全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第五話 情報を集めるのは二流、情報を操ってこそ一流

 おーい、大丈夫か?

 ゴザの山の上に呆然と座り込むロウに近づく。

 後数歩のところまで近づくと、奴の目に光が戻った。

 

「凄い! 凄いですよ若様! 今のは若様がやったんですよね!?」

 

 後ろの巨大ワイバーンを見つつ、興奮するロウ。

 おい、大丈夫か? どこか打ったか?

 

「こんなのはなんて事ないですよ・・・そうだ、村長さんの屋敷に乗用馬がいましたね! あれお借りしていいですか!」

 

 ああ、構わんが? 俺のもんだし。

 

「では二頭お借りします! 申し訳ありませんが馬車はよろしくお願いしますね!

 荷物は好きに使って頂いて結構です!

 それとこの死骸は獣に喰われたり解体したりしないように! それでは!」

 

 それだけ言うと、ロウは村長の屋敷の方に走って行ってしまった。

 ・・・何だありゃ?

 

「さあ・・・」

 

 後に残ったのは呆然とする俺とフジ、そして未だに立ち直ってない村長ばかりであった。

 

 

 

 ロウが戻ってきたのは翌々日の昼だった。

 二頭連れていった馬のもう一頭に、術師らしきおっさんがまたがっている。

 相当無理したと見えて、馬もおっさんも息も絶え絶え。

 元気なのはロウだけだ。目がギラギラしててちょっと怖い。

 

「只今戻りました若様! それでワイバーンの死体は!?」

 

 お、おう。取りあえず動かすにも一苦労だから、フジに畳小屋作って貰って、村の若い衆に見張らせてるが・・・

 

「わかりました! ほら、行くぞ!」

「す、少しくらい休ませて・・・」

「休んでる暇はないぞガーデナー! すぐに処置開始だ! 防腐処理は時間との戦いだからな!」

「助けて下さい領主様ぁぁぁぁ!」

 

 悲鳴を上げて引きずられていくガーデナー氏。

 ・・・何だありゃ?

 

「さあ・・・」

 

 

 

 そこからは怒濤のようだった。

 近くの町から連れて来た防腐術師のガーデナー氏を酷使して、30mあるワイバーンの死体を突貫作業で防腐処置。ガーデナー氏は三日間寝込んだ。

 その後遅れて到着した連結馬車を使って、ワイバーンの死体を「半身」ずつ運搬。

 俺とフジも王都まで護衛として同行することに。

 まさか覚悟を決めて旅立って、一月でとんぼ返りするとはなあ。

 

「護衛の依頼料まで手が回らないんです!

 悪いようには! 決して悪いようにはしませんから!」

 

 異様な熱気を放つロウの勢いに押し切られたとも言う。

 ちなみに防腐の呪文は一週間しか保たないのでガーデナー氏は更に一ヶ月こき使われ続け、メットーについたときにはほとんど死体と見分けが付かない有様だった。

 合掌。

 

 

 

「さあさあお立ち会い! これなるは西方開拓地の岩山に巣くう飛竜の王!

 マット村を襲った大怪鳥を打ち倒したは、『白のサムライ』の末裔、ダーシャ伯爵家長子、カエラ・ヴィクトリアス・ヴォロディア・ヴァレンタイン・ニシカワ様!

 その脇に控えるは『紅の影』の末裔、フジ・ウチダ嬢!

 ともに弱冠十六才にてかくの如き亜竜の王を打ち倒したお二方に、みなさん惜しみない拍手を!」

 

 王都メットー。

 広場で大々的にさらされる飛竜の死体と、その脇で立派な椅子に座らされてる俺。横に立ってるフジ。

 ・・・どうなってるんだ、こりゃ?

 

「私に分かるわけがないでしょう!?」

 

 ついにたまりかねてフジが叫ぶ。俺も全く同感だよ。

 大体家を追い出されて継承権剥奪されてるんだけど。

 

嫡子(アトツギ)ではなく長子(トシウエ)と言っているだけなので嘘ではありません」

 

 家からの支援打ち切られてるっていうかそもそもないんだけど?

 

「誤解するのは勝手です」

 

 アッハイ。

 で、こいつ(ロウ)が何をしてるかって言うと俺と村の宣伝だ。

 言われて気付いたが辺境の開拓村で何が一番問題かというと、モンスターや野獣の襲来なのだ。

 つまり、こんな巨大な亜竜を一太刀で屠った俺がいるマット村は、安心して開拓出来る最上級の条件が整った場所と言う事になる。

 実際その後、男女二百人の移住希望者が集まった。

 すげえなこいつ、村の人口が一日で倍になったぞ。

 

 都市でも田舎でもそうだが、この世界は基本子だくさんなのに家を継げるのは長男だけ。

 次男以降は何とかして職にありつかなきゃいけないのである。

 苦しくとも自作農になれる、それも良い条件で――というチャンスには誰もが飛びつくわけだ。

 ワイバーンとその死骸を素早く処置して宣伝に活用したロウの慧眼の賜物だろう。

 まあ確かに全長15mの亜竜の「ひらき」はインパクト極大だわな。

 

