全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第十二話 9の9の9倍のライオン

 見渡す限りのサバンナ、そこかしこに数十頭規模のライオンの群れ。

 いやありえんだろ! ライオンみたいな大型肉食獣が、こんな密集して暮らしていける訳ないだろ!

 群れ一つで十キロ四方くらいなけりゃエサになる草食動物が生きていけないぞ!

 共食いでもしてんのかこいつら!

 

「まあ・・・夢なんだろ? だったら考えても仕方ねーんじゃねーかな・・・」

 

 くっ、まさかエフティに正論でさとされるとは。

 

「殴るぞ」

 

 冗談はともかく・・・お前どれくらい飛べる?

 

「何キロもってのはさすがに無理だぞ。さっきの崖の上からすーっと飛ぶならひょっとしたら行けるかもしれないけど・・・」

 

 んー、そうだな。それじゃその手で行こう。

 

「?」

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 おお、すげえな。空を飛ぶって気持ちいいわ。

 見ろよ、足元の草原からライオンどもがこっちを見上げてるぜ。

 

「ホント便利な奴だなお前・・・」

 

 お前の《加護》あってのことさ。

 

「そ、そうか? そうだな」

 

 それにこうして二人で飛ぶのも悪くない。と、これは内心で思うにとどめておく。

 口に出したら照れ隠しで怒り出して、絶対面倒になるからな。

 ともかくタネは二つ・・・いや、三つか?

 まずエフティがハーピーみたいな姿に変身し、俺が全力のバネ足でこいつを肩車しながらジャンプ。上空でエフティが翼を開き、俺は足に掴まって滑空を始める。

 さすがのライオンの群れも空は飛べないので、俺達は奴らの頭の上をすいすいと通過。

 高度が落ちてきたら再び俺がバネ足で高度を稼ぎ、そこからまた滑空を再開。

 地面に降りる瞬間だけ気を付ければ危険は全くない。

 滑空を続けるエフティの疲労は問題だが、そこは弱めの活性化波動を送り込んでなんとか凌いで貰う。

 そんな事を続けて数時間。

 さすがにエフティの疲労も限界に達したあたりでサバンナが途切れてジャングルになり、ライオンの群れも見えなくなる。

 ジャングルの中に着地し、二人して同時に安堵の息をついた。

 

 

 

 無理な滑空を長時間続けたエフティのこともあり、ここで大休憩をとることにする。

 浜から持ってきたヤシの実に穴を開けてジュースを飲み、果肉を食べる。

 飲み物と食料を兼ねるなんて、何て便利な植物だ。

 虎の肉も持って来れば良かったかな。

 

「やめとけよ、肉食獣の肉なんざ、到底食えたもんじゃないぜ」

 

 まあそうだろうけどな。

 

「・・・というかここおかしくねえか? 普通ならそろそろ日が暮れる時刻のはずだ」

 

 だな。俺の記憶が確かなら、この世界に来た時から空の太陽は全く動いてない。

 

「夢の世界だから?」

 

 多分な。その割に歩けば疲れるし腹も減るのはどうしたもんだか。

 

「不便なこったな」

 

 一緒に溜息をつく。

 お前の時間感覚が正しければ、もうすぐ夜か。

 それじゃここで野営だな・・・木の枝を曲げて簡易テントというか、屋根みたいなものを作っておくか。

 

「そんなことできんのか? ロープも何もないのに」

 

 木の繊維のヒモがあるだろ。若木を曲げて、枝を結んで、完全とは言わないが、雨避けくらいにはなる。

 

「へー。まあ大丈夫だと思うぜ。少なくとも半日は雨は来ねえよ」

 

 わかるのか?

 

「何となくな。雨が降るときは一日前からそう言う匂いがする」

 

 便利なもんだ。

 まあそういう事なら寝るか。見張りは・・・

 

「お前は寝てていいぜ。オレは何か来たらパッと跳ね起きるタチだからさ」

 

 本当に便利な奴だなお前。

 

「お前ほどじゃないさ」

 

 

 

 重みを感じて目が覚めた。

 太陽は相変わらず中天から動いていないが、体の疲労から考えて、まだ真夜中くらいの時間経過のはずだ。

 周囲には動くものの気配はない。

 重みの方に視線を向けてみると・・・案の定、エフティが俺を抱き枕にして寝ていた。

 何が寝てていいぜ、だ。熟睡してるじゃないか。

 

「んん・・・」

 

 エフティが身じろぎする。

 フジたちとは違う密度の高い鍛えた身体と、それでいて豊かな肉付き。

 矛盾を超越した肉体は《加護》ゆえか。

 弾力のあるゴムのような肉体と高い体温。

 俺の首に掛かった腕に力が籠もる。

 

「カーヴェ・・・ルイ・・・」

 

 エフティの目じりに涙が浮かぶ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 溜息をついて、俺は黙って目を閉じた。

