倒せるんでしょうが」
まあな。多分エフティなら真っ向勝負で倒せそうだが・・・そうだな、入る前にちょっと腕を見せて貰おうか。
俺は脇差し代わりに差していたオリハルコンのショートソード――命名「クサナギ」を抜くと、適当な、まっすぐな枝に向けて二回振る。
「?」
「・・・え?」
最初意味がわからずにきょとんとしていたエフティ達だが、木剣サイズに切り落とされた枝が落ちてくると、戸惑いはどよめきに変わった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
「『飛ぶ斬撃』!」
「嘘だろ?!」
「俺初めて見た・・・」
中でもエフティはぽかんと口を開けている。
「お、おい。お前《剣の加護》持ってないんじゃなかったのか? なんだっけ・・・《ぱちゃぱちゃの加護》みたいな変な《加護》じゃなかったか!?」
《波の加護》な。変は変なりに鍛え方を考えてみたのさ。
大体、空飛んでるワイバーン真っ二つにするならその手の技持ってなきゃ無理だろ。
「ああ・・・そりゃそうか。うん?」
高速震動剣で小枝を適当に落とし、片方をエフティに放る。反射的にキャッチした枝を不思議そうに見るエフティ。俺は右手の枝を軽く振った。こんな感じかな。
そら、久々の「チャンバラごっこ」だ。どれだけ腕を上げたか、師匠として見てやろう。
その言葉に、エフティが獰猛な笑みを浮かべる。
「いいぜ。実戦経験の差って奴を思い知らせてやる。
叩き伏せられて泣きべそかくなよ、『師匠』!」
互いに笑みを浮かべた俺達が木剣を握り、青眼で相対した。