全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第十九話 吸血鬼

「門と塀の上に感知の魔術がかかってますね。乗り越えたら警報が鳴る仕組みです」

 

 屋敷の周囲全てを覆ってる訳じゃないんだな?

 ならタチバナに全員の姿を消して貰った上で、ジューニャの念動呪文で全員宙に浮かべて侵入しよう。

 俺だけなら飛び越えてもいいんだが、シルやジューニャやトリスには無理だろうしな。

 タチバナ、透明化はどれくらいもつ?

 

「この人数だと三十分が限界かと」

 

 だろうな。しょうがない、邸内に入ったら透明化を切ってくれ。

 

「俺がついて来る必要はあったんすか?」

 

 と、トリス。

 まあお前の知った顔がいるかも知れないからそれに備えてな。

 それじゃ行くぞ。

 

「この時間なら御父様はまだ執務室で仕事のはずなんだよ」

 

 もう夕食も終わった時間なんだがな。

 ともかく行くぞ。邸内の案内は頼む。

 

「任せるんだよ」

 

 

 

「・・・む」

 

 スカージは眼を細めた。

 書類に何かを書き込んでいたニルス・スウェア・マリネスキー男爵が一瞬手を止め、何事もなかったかのように仕事を再開する。

 男爵の護衛であるスカージは国でも数少ない巨人級(第一級)の使い手であり、その中でも最強の一人と目されていた。

 2mを優に超える偉丈夫であり、顔は傷だらけ。筋骨隆々の体には40半ばを越えても衰えが見られない。

 達人と呼んでまず異論の出ない男。厄災(スカージ)の通り名に相応しい男でもある。

 それが今違和感を感じていた。

 音はしなかった。視覚情報にも何ら異常はない。

 だが違和感を感じる。

 

「御当主様」

 

 再びペンの音が止まった。

 右手の木剣を握り直し、音を立てず扉の横に立つ。

 ノブに手を伸ばしたところでこんこん、とノックの音。

 あるじに視線をやる。

 

「入れ」

 

 男爵の声。

 開くドアの陰に隠れて入ってくる何者かを待つ。

 だが扉が開いた瞬間、彼は久しぶりに「驚愕」という感覚を味わった。

 

「よう、久しぶりだなスカージ」

「おっきいから、隠れててもすぐわかるんだよ」

「お嬢様・・・カエラ様」

 

 困惑するスカージに出来たのは二人の名前を口にすることだけだった。

 

 

 

 や、どうもお久しぶり。

 部屋の中にいた二人に挨拶する。

 ドアの陰から頭が見えている巨漢がスカージ。知っている中ではうちの爺さんと並んで一番強い人間の一人だ。

 そして部屋の奥、大きな机に座っている50絡みの男がシルの父マリネスキー男爵。

 大きな鷲鼻、血色は悪く、落ちくぼんだ眼窩の中にぎらぎらと光る目。

 吸血鬼と言われたら信じる。

 銀河帝国の暗黒皇帝とか魂を分割した悪の大魔法使いを演じさせたらハマリ役だろう。

 

「久しいな、カエラくん。

 タチバナ嬢とフジ嬢だったか。後ろの青年も含めてニシカワの影の一族だな」

「ご記憶頂き光栄です」

 

 タチバナが優雅に一礼する。

 ふん、と鼻を鳴らして視線を滑らせる男爵。

 

「そちらのエルフは確かジューニャ師、後ろの男と女は傭兵か・・・ん? まさか」

 

 目を見開く男爵。

 この人のこんな顔は初めて見たな。まあさすがに驚くか。

 

「王女殿下にお出で頂き、光栄に存じます」

 

 立ち上がって一礼する男爵にエフティが肩をすくめる。

 

「王女っ!?」

 

 トリスが変な声を出すが「わかってるな? ん?」という視線を向けると大人しくなった。よしよし、賢い奴は長生き出来るぞ。

 