 

 

 

「・・・おう、起きたか」

 

 気がつくと翌朝だった。

 エフティは既に起きており、こちらを見ずに朝の挨拶をしてくる。

 まあ、昨夜の事については追求しないでおいてやろう。

 

 手近の果物で適当に朝食。

 毒じゃなくて良かった。

 食べれば千里眼になる魔法の果物でもあれば、多少の毒でも我慢して食うんだがなあ。

 

「無い物ねだりしても仕方ねえだろ。千里眼と言えばダンジョン・コアはどうなんだ?」

 

 昨日の夜から動いてない感じだな。

 ぼんやりしてるんで断言は出来ないんだが。

 

「方向は同じか」

 

 そう言う事だな。

 出発の前に全力のバネ足ジャンプで30mくらい跳躍して周囲を見渡してみるが、ジャングルと草原と岩地がまだらのようになっているだけで、特徴的なものは何も見えなかった。

 あいつらがこっちの世界に来ているなら狼煙の一つくらい・・・と考えて、こっちから信号を送る方法があるのを忘れていた。

 エフティ、ちょっと耳を塞いでいてくれ。

 

「? わかった」

 

 俺はもう一度バネ足でジャンプする。

 そしてジャンプの頂点で再び《波の加護》を発動。

 空気中を伝わる波の強化・・・つまり、拡声だ。

 

「カエラとエフティだ! 『西』へ向かう!」

 

 西、つまり太陽の方角を南として、太陽に向かって左だな。

 跳んで叫んでを何度か繰り返して、俺は地面に降り立つ。

 聞こえるところにいてくれればいいが。

 なお耳を押さえて悶絶していたエフティが回復するのにしばらくかかった。

 どうも動物に変身している間は五感も鋭くなるらしい。

 耳が良いのも良し悪しやな・・・。

 

 

 

「うー、えらい目に会った・・・」

 

 すまん。(垂直に)30mくらい離れていれば大丈夫かと・・・

 

「もういいよ。それよりさ、お前あんなぴょんぴょん跳べるって事は、ひょっとして凄いスピードで跳ねて移動出来んじゃね?」

 

 ああ、出来るが?

 

「だったらもうちょっとスピードアップしようぜ。

 オレも馬の足になれば、普段の倍くらいで走れるし」

 

 ・・・あ、それは思いついていてしかるべきだったな。

 昨日のうちにやっておけばと考えたが、昨日は一時間歩いた後でライオンの群れだったからあんまり変わらんか。

 よし、じゃあお手並み・・・足並み拝見と行くか。

 

「オーケイ、見て驚くなよ」

 

 

 

 俺とエフティがジャングルを疾走する。

 頭から馬耳が生え、膝から下が馬のヒヅメになっている。まさしく馬娘。

 速度も俺の全力、時速180kmにはさすがに及ばないが軽く100km以上は出してる。

 考えてみればこいつも秘印級(第二等級)冒険者、元から馬くらいのスピードで走る事はできるのだ。

 それが馬の足を手に入れれば、スピード重点更に倍。

 まさしくとっても馬並み!

 ・・・怖くなってきたのでこの辺にしておこう。

 

「何をぶつぶつ言ってるんだお前は?

 まあてくてく歩くよりこっちの方が断然気持ちいいよな!」

 

 それは同意する。ここから何もなければいいが・・・

 

「心配しすぎだろ。三つの試練とか言われてる訳じゃ無し、底なしの谷とか霧の王国とか、出くわしてから考えりゃいいのさ」

 

 だからフラグを立てるなっつうの。

 そう言ったらエフティが大笑いした。

 

「ねえよ! ライオンの時はビビッたけど、そう二回も三回も同じ事があってたまるか!」

 

 だといいけどなあ・・・

 なお、幅1km、高さ900mの断崖(というか隣のテーブルマウンテンとの境目)に出くわしてエフティが冷や汗を流すまで後一時間。

 隣のテーブルマウンテンにどう渡ったかって?

 エフティに滑空させて、断崖の中腹に着地したところで俺がこいつを担いで上まで昇りましたとも、ええ。




ちなみにハンググライダーの時速は一般向けのもので30~60km/時くらいだそうです。

>ヤシの実
近所の業務用スーパーでココナッツの実が売ってたので買ってみたことがあるのですが、ココナッツジュースが安くてまだ熟れてないメロンくらいの甘さでちょっとガッカリした記憶w
日本人が食べる果物って基本品種改良を重ねたものだってのがよくわかるw

>魔法の実
ワンピースのギロギロの実。(ドレスローザ第二王女の持ってた奴)
周囲4000kmの状況が見えるとか、作中屈指の使える悪魔の実だと思う。
東京から中国やインドシナ半島ほぼ全域見えるんだぜ。

>とってもウマナミ
マキバオーED。
ウマ娘のCMで流れた時は思わず吹いた。
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