全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第十四話 ここ掘れワンワン

 あー、なんだ。落ち着いたか?

 

「・・・うん」

 

 悪かった。腹立ちが収まらないなら、また後で殴ってくれてもいいから。

 

「・・・いいよ、もう」

 

 しばらく泣いた後、エフティは俺から離れた。

 俺に背を向けて座り込む。

 すっかりしおらしくなってしまっていて、更に罪悪感を煽られる。

 ああ・・・俺は何て卑しいんだ・・・とまでは言わないが。

 

「・・・」

 

 エフティがぐしぐしと顔をこする。

 振り向いた奴の顔は涙の跡で真っ赤だったが、それでもニカッと笑って見せた。

 大丈夫か?

 

「うるせーな、変に心配してんなよ」

 

 無理してるのはバレバレだったが、本人が言うんだからそういうことにしておこう。

 匂いは・・・多少晴れたみたいだな。

 それじゃ行くか。

 

「行くって、この岩どうするんだ? ああ、この壁掘れってことか?」

 

 掘れるのか。

 

「こんな感じにな」

 

 エフティの両手がシャベルのような鉤爪に変わる。

 が、そこを見る前に俺は吹き出していた。

 

「笑うなっ!」

 

 目の前に星が散る。

 だってしゃあないやん、エフティの鼻がハナモゲラになってんやもん・・・

 

「・・・で?」

 

 すっかり据わった目になったエフティが俺を睨む。

 まあご機嫌が直ったようなのでよしとしよう。

 ともかくあれだ、こうするのさ。ガイア・インパクトォ!

 

「!?」

 

 俺が右手で触れた岩が、気合いを入れると共に粉々になる。

 目を丸くするエフティ。そう言えばこれはこいつには見せてなかったな。

 まあ、これで通れるだろ。念のために息を止めてさっさと通り抜けようぜ。

 

「あ、ああ」

 

 幸い、広間の空気は「ちょっと臭い」程度に落ち着いていた。

 エフティもこれくらいなら何とか耐えられる模様。

 なお、狼たちはもはや痙攣すらしていなかった。成仏しろよー。

 

 

 

「・・・」

「・・・・・・」

 

 再び波動感覚とコウモリのエコーロケーションを駆使して闇の中を進んで行くと、前方に光が見えてきた。それと共に話し声のようなものも聞こえてくる。

 エフティ、聞き取れるか?

 

「ああ・・・『こんなはずじゃなかった』『くそっ、大手柄を立てるチャンスが』『遺跡が駆動しない』『ここから一度脱出しないと』『やはりダンジョン・コアの上書きを』『私たちの精神力では・・・』」

 

 オーケー、十分だ。

 音を消してこっそり近づくぞ。

 まず俺がごにょごにょ。

 

「・・・芸達者な奴だなあ。ホントにそれ魔法じゃねえのか?」

 

 魔法でこれだけ出来るなら、大魔術師(ウィザード)名乗って宣伝に使ってるよ。

 剣に加えて魔法・・・おお、ホントにSAMURAIっぽいな。

 

「そういうもんか? まあ、それじゃ行くぜ」

 

 おう。

 

 

 

 奇襲は完璧に決まった。

 《波の加護》でノイズキャンセラ―して足音を消して接近、収束は甘いもののフォノン・メーザー斬りで奴らの手作りの松明を吹き飛ばして明かりを消し、後は真っ暗闇でも行動に支障のない俺達二人が、右往左往する犯人たちを叩きのめして終わりだ。

 なお、こいつらも腰ミノオンリーの原始人ルックだったことを申し添えておく。

 

 

 

 暗闇の中、波動感覚を発動させなくても分かるくらいの魔力の塊・・・ダンジョン・コア。

 それを手に取ろうとして、俺はおかしな事に気付いた。

 倒れている三人・・・ジローとそのお供二人なのだが、そのジローの顔面にべったりと、ジローではない魔力を持つ何かがへばりついているのだ。

 触ってみるとと、ぶにょっとした気持ち悪い手応え。

 顔面・・・いや頭部をすっぽり覆っている。

 まさかな・・・?

 まあ、ともあれだ。

 手加減ガイア・インパクトォ!

