全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
結局ダンジョンアタックを開始したのは一時間以上経ってからのことだった。
なぜ俺はあんな無駄な時間を・・・
「お前がズルするからだろ!」
ズルじゃねーよ。お前こそ悔しいからって人の秘密暴露してんじゃねえ。
「それは・・・!」
がつん、といい音。
今度エフティの後頭部をドヤしたのはオーガみたいなおばちゃん、ハーラさんであった。
「そんな事より準備が先だろ! ニムちゃんは団長なんだからちゃんとしないとダメじゃないかい」
「うー・・・」
ぶつくさ言いながらも俺との言い争いをやめて、あれこれ指示を出し始めるエフティ。
あれでちゃんと団長はやってるんだな。
そうだ、ここで配布してるダンジョンのしおりは読んだか?
「ああ、昨日宿の人が持ってきてくれてさ。すげーなあれ。あんなのどこのダンジョンでも配ってんのか?」
どうなんだろうな? よそのダンジョンの運営とかさすがに知らん。
頭をひねってるとナイのおっさんが口を挟んできた。
「そんな訳ねえでしょう。ダンジョンの地図からモンスターから、こんなの他の迷宮で手に入れようとしたら金貨十枚、ひょっとしたら百枚は取られますぜ」
マジか。
まあ命がけで手に入れた情報をタダで他人にくれてやる物好きはそうそういないだろうな。
ここだって俺とフジたちがいたからやれてるのであって、そうでなければ冒険者から攻略情報を買い取って作ってた。
「はー」
「なるほど、短期間に村を大きくした名領主と聞いちゃいましたが、噂に嘘偽りはなかったようで」
おだてるなよ。
しかし、そう言うのがパッとわかるって事はあんたも騎士か貴族の出か?
「さてね。この世界、生まれや育ちは関係ねえってのがいいところでして」
ニヤリと笑うおっさん。
一方エフティはむすっとした顔。
「どういう事だよ、お前らだけで理解してないでオレにもわかるように話せよ」
お前こそ理解してなきゃならない立場・・・と言いたいところだが押し込められてた立場じゃ帝王学なんぞ学びようがないか。
簡単に言えば客を増やすためだよ、と説明してやるとひどく感心したように頷いていた。
「やっぱお前頭いいなあ」
まあ、
そう言えばレンタルだけどお前用の耐火装備にアーバレストが1セットで良かったな?
耐火装備の分はまけてやる。
「お、サンキューな」
いいってことよ。俺とお前の仲だろ。
ピシガシグッグと拳を打ち合わせる俺達。
ところで、何でハーラさんがニコニコしてるんだ?
「ジャイアント・リザードだ!」
「アーバレスト撃て!」
オオトカゲに火矢が命中し、大爆発を起こす。
「ロック・トロールだ!」
「アーバレスト撃て!」
岩の巨人に火矢が命中し、大爆発を起こす。
「モールワームだ!」
「アーバレスト撃て!」
巨大ミミズに火矢が命中し、大爆発を起こす。
「カトブレパスだ!」
「アーバレスト撃て!」
鉄の牛に火矢が命中し、大爆発・・・しない!
鉄の皮膚で矢が跳ね返された!
当たり所によっては抜けるんだがなあ!
「いいじゃねえか、退屈してたところだぜ!」
嬉しそうだなあ、
こいつは目からビームを出す! 即死級の代物だから注意しろよ!
「おう!」
炎の剣をかざして、鉄牛の群れに突貫するエフティ。
「どぉりゃああっ!」
鉄を鉄でブッ叩いたような硬質の音が響く。
「なんとぉっ!?」
エフティの剣が弾き返された。
隣のカトブレパスから放たれる「邪眼」・・・まあ要するに魔力のビームだな。撃たれるとショック症状を起こして即死も有り得るらしい・・・を慌ててよけるエフティ。
殴られたゴーゴンは頭を潰されて動かなくなったが、表皮を抜いて着火は出来ていない。
頭の装甲は特に固いから首筋狙えって、しおりにも書いてあったろ!