「巨大な飛竜を一太刀で屠るぅ~~」

 

 雇った吟遊詩人が歌ってるのを聞きながら、俺は椅子に座り直す。

 必要なのは分かるが、いつまでやってなきゃならないんだこれ。

 

「若様」

 

 ・・・ん? 誰だ今の? フジじゃない。

 

「お久しゅうございます、若様」

 

 振り向くと、そこに立っていたのは六十から二十代の爺さんおっさんおばちゃん兄ちゃん達。しかも旅姿。

 まだ俺がニシカワの跡取りだった頃、俺につけられていた家臣達だ。

 俺が廃嫡されたんだから、当然爺さんの下で働いてるはずなのだが・・・守役で俺付きの家臣団の長老格だったケイトーが好々爺然として笑う。

 

「家督は息子に譲ってきましたでな」

「まあメイドの一人くらい抜けてもどうにかなりますよ。後妻様の息のかかった連中にうんざりしてたのもありますけどね!」

「僕は一代雇いですからね。夜の見回りくらいには役に立ちますよ」

「はははは、嫁に逃げられた俺は無敵ですぜ、若様!」

 

 お、おう。

 

「と言うわけで、身の回りの整理に少しかかってしまいましたが、改めて若様の家臣に受け入れて頂けますでしょうか」

 

 否も応もない。お前らが来てくれたら百人力だ。

 これからどんどん増えそうだし、さすがに一人で切り回すには限界がある。

 ニシカワ家で領地経営もしてたケイトーが来てくれるのは特にありがたい。

 

「微力を尽くしましょうぞ」

 

 ケイトー達が揃って一礼する。

 宣伝はそれから三日ほど続き、最終的に移住希望者は五百人を超えた。

 ワイバーンの死体は内臓を魔術師組合が、ガワを好事家が買い取ってくれて、五百人の開拓の初期費用(食糧とか農具とか種もみとか)くらいにはなったそうである。

 ロウ曰く、

 

「それよりも重要なのはこれで若様が一躍時の人になったことです。

 うちでも継続的に移住者は募りますし、今後とも若様の名前を頼って移住者が増えれば、十年後には男爵位、いや伯爵位も夢じゃありませんよ」

 

 ・・・とのことだ。

 そうなればいいなあ。

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

「・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 ニシカワ家の居間に沈黙が下りていた。

 当主であるケンシン、その息子の後妻であるゲルタ、その息子で今は跡継ぎであるヘルム。そして家臣とメイドたち。

 

「・・・おじいさま。やはり兄様に戻ってきて貰った方がいいのでは」

「お黙りなさいヘルム!」

 

 母親の勢いにヘルムが沈黙する。

 

「ニシカワの血筋にもかかわらず《剣の加護》を持たないあの出来損ないを跡継ぎにするなど、許される事ではありません!

 御義父様も、今更あれを跡継ぎにし直そうなどと、考えておられませんわよね!?」

「・・・跡継ぎはヘルムだ。それに変更はない」

 

 苦渋の表情で言葉を絞り出すケンシン。

 ゲルタが僅かにホッとした表情になる。

 

「それにしても恩知らずなこと! 伯爵家の恩を受けながら、あのような不適格者の下へ走るとは!」

 

 ケイトー達の事だ。

 憎々しげな表情なのは、彼らがニシカワ家でも重要な人材だったことの裏返し。

 

「でも・・・」

「でもなんです、ヘルム」

 

 うつむく息子を母が睨む。

 

「僕にはあのワイバーンを一刀両断するなんて、そんな真似は絶対に出来ません・・・」

「・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 ニシカワ家の居間に、再び沈黙が下りた。




>ガーデナー
庭師の意。ドイツ語だとガーデルマン。
休んでいる暇はないぞガーデルマン、すぐに出撃だ!

>ダーシャ伯爵家
ダーシャは称号で、ニシカワは名字。
例えばアメリカ独立戦争とフランス革命で有名なラファイエットの本名は「ラファイエット侯爵マリー=ジョセフ・ポール・イヴ・ロシュ・ジルベール・デュ・モティエ」になる。
この場合はラファイエットが称号で、デュ・モティエが名字。

>嫡子
簡単に言うと家の跡取り。
長子だからと言って跡取りとは限らない(正妻の子でないとか)のでややこしい。
例えば織田信長は嫡子だが長男ではない。長男は今川の捕虜になったり雑に反逆したり一向一揆相手に討ち死にしたりなろう主人公になってたりする。

>ウチダ
名字は高野長英の弟子の伊賀同心、内田弥太郎から貰った。
後に富士山測量をしたり、明治になって太陰暦から太陽暦に切り替えたりしている人。

>一太刀で屠るぅ~
「シグルイ」より。まあ屠られたのは主人公の兄弟子なのだが。
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