全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第十六話 血のワイン

「良くない魔力ですか。確かに・・・」

「そんな感じがするんだよ」

 

 エフティ。お前鼻も利くよな? ちょっと嗅いでみてくれるか?

 

「おう。お前ら、驚くなよ」

「!?」

 

 エフティの頭にぴょこん、と犬か狼らしき耳が飛び出る。

 コルク栓を抜いた瞬間、その顔が盛大にしかめられた。

 大丈夫か?

 

「大丈夫だけどよ・・・何だこの甘ったるい匂いは」

 

 慌てて栓を閉め、フジに瓶を渡すエフティ。

 そんなきつかったか、すまん。

 

「それはいいんだけどさ・・・ワインじゃねーな。

 少なくとも団の連中が飲むような安ワインじゃない」

 

 ちょっと嗅いでみたけどメチャクチャ甘ったるい匂いがする・・・飲んだ事はないが貴腐ワインという奴か? いやでもあれ白ワインだよな。

 

「かもしれないけど、なんて言うか・・・そのものじゃないんだが、血の匂いというかそれに近い、そう、腐臭だ。死体の腐臭に近いモンを感じる」

「確かに。はっきりとは分かりませんけど、そうした死霊術に関係するような魔力は感じました」

「あー、これ多分飲んだ事あるわ」

 

 えっ。

 みんなが一斉に振り向いた先には、俺の手の瓶をくんくん嗅いでるジロー。

 飲んだって、いつ、どこでだ?

 

「内務省に入ることが決まったときだな。ほれ、お前もお祝い会来たろ?」

 

 ああ、それは覚えてる。

 

「解散した後、帰り道で良さそうな酒場見つけてちびちび飲んでたんだが、そこで美人のおねーちゃんと意気投合してさ。ばぼーん!のぱつぱつーん!のぴっちぴち!って感じのさ!

 それがにっこり笑って『ご一緒してもいいですか』って言ってさー!」

 

 罠だな。

 

「罠ですね」

「罠なんだよ」

「ハニートラップという奴ですか」

「男ってのはこれだからさあ・・・」

「なんで全否定から入るんだよ!? 俺の隠れた魅力に気付くご婦人がいてもおかしくはないだろ?」

 

 まあタデ食う虫も好き好きって言葉はあるが・・・隠れた魅力ねえ。

 

「ねえよそんなもん」

「ぐふっ!」

 

 エフティさん! 手加減! もうちょっと手加減を!

 それで、その女と飲んでたのがこれなのか?

 

「ぐうう・・・少なくとも同じ種類の酒ではあるな。珍しい味だと思ったから覚えてる」

 

 こいつがそう言うなら多分そうだろう。

 酒や料理のうんちくとか、ファッションとか、意外と詳しいのだこいつは。

 詳しくなった理由は言うまでもないだろう。

 結果に結びついた事はないが、努力だけは認めてやらんでもない。

 

「それでその女とは?」

「それっきりだよ。気がついたら家で寝てた。それが最初に記憶が飛んだ半月くらい前の話さ」

 

 うーむ。

 

「でもそれはそれでおかしいですね。

 何かに憑依されたのが一年前として、そのころのカエラ様はただの伯爵家嫡子です。知っている人間であれば、廃嫡される可能性すらあるとわかっていたでしょう。

 カエラ様狙いとすると時期が合わないのでは」

「多分ジローを取り込もうとしたのは別口なんだよ。

 カーター家はニシカワ家みたいな英雄の家じゃないけど、それでも官僚には代々強い影響力を持ってるんだよ。そもそも省庁を今の形に再編成・機能化したのがカーターの初代だし」

 

 現にジローのおやじさんは内務省の大立て者だしな。

 十年後には多分大臣の地位についてるだろう。

 兄貴のケーンさんも若手のホープで、派閥の重要ポストについてる。

 ジローを介して何らかの影響力を発揮しようとしたってのは有り得る話だ。

 

「つまり、カエラくんが名を上げてダンジョンを発見したので、旧知のジローくんに白羽の矢が立った?」

 

 じゃないかなあと思う。

 そして話してて思いだしたんだが・・・シル、ワインで思い出すことはないか?

 

「え? あ。まさか、フォルヴァン修道院の?」

 

 ああ。

 お前が押し込められていたあそこだ。

 定期的に姿を消していた若い娘たち。

 修道女を装っていた連中の「体に不純物がなくていい」という言葉。

 地下にあった謎の魔法装置。

 「出荷」していたワインと称するもの。

 

「・・・それだけでも嫌な匂いがぷんぷんするな」

「それ絶対女の子生贄か何かにしてるんですよ?!」

 

 うへえ、とうめくエフティ。ジューニャが悲鳴を上げるが俺も同感。

 あれの行き先はロウに探って貰っていたが・・・いやな所で先に見つけてしまったかもしれんな。

 

「・・・」

 

 ちらり、と捕縛したお供二人に目を向ける。

 双方共に硬い表情。

 まあこいつらが修道院の連中と同じ組織かどうかはわからないが、少なくとも何らかの形で繋がっているのは間違いない。色々吐いて貰おうか。

 

「・・・」

 

 二人は無言のまま。

 まあそう簡単に白状するわけもないな。

 フジ、お前拷問とかできる?