「そんなとこまで読んでねえよ!」
読めよ!
「字が多すぎるんだよ!」
そう言いながらまたもう一匹、鉄の牛を殴り殺すエフティ。ええい脳筋め。
「大体首筋狙えって、できるもんならやってみろ、よ・・・?」
エフティが言い終わる前に、俺の高速震動剣がカトブレパスの首をすっぱりと切り落としていた。
ざっとこんなもんだが?
「ぐぐぐぐぐ!」
歯ぎしりしながらもエフティが突進してきたカトブレパスの横っ面を張り倒し、横転させる。
俺も同様にすれ違いざま、鉄の牛の足を切り落として動きを封じた。
そら、首の切り口にその剣を!
「! おう!」
残った四頭のカトブレパスが一斉に邪眼を放とうとする。
それより一瞬早く燃える剣が首無しカトブレパスの死体に突き込まれ、俺達と共に大爆発を起こしたのだった。
全身を震動させて生体ナパームを振り払う。
まあ周囲が火の海なので余り意味はないが。
「いいよなー、それ。こう、やけどしないのはいいんだけどさ、燃えてるってのはやっぱ変な感じだ」
全身炎に包まれたエフティが、燃える自分の手を見ながら言う。
赤い甲冑に金と赤の髪だから、これはこれで絵になるな。
題するなら「炎の戦乙女」ってところか。
「戦乙女ってお前。赤鬼がせいぜいだろ」
肩をすくめるエフティ。
そうでもないとは思うが、まあくどくは言うまい。
そんな感じで、合計五日間かけて最下層まで踏破した。
ナパームに巻かれた奴を水に放り込んだら火が燃え続けて、これだけ火が燃えてるのに呼吸が苦しくないのは油の中に酸素が入ってたからなんだなと納得したり、使い捨ての盾とか作ったら売れるかなあと皮算用したり。
四本足の装甲化したサメみたいなアーマード・ウォーキングシャーク(まんまだな)とか、ガーディアンの熾火の巨人の分身みたいなコール・ジャイアントとか、いくつかアーバレストでも外皮を貫けない敵が出て来たりして、そこは俺とエフティが対応する。
特にコール・ジャイアントはこのダンジョンに一月ばかり潜ってた俺でも初めてお目にかかるモンスターで、後でしおりに追加しておかないとな。
「おお、これは・・・」
「いやあ、確かにすげえですなあ・・・」
100mの大広間にびっしりと生えた石英と水晶。
明かりに反射してキラキラ光るそれに、傭兵たちが言葉もなく見入っている。
しばらく経って、そろそろ満足したかなってところで声をかけた。
それじゃ地上まで戻るぞ。
「ちょっと待って下せぇ。入口までってのはその、ダンジョンマスターの力でってことで?」
そうだよ。
「便利なやつだなあ」
「ただ、今回に限ってはお断りした方がいいかと」
え、なんでだ?
「今回だけならそれで問題ないんですが、あっしらは領主様がいなくても行って戻ってしなきゃならんわけですよ。そうしたら予期しない不都合が起きるかも知れねえ。
だったら領主様がいて下さる間に、戻る練習をしておくべきじゃないかってね」
「あー」
なるほど、道理だな。
「てなわけで、領主様さえよければそうして頂きたいんですが」
オーケイ、そうしよう。
ん? どうした、エフティ?
「な、何でもねえよ!」
赤くなるエフティを見て、傭兵たちが首をかしげる。
「とっつぁん、何かお嬢嬉しそうだな?」
「領主様とまだ一緒にいられて嬉しいのさ。野暮なこというんじゃねえよ」
にやにやするナイのおっさんと傭兵ども。
「な、何言ってんだ! んなわけ・・・」
「やーい、お嬢は領主様とアッチッチー」
「ブッ殺すぞ!?」
小学生かお前ら。