全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
「・・・」
「・・・」
誰かがゴクリとつばを飲み、フジたちと「真紅のオーガ」の団員たちが後ろに下がる。
間に合わせの木剣を握った俺達は、互いに中段青眼の構え。
先ほど言ったように、こいつに最初に剣を教えたのは俺なのである。
ちょっと教えてやったらあっという間にハマリ、実家から二人分の木刀を持ち出してバシバシやっていた。
当時は俺もさほどの腕ではなかったし、何せ素の身体能力が違う。
あっという間に追いつかれ、《波の加護》で何とか互角にやりあっていた。
一つ間違えれば頭割られて死んでたが、口が裂けても「怖い」なんて言えなかった。
そう言うのを怖がらないからこそ俺はこいつの親友になれたのだし、剣では先輩なのにあちらの方が強いなんて、死んでも認めたくなかったのだ。
意地があるんだよ、男の子にはなあ!
「ふぅぅぅぅぅ・・・」
「・・・」
深く呼吸をすると全身に活性化波動が満ちる。相手を観察。
俺が教えた
古流の構えに近い、周囲のどこから攻撃を受けても即座に対応するためのものだろう。
戦場での実戦剣術を取り入れたか。
じゃりっ。
足元の小石を踏みしめて、俺が半歩前に出る。
同時にエフティの中段の木剣が、頭の横、右上に垂直に構えられた。
来るっ!
「どりゃあっ!」
鬼の咆哮。鋭い踏み込みと共に振り下ろされるエフティの木剣。
中段から八双の構えへの移行、そこから間髪を入れずに放たれる全力の振り下ろし。
薩摩示現流の「トンボの構え」にも似た、一撃必殺の剛剣だ。恐らくは戦場往来の中で自然に身についたもの。
西川陰流の元になった
実戦向きの技法が一芸特化の必殺剣である示現流と相性が良かったのかもしれない。
ともかくまともに受ければ木剣が折れる。
防いだとしても、木剣ごと頭を割られる。
だから体を開いて身をかわし、斜め下に受け流す。
木剣同士がこすれ、焦げ臭い匂いを立てた。
!
慌てて体をのけぞらせる。
後ろに引いた顔面の前を、一瞬遅くエフティの木剣が跳ね上がっていった。
全力の振り下ろしの後で同じ位のスピードの切り返しだと!?
恵まれた身体能力もたいがいにしとけよ!
二度空振りに終わった剣が、更に加速して切り返される。
袈裟懸け、受け流し、切り返し。
横薙ぎ、打ち落とし、切り返し。
切り上げ、スウェー、切り返し。
俺は防ぐばかりで攻撃に入る隙がない。
「ほらほらどうした、『お師匠』さま! 全然手が出ないじゃねえか!
ひょっとしてあれか、オレが強すぎるからか! だったらゴメンな!」
肉食獣のような笑みを浮かべたエフティ。調子に乗るなよ!
上段からの振り下ろし、それにあわせて俺も剣を振り下ろす。
瞬間、ハッと気付いたエフティが無理矢理剣を外して後ろに跳んだ。
互いに剣は空振りし、間合いが空く。
「え・・・」
「おい、何したんだ?」
「・・・合撃(がっしうち)だな。ニホンの剣術の技だ。相手の振り下ろしに合わせて剣を振り下ろし、相手の剣を逸らしつつ、剣の背なり拳なりを打つ。
決まっていたらいくらニムでも剣を落としていただろうな」
ナイのおっさんの解説に、再びどよめきが起きる。
無理に飛び退いてふらついていた体勢をエフティが立て直す。
わかるだろう? 今追撃していたら俺の勝ちだったぞ。
そういう意味を込めてニヤリと笑ってやる。
やつの顔に血が昇るのが分かった。
「ナメてんじゃ・・・ねえっ!」
先ほどを越える嵐のような連撃。
それをなんなく、とは言わないまでも、着実にさばき続ける。結構必死だが顔には出さない。
相手がじれてきたところで、ニヤリと笑みを浮かべると、奴の頭の中で何かがブチっと切れる音が聞こえた。
「死ねぇっ!」
音の壁を切り裂く音がした。
衝撃波。
マジ物のソニックブームが俺を襲うが、何とか直撃を避けて踏みとどまる。
必殺の一撃をそらした俺の木剣が、エフティの剣と絡み合って地面に突き刺さった。
(勝った!)
と、こいつは思っただろう。俺の剣はエフティの剣に押さえ込まれて、奴の剣が持ち上がらない限り動かせない。奴の剣が跳ね上がってきても防御は出来ないってことだ。
スウェーしようにも体勢が崩れてそれも難しい。
木剣を手放して逃げる以外に道はない。
エフティが、初撃同様切り返しからの切り上げを放とうとして。
「!?」
一瞬動きが止まった。俺の剣と絡み合った木剣が持ち上がらない。
その隙をついて俺の足がエフティの手を蹴り上げ、木剣は奴の手から離れた。
俺が剣を引き抜くと釣られてエフティの木剣は高く飛び、数メートル離れた所に転がる。
どよめきが上がった。
「ずりー! ずりーぞ! お前いつもズルするよな! ズル無しでもっぺんだ!」
顔を真っ赤にしてこっちを糾弾してくるエフティ。涙目である。
お前の力が強いのも《加護》だろ。だったらこっちが《加護》使っても文句言うな。
「ぐう・・・!」
悔しそうに黙り込むエフティ。
昔もさんざんやったなあ、この手のやりとり、と思わず頬が緩む。
なおタネはやはり《波の加護》。
基本的に俺の《加護》は自分の体からしか放出出来ないが、生物の体や生体素材、液体などを介せばある程度伝達出来る。
革のたづなを通して、隣を走る馬を強化したみたいにだ。
ついさっき木から切り離したばかりの木剣はまだ生きていて、伝達素材としては最高というわけだ。
そして今回使ったのは、修道院の壁を越えるときに使った「くっつく」波動。
それで奴の木剣を地面に突き刺した俺の木剣に吸着させ、剣の動きを封じた。
木剣を押さえ込まれたように見えた俺だが、実は体重をかけて地面に突き刺していた。
いくら奴が怪力でも、木剣を俺ごと引き抜けるもんじゃない。少なくとも軽々と、ってのは無理だ。
そんなことは知らないエフティは一瞬の隙をさらし、かくの如しという訳である。
「うー・・・いてっ!」
「素直に負けを認めろよ、お嬢。
大体いつも頭に血を昇らせるなって言ってんだろ。
見事にご領主様に乗せられやがって。最初から最後まで手玉にとられてたじゃねえか。
実戦なら二回は死んでたぞ」
エフティをこづいたナイさんの呆れ顔。
まあ、古い付き合いだからね。
こいつの勘所は大体わかってる。
「お、オレだってお前の弱点は知ってるんだからな!
五歳までおねしょしてたこととか!」
戦争だろうが・・・それを言ったら戦争だろうが・・・っ!
その後低レベルな罵り合いと暴露合戦に発展。周囲が呆れる中、見苦しい争いは俺がシルに、エフティがナイのおっさんに後頭部をドヤされるまで続いたのであった。
>西川陰流
オリジナルです。
勝海舟や男谷精一郎も学び、幕府の講武所でも教えていた直心影流をこの世界向けにアレンジした流派という設定。
ちなみに影とか陰とかどっちだよ!って意見もあると思いますが、史実でも大体そんなものですw
>後頭部を
シルだと背が届かないので、《加護》で出した1メートルくらいのそろばんを使っています(どうでもいい