全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
第十五話 真実を口にする前に馬のあぶみに足をかけておけ
「感情は感情、政治は政治」
――児玉誉士夫――
ようやく吐き気が収まったのか、周囲をキョロキョロ見回すジロー。
「それでカーヴェ、何がどうなってるんだ?」
そりゃこっちの方が聞きたいわ。
お前、四日前に俺と会ってからのこと思い出せるか?
「エフティちゃんがかわいかった!」
この野郎・・・。
エフティがちょっと顔を赤くしてる。かわいいとか言われるのに慣れてないんだな。
まあ確かにそう言うところはかわいげがある。
「お、赤くなった顔もかわいーねー。ひょっとしてチャンスある? まだワンチャンある?」
「うぜえ。後エフティって呼んでいいのはカーヴェだけだ、覚えとけ」
「ぐはっ!」
あ、血を吐いた。
「この色魔め! 奴隷ハーレム大王め! 美女美少女を手当たり次第手込めにしておきながら純愛幼馴染みも確保してるとか! 俺にも一人分けて下さいお願いしま・・・ぐべばっ!」
しまった、思わず蹴ってしまった。
おおい、生きてるかー。
「ふ、ふふ・・・真実を口にする前に馬のあぶみに足をかけておけというのは本当だったな・・・」
本当の事を言うなら逃げる準備をしておけと言う意味のことわざだ。
本当の事でもないし、俺馬より早く走れるから意味無いけどな。
そろそろ話を戻すぞ。ダンジョン・コアを盗んだときの記憶があるか? ここ最近記憶が飛んだりしてないか?
「んー・・・言われてみればここ四日間、村で
初日もその次の日も、またその次の日も、二、三人くらいしか覚えてない。
お前んとこ若い娘が多いから時間的に50人くらいは口説いてるはずだし、明らかにおかしいな」
「・・・ジロー様は50人も口説いて顔を覚えていられるのですか?」
「俺、一度口説いた女性の顔は忘れないけど?」
マジか。
お前むしろあれこれ忘れっぽいし、物覚えも悪い方じゃなかったか?
約束すっぽかされたの一度や二度じゃないぞ。
「俺は女性に敬意を払ってるからな。何なら話した内容や日時や服の柄や食事のメニューも全部覚えてるぞ」
お前その記憶力をもうちょっと別の事に活かせよ!?
フジたちが一斉に溜息をついた。
ちなみにこいつらも精神世界には巻き込まれていたのだが、フジとシルが一緒に、ジューニャは一人で泣きながらジャングルをさまよっていたらしい。
あの時手を触れていた俺とエフティが一緒だったのもそう言う事か?
まあそれはいい。で、そこのお供二人は?
「上が雇った冒険者って触れ込みだったからわからん」
まあそうか・・・どうした、シル?
「うん。ダンジョン登録管理官って普通なら経験積んだ職員を派遣するものなんだけど・・・ジローは実務せいぜい一年くらいだよね? ちょっと不自然なんだよ」
「俺もそこは『え、俺なの?』って思ったけどさあ、上司のバーティス様がカーヴェと仲いいから選んだみたいな事言って、まあそんなもんかなって」
ふーむ・・・有りそうな話ではあるが。
「くさいと言えばくさいですね」
その上司が黒幕とは限らないが、誰かに入れ知恵されてる可能性もある。まあ次だ。
今回の事以外で記憶が飛んだ事はあるか?
「・・・あっ! 言われてみればあった! 一年くらい前、内務省に入って初めての休日に
家に帰ったのは日が暮れてからだから、その間ずっと女の子口説いてたはずなのに!」
やっぱりそれが基準になるのか・・・いや待て。
一年前って、まだお前婚約者と付き合ってたはずじゃなかったか?
そう言うと、ジローはチッチッチ、と指を振った。
「お前は分かってねえなあ。いい女がいたら口説くのはいい男の義務だぜ?」
いや、そんな片目つぶって歯を光らせられても。
周囲の視線が零下にまで下がってるからな?