 ぶにょっとした何かに震動波を叩き込むとそれは四散して周囲に飛び散り消えた。波動感知で確認するが、頭部にへばりついていた魔力も消えている。

 ジローが痙攣してる気がするが、死んでないならヨシ!

 

「カーヴェ?」

 

 ああ、さっさと脱出しよう。

 俺はダンジョン・コアに手を伸ばし。

 次の瞬間、俺達は森の中の、あの遺跡にいた。

 

「うおっ!?」

「きゃあっ!?」

「!?」

 

 戻ったのは俺の馬が横転した瞬間。

 シルをフジがキャッチし、振り落とされた俺の手をエフティがとったその時だ。

 戸惑いながらもエフティが俺を馬上に引っ張り上げ、フジが崩れかけた体勢を立て直す。

 一方犯人のうちジローは意識を失ったまま落馬し、他の二人は一瞬戸惑った後に馬首を翻して逃げようとする。

 フジ、ジューニャ! そいつらを逃がすな!

 

「はっ!」

「は、はい!」

「ぐわっ!」

 

 フジの手裏剣が飛び、馬が竿立ちになったかと思うと騎手を振り落とした。

 すかさず肉薄して、忍者刀で手足を切って無力化。

 

「うわっ、うわっ!?」

 

 もう一方の騎手は馬ごとジューニャの《念動》で宙に持ち上げられてもがいている。

 俺はエフティに周囲の警戒を頼むと、落馬したジローの元に駈け寄った。

 頭から落ちたように見えたが、無駄に頑丈な奴だから大丈夫だろう。じいさんには「イノウエモンタ」呼ばわりされてたくらいだ。なに、井上聞多知らない? ググれ。

 実際息もあるし脈も安定してる。生命力の波動も問題ない。

 ほれ、起きろ。

 起こしてみぞおちのあたりに拳を突き込む。いわゆる活を入れるという奴だ。

 

「う・・・ぐえっぷ!」

 

 えづきながらジローが目を覚ます。

 これ横隔膜と胃袋を乱暴に刺激する術だから、やられると結構吐き気が来るんだよな。

 大丈夫か?

 

「あ・・・カーヴェ? いったい何が?」

 

 良かった、元に戻ったらしいな。

 

「どういう事なんだよ?」

 

 そこにとてとて近づいて来たのはシルと、手早く二人を拘束したフジだった。

 お前らなら知ってるだろ。こいつは俺を何と呼ぶ?

 

「カーヴェ、ですね」

「それが何か・・・あっ!」

 

 完全記憶力を持ってるシルは気付いたらしい。

 

「そう言えばさっき、カエラちゃんのことを『カエラ』って」

 

 精神世界でこいつの頭にべったりと何か変な物がついてたからな。

 何かに憑依されてたか何かしたんだろう。

 

「何者かに利用されてたということですか」

「だと思うんだよ」

 

 ほっとしたようなフジとシル。

 こいつ(ジロー)は俺の数少ない友人だからな。

 それが俺を裏切っていたなんてことにならなくて安堵しているのだ。

 口には出さないが、その気遣いは嬉しくもある。

 さて、取りあえずは事情聴取だ。




>ハナモゲラ
「鼻モグラ」のことかと思ってたが、要するに「インチキ外国語」のことらしい。
若かりし頃のタモリが持ち芸にしてたとか。

>SAMURAI
最強のSAMURAIはムラマサと核撃魔法を使いこなすのだ(ウィザードリィ感

>井上聞多
井上馨。幕末長州の維新志士。
伊藤博文の腹心で、渋沢栄一の親友かつ上司だった人。凄そうに聞こえるが実際凄い。
相応の実績も残しているのだが松下村塾出身でなく総理にもなっていないのでいまいち地味。
結果として一番有名なのが教科書に載った「体中何十箇所も切り刻まれたが一命を取り留めた」エピソードになってしまってる。
昔のTRPG界隈では「力が強いが生命力が低い」キャラを「沖田総司」、「力が弱いが生命力だけは強い」キャラを「井上聞多」と言っていたとかいないとか。
なお本来は「いのうえぶんた」らしいが、一般的には「もんた」のほうで通っている。
「ぶんた」では変換出来ないけど「もんた」だと「聞多」って出てくるし。
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