「よしてくれよ。どうせもう死んだことになってんだろ?」

「ええ、それはまあ」

「ならオレはただの傭兵さ。金を出すなら雇われなくもないけどな」

「なるほど、噂の真紅のオーガ団の二代目というのは・・・まあそれは置いておきましょう。

 それで? 何の用かな。情の薄い父親を恨んで暗殺しにでも来たか」

 

 感情のうかがえない視線をシルに向ける。

 

「・・・」

 

 それを真っ向から見返すシル。

 

「状況によってはそうするけど、別に恨みに思っているからじゃないんだよ。

 今日来たのは御父様が敵かどうか。そして利用する価値があるかどうか確かめるためなんだよ」

 

 にたり、と男爵が笑った。

 怖いって。

 猫をかぶった優しい笑みも出来る人なんで取り繕う必要を感じなくなった=ある意味認められたってことだろうが。

 で、単刀直入に聞きますよ。

 あなた、俺達を襲わせましたか?

 男爵が再び笑みを浮かべる。だから怖いってば。

 

「違うね。一年前ならともかく、今の君には非常に価値がある。

 シルが隣にいることも含めてだ。

 価値ある資産をわざわざ自分で損なおうとは思わんよ」

 

 この言いぐさである。

 極めつきに有能なのに嫌う人間が多いのもむべなるかな。

 ちらりと振り向くと、エフティとジューニャが頷いてる。嘘ではないって事だ。

 シルが静かに反論。

 

「でも、価値ある資産ももっと価値のある資産と交換なら手放すことも有り得るんだよ。

 たとえば王家へのツテとか、ダンジョンの利権とか・・・人間を圧倒的に強化する魔法薬とか」

 

 男爵の笑みは変わらない。

 

「なるほど、興味深い話だな。

 だが王家のツテなら既にあるし、ダンジョンの利権を横から奪うのはかなり難しい。ニシカワとはマデルの輿入れが決まっているし、シルが既にカエラくんと結婚していたことにすれば不可能ではないがね。

 最後のはひょっとして、ここ十数年裏で取引されているという『ブラッド・リー』のことかな?」

 

 十数年か。結構前から流れてるんだな。

 

「流通量はごく少ないがね。十倍の重さの金貨と同じか、それ以上の価格で売られているそうだよ」

 

 まああれだけ強力な魔法薬ならな。

 そのブラッド・リーの流通にアレン・ベグイルが関わっていると言ったら信じるか?

 

「うちの大番頭がか? まあないことではあるまいな。

 あいつはあいつでそれなりに思惑を抱えている」

 

 分かってて放置してんのかよ。管理者責任はどうした。

 

「これだけ大きな商会だ、わし一人では到底動かせん。

 優秀な人材にはそれ相応の報酬が必要と言うことだよ。

 デメリットをメリットが上回る限りにおいてだがね」

 

 割切ってるなあ。

 いや、組織の管理者としては見習うべきところもある・・・のかな。

 

「メリットが上回る限りにおいてと言った。

 状況によっては切り捨てるにやぶさかではない」

 

 とは言え、これだけ大がかりな話に大番頭が関わっててあんたが関わってないってのも首をかしげるところではある。

 シルを放り込んだ修道院に関しては?

 

「それもアレンが持ってきた話だな。

 逃げだそうとしたのでしばらく頭を冷やさせるつもりだったが、何があった?」

 

 もう一度振り向くと、やはりジューニャとエフティは頷いた。

 この件に関しては彼も嘘はついてないらしい。

 少なくとも父親が娘を生贄に捧げようとしたとか、そう言う胸糞案件ではなかった訳だ。

 軽く安堵の息をつくと、俺はシルを修道院から助け出したときの経緯について話し始めた。




>銀河帝国の暗黒皇帝とか魂を分割した悪の大魔法使い
スターウォーズのダース・シディアスとハリー・ポッターのヴォルデモート。
ダース・シディアスが9で雑に復活したのは、8でグチャグチャになったストーリーラインを強引に引き戻すための緊急措置だったんじゃないかと今でも疑ってる。
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