「捨てられた理由がよくわかりますね」
「クズなんだよ」
「エルフの森だったら、娘さんのご両親に袋叩きにされてますよ?」
「なあ、こいつ殴っていいか?」
話を聞いた後は好きにしろ。
「え、ひどくない? それ友達の言うセリフじゃなくない?」
真顔で言う馬鹿はスルー。
まあ余り言うと我が身にも跳ね返って来そうだから黙ってよう。
ちなみにエルフの世界でもちゃんと手順踏んでれば一夫多妻はありらしい。
遊びでやると、娘の家族がケジメをつけに来るらしいが。
「ダンジョン・コア盗んだときの記憶はねえなあ。
ここで目が覚めるより前、最後の記憶は村の入り口でお前と別れたときだったかな。
っていうか、一体全体何がどうなってんの?」
そこからかよ。
「まあ確かに、状況を一度整理した方がいいかと思います」
そうだな・・・まず、ぺーぺーのお前が特に指名されて登録管理官に任命された。
お前が洗脳というか、謎の精神体に憑依されてたことから考えて、恐らくはこれ自体何者かの差し金だったんだろう。
「憑依!?」
ああ、精神世界でお前の頭にべったりとな。
「くっ、どうせならかわいい女の子の幽霊に・・・」
話を続けるぞ(無慈悲)。
んでもって、必要なところではお前の意識を前に出して俺に怪しまれないよう振る舞い、俺の目が離れたところで中の人が主導権を奪ってダンジョンコア盗み出して逃げたと。
逃げた馬の速度は異常だったし、明らかに魔法か何かで強化していた。
お前確か《健康の加護》だったよな? 乗騎を強化する《騎乗の加護》とかじゃなかったよな?
「まーな。どこにでも転がってる奴だ。あー、俺にも何かカッコイイ《加護》があればなー」
実のところ、人間の持つ《加護》の中で一番多いのがこれだ。ジローのそれは腐っても冒険者族、同じ《健康の加護》でもかなり強めだがそれにしても希少価値には縁遠い。
それはおいといてお供の二人は即座に逃げようとしたあたり、お前に取り付いてた何かに一緒に支配されてたとかじゃない。明らかに自分の意志でこの事件に関わっている。
視線を向けると、拘束された二人はふてぶてしい顔で嘲りの笑みを返した。
そうだ、ジューニャ。ジローとそこの二人と馬、霊視とかで見て貰えるか? 何かあるかもしれん。
「わかりましたぁ」
目に魔力を集中させて、三人をじっと見つめるジューニャ。ちなみにこれは魔術ではなく、エルフが生来持ってる能力なんだとか。人間でも大魔術師と呼ばれるレベルなら同じような事はできるそうだ。
フジが手早く荷物を漁り、手掛かりを探す。
見つけた書類をシルが手早くチェックしていた。
「・・・三人とも芸達者だなあ・・・」
ちょっと落ち込むエフティ。
周囲と捕虜を見張るのも大事な仕事だから。
そんな事を言って、俺はエフティを慰めてやった。
それでどうだ、ジューニャ?
「うーん、ジローくんには僅かに憑依してたとおぼしき霊体の気配がありますね。
聞いた話から考えるに、精神世界で滅ぼされて消滅したんでしょう。
ジローくんはかなり生命力も強いし、このまま放っておけば大丈夫だと思いますよ」
そこでジューニャは言葉を切り、少し目を伏せた。
どうした?
「その、ですね。馬から妙な魔力が感じられるんです。
それも余り良くないものが」
ふーむ。
考えていると今度はフジから声がかかった。
「ちょっとよろしいでしょうかジューニャ様。
荷物の中に変な瓶があったのですが、これ、魔力を発していますよね?
なんだかわかります?」
ワインボトルくらいのガラスの瓶の中には、血のように生々しく、どこか禍々しい雰囲気の赤い液体。
「さっきそいつらを捕縛したときに、これを飲もうとしていたようでしたが・・・」
ん? ワインボトル? 何か引っかかるものが・・・
「あ~っ!」
フジの持つ瓶を指さして、ジューニャが絶叫する。
「それ! それですよ! 馬の中にあった良くない魔力の元は!」
俺達の視線が、一斉にその液体に集中した。