全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
「それでカーヴェ、知ってたか? 最近王都ではな・・・」
あれこれあったが夕食。
ジローもなんとか落ち着いてくれた。
というか「この村にはあちこちの貴族家や商家から来た年頃の少女たちが沢山いるぞ」と吹き込んだら瞬時に立ち直った。我が友ながらチョロい。
それで肝心のダンジョン登録の方はどうなんだ?
「あーそれ? さっき貰ったしおり添付して書類出せば一発よ。
つまりこの村での仕事は終わり! 後はダンジョンちょっと見て、時間に余裕が出来たから貴族家血統を維持するための高貴なる義務に励むとしますか!」
つまりナンパですねわかります。
「ナンパではない! 貴族として生まれた者の義務だ!」
はいはい貴族の義務貴族の義務。
「おい大丈夫かこいつ?」
隣に座ったエフティが小声で聞いてくるが、もう俺にはどうも出来ない。
せめて奴がいい嫁さんをゲット出来るよう祈ろう・・・
「あー、それじゃー、俺帰るから・・・」
四日後の朝、村の外れ。
虚ろな目をしたジローと俺は別れの挨拶を交わしていた。
この四日間の努力の成果については何かを語るまでもあるまい。
「じゃあなー・・・」
おう、強く生きろよ・・・。
そのまま奴は護衛二人と共に馬に乗って去っていった。
「それじゃオレも戻るわ。送ってってくれよ」
と、昨日も晩飯食いに来てそのまま泊まっていったエフティ。
「あー、ユーウツだなあ」
ダンジョン探索がか?
「そっちじゃねえよ。泊まっていったから、ナイのおっさんやハーラにあれこれ言われそうでさあ・・・」
後傭兵どもが小学生レベルだからなあ・・・
「それな」
二人して溜息。フジたちは苦笑している。
そんな事を話しながら北に1kmほど一緒に歩いた。この辺ならもう転移出来るはずだ。
それじゃエフティ、荷物いいか。送るぞー。
「おう、頼む」
じゃあちょっと行ってくる。
シル、戻ってきたら新しい開拓計画の話があるからケイトーに伝えておいてくれ。
「わかったんだよ」
それじゃ行くぞ・・・
「・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「あれ?」
あれ? あれ?
転移できない! なんでだ!?
「昨日の夕方、ニムさんを迎えに行くときはできましたよね?」
当然だ。だから連れてこれたんだからな。
三日前はエフティとジローをまとめて連れていったし。
「でもじゃあなんででしょう?」
「前に話してたようにここまで転移出来たのがここで退治したモンスターのせいだとすれば、そのモンスターの気配というか残り香みたいなものが薄れた可能性はあるんだよ?」
「あー、それは否定出来ませんね」
そうなると馬で途中まで行って試してみるしかないかな?
「そうですね、それがいいと思います」
じゃあ悪いけどいっぺん領主館に戻るか。馬出そう。
「おう、わかった」
「うっひゃああああああああああ!」
エフティの歓声が草原に響く。
生体活性波動を受けた馬が180km/時で疾走し、風景が風のように流れていく。
元の世界でバイクだのカーレースだのにハマる連中がいた理由がよくわかる。
「すげえ! すげえなお前!」
俺の背中に夢中でしがみつくエフティ。
昔の記憶を探っても、これだけ喜んでくれてたのは記憶にない。
ここらへんならそろそろ転移出来そうな気もするが・・・もうちょっと走るか。
「・・・なあ、さすがにおかしくねえか?」
俺達が顔を見合わせたのは、ダンジョンがある山の麓に着いてからだった。
ここまで来ても転移はうんともすんとも言わない。
嫌な予感がする。
「どうした?」
ちょっと集中させてくれ。
前にジューニャに教えて貰った、ダンジョン・コアへの接続を辿って・・・
!? ダンジョン・コアがダンジョン出口にない!
ダンジョン・マスターは力を使うのにコアが必要になる。手に持っている必要はないが、ダンジョンから余り離してしまうと力を行使出来ない。恐らく転移出来なかったのもそのせいだ。
安置した場所にあるならここから真北に反応があるはずだが、南南東・・・それも東に動き続けてる。またこのパターンかよ!
「おい、まさかあのナンパ男が?!」
考えたくはない、考えたくはないが・・・エフティ、降りろ! 悪いが歩いて戻ってくれ!
「いや、オレも行く! 予備の剣くらいは村にもあるだろ!」
・・・すまん!
礼を言うと、俺は馬の腹を蹴った。
二十分後、俺たちはマット村に戻ってきた。倒れる寸前の馬を乗り捨て、領主館に走りこむ。
フジ!
「カエラ様?!」
ダンジョン・コアが盗まれた! 追うぞ!
「は、はい!」
くそ、またしてもだ! 今度ロウに特注の金庫でも持ってきて貰うか!
そんな事を考えつつ、俺はシルとジューニャを呼びにやらせた。
ああそうだ、人をやってエフティの部下たちにもこの事を伝えないとな。
街道を三頭の馬が疾駆する。フジは自前の足で追随。
シルは俺の馬に乗せ、ジューニャとエフティの馬にも手綱を介して波動を送り込み続ける。
「カエラくん! 間違いないんですね!?」
ああ、ダンジョン・コアはこの街道の先にある! 未だにかなりのスピードで進み続けていて、このペースでもかなりかかる!
「そうすると、普通の馬ではありませんね・・・?」
時速百八十キロとは言わないが、どう考えても馬が出せる速度じゃない。
そして・・・ここまでの街道でジロー達の姿を見かけなかった。
「! それは・・・」
「まだ、決まった訳じゃ、ないんだよ!」
そうだな。だが覚悟はしておいた方が良さそうだ。
「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」
しばらく、ヒヅメの音と馬の呼吸音だけが周囲に響いた。
盗賊に追いついたのは、三十分ほど走ってからだった。
街道を外れた森の中をあり得ない速度で駆ける三騎の馬。
間違いない、ジロー達だ。
連中がこちらに気付く。何かを叫んでいる。
!? まだ速度を上げやがった!
しかしどこへ行く気だ、この先はずっと森で、まともな街も街道も何もないはずだが・・・
速度を上げたといってもさすがに生体活性波動を受けた馬には勝てなかったらしい。
十分ほどして追いつくのとほぼ同時、森の中の開けた場所に出る。
ストーンサークルのように石の林立した巨大な岩の円盤。これは・・・遺跡か?
「はは! 勝った! 俺達の勝ちだぞカエラ!」
ジローが高笑いを上げて・・・待て、「カエラ」だと?
「危ねえっ!」
ジローのお供が投げた何かをかわせず、俺の馬が横転する。
落ちたシルをフジが受け止め、落ちそうになった俺の手をエフティが握る。
その瞬間、光が世界を塗りつぶした。