 

「出来なくはないですが・・・」

 

 が?

 

「お前は色々加減が利かないからどうしようもない時以外はやめておけと言われました」

 

 ちょっと分かるなあ・・・シル、なんかこいつらに使えるような呪文持ってないか?

 金銭(ネー)・・・愛の神(アルリカ)の司祭なんだから、心がダイレクトで通い合うような呪文とか。

 

「今なんて言おうとしたんだよ?」

 

 ジト目で睨んでくるミニ怪獣。普段から思っている事ってぽろりと言葉に出るよね。

 それはさておき何かナイカナ?

 

「・・・愛の神(アルリカ)さまの教えて下さる呪文には、人の感情を察するような物はあっても、心を覗いたりするようなものはないんだよ。

 愛ゆえに嘘をも許容するというのが愛の神(アルリカ)さまの教えだから」

 

 なんて慈愛に満ちあふれた神様だ。

 その神様が何でまた、こんなえげつない銭ゲバに司祭の位を与えたんだろう。

 

「カエラちゃんが何かすごく失礼なことを考えてる気がするんだよ」

 

 気のせいだろう。

 ジューニャ、一応聞くが何か使えそうな呪文持ってないか?

 

「拷問なんて出来ませんよ?」

 

 そうか? やり方次第だぞ。《念動》で少しずつ指を潰していくとか、《仮物質創造》で竹串を作って指と爪の間に押し込むとか、《着火》で熱した短刀を体に押しつけるとか。

 

「私の呪文をそんな事に使わないで下さい!」

「我が一族の拷問の秘伝を何故ご存じなんです・・・?」

 

 悲鳴を上げるジューニャ、冷や汗を流すフジ。

 まああれだ、物の本でな。ご先祖様が書き残したんだと思うが。

 

初代様(白のサムライ)何してらっしゃるんですか!?」

 

 しかしそうなると最後の手段だな。エフティ、ちょっと頼む。

 そう言うと彼女がきょとんとする。

 

「え? オレ拷問なんてやったことないぞ?

 殴る蹴るくらいならそりゃできるけどさあ」

 

 お前がやったら死んじまうから、それは最終手段な。

 つまりだ・・・ごにょごにょ。

 

「はあ・・・そんなんでいいのか? まあやれってんならやるけどさ」

 

 

 

「ぎゃあああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 終始無言、ふてぶてしい態度で笑みすら浮かべていたお供の一人が、絶叫を上げて転がり回っている。

 もう一人も無表情を維持してはいるが、顔が真っ青だ。

 

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

 

 刺したエフティを含めてギャラリーはドン引き。

 

「カエラ様・・・あれは何なんです?」

 

 世界で最も「痛い」毒を持つ生物さ。

 カツオノエボシ。クダクラゲ目カツオノエボシ科。

 別名電気クラゲ、あるいは「フローティングテラー(浮かぶ恐怖)」とも呼ばれる。

 名前通りの危険生物で、刺されると大の男が泣き叫ぶ強烈な痛みが数日間続く。

 そう、数日間である。

 人間サイズの生物なら刺されただけでは死ぬことはほとんどない上に(二回刺されるとアナフィラキシーショックで死ぬ可能性はある)、強烈な激痛が長時間続くので、拷問にはもってこいなのだ。

 どっちか吐けば、シルの解毒呪文をかけてやろう。

 吐かないならもう一人にも毒針を刺して、最初に吐いた方だけ解毒の呪文をかけてやる。

 さあどうする?

 

「引くわー。ドン引きだわー。付き合い長いけど、結構えげつないよなコイツ」

「まあ、否定はいたしかねますね・・・」

「正直フジよりよっぽどニンジャに向いたメンタルしてるんだよ」

「発想が怖いですよね」

「こええ・・・」

 

 そこ、うるさい。エフティ、もう一本毒針の準備しておけよ。

 もう少ししても吐かないようならそっちにも毒食らって貰うぞ。

 刺されなかった方が洗いざらい吐いたのは、それから五分後だった。





>貴腐ワイン
特殊なカビで発酵させた白ブドウで作るワイン。
「甘味で頭がおかしくなる」と称される釈迦頭(しゃかとう)という果物が糖度25のところ、糖度30から60という人類の触れてはならない領域の甘さを誇る。
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