全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
シルの入った修道院の異常さ。
消えていった娘たち。
修道女を装った手練れの護衛。
地下の魔法装置。
少女たちを生贄にして生み出されるとおぼしき赤い液体。
恐らくは魔法装置の大爆発による修道院の消滅。
俺とシルが代わる代わる話すそれを、マリネスキー男爵は無表情で聞いていた。
「ふむ、興味深い。しかし『ブラッド・リー』と、修道院から『出荷』されていたワインとやらが同一のものだという証拠はないのではないかな?」
その点は認める。だが状況証拠が揃いすぎているのも確かなんだ。
「少なくとも『ブラッド・リー』が生命や霊体を原料に作られたものなのは間違いありません。それも動物やモンスターではなく、人間か妖精のそれをです。
動物にしては精霊力が濃すぎ、モンスターであればもっと純粋な魔力になります。
同時期に発生した少女たちの行方不明事件と関係している可能性は無視出来ません」
「なるほど」
ジューニャの解説に頷く男爵。
で、どうするんだ。
「どうするとは?」
楽しむ様にこちらを見上げる男爵。
決まってるだろ。アレン・ベグイルだよ。
守るのかそれとも切り捨てるのか。
「現状では何ともだな。だが奴を調べるのであれば邪魔はしない」
商売に支障が出ない限りは、ってことだな。
まあいいだろう。この海千山千の「吸血鬼」を簡単に口説き落とせるとは思っていない。
不干渉の言質が取れただけでヨシ!としよう。このおっさんに約束を守る気があればだが。
ジューニャとエフティという嘘発見器はいるが、こいつくらいの怪物だとそれも心許ない。
そんな事を考えていると、俺の表情を読んだのか男爵がにたりと笑った。
「カエラくん。君も私の悪評は随分と聞いているだろうがね。
私の悪徳の中に『おつりをごまかす』というのはないんだよ」
・・・覚えておくよ。
用は済んだ。行くぞ、みんな。
「はい、カエラ様」
「・・・」
シル?
「何でもないんだよ」
父親を睨んでいたシルが身を翻す。
「どうぞ」
スカージがドアを開けてくれる。
ありがとうよ。
「じゃあねなんだよ、スカージ」
「お嬢様もお元気で」
手を振るシル。
僅かに目に感情を乗せるスカージ。
それを横目で見ながら、俺達は男爵の執務室を後にした。
入ってきたときと同様、タチバナの術で透明化して、ジューニャの術で塀を飛び越える。
そのまま何事もなく俺達はアジトの安宿に戻った。
居残り組に
「で、これからどうするんだ?」
旅の疲労も顔面陥没もけろりと回復したジローがムシャムシャ食いながら俺に問う。
まずは情報収集だがこれはタチバナたちとロウに任せるしかない。俺達は荒事は得意だが、情報収集となるとプロの出番だ。
もっとも今回は頼もしい助っ人がいるからな。期待してるぞ(肩ポン)。
「え、俺?」
正確にはお前の実家な。
お前のオヤジさん、今次官だっけ?
ケーン兄さんもバリバリ働いてる若手のホープ。
官僚の世界で仕事が出来るって事はたくさんコネを持ってるって事で、つまり情報の集まってくる立場って事だ。
「あー、そうなんだ」
感心したようにうんうん頷くジロー。
こいつ本当に大丈夫だろうな・・・? ちゃんと仕事出来てんのか?
「これでコミュ能力だけはお高くていらっしゃいますから・・・」
フォローになってるようななってないような事を言って、フジが溜息をつく。
「まあ迷惑かけちまたからな! 詫びのぶんは働くぜ! どーんと大船に乗った気でいろや!」
わははとジローが高笑いする。それを見て俺も溜息をついた。
「これは・・・カエラ様!?」
よう、ショウ。久しぶりだな。
ジョンおじさんとケーン兄さんいる?
「はい、お二人ともご在宅です。少々お待ち下さい」
よろしく。
翌日の夕方、カーター家の門前である。顔見知りの門番がいて助かった。
「お会いになるそうです。どうぞ奥へ」
取り次ぎを頼むと、すぐに談話室に通された。
中には立派なカイゼルヒゲのおっさんと、20半ばのやせぎすだが精力的な印象の兄ちゃん。
ジョンおじさん、ケーン兄さん、ご無沙汰してます。アキおばさんは?
「奥様友達と観劇に出とるよ。カエラも元気そうで何よりだ」
「ここのところ王都では君の噂で持ちきりだよ。省でも話に出ることが多くてね。
で、今日はどうしたんだい?」
ええ、今日はこいつのことで少し。
そう言って指さすと、ジローがフードを上げた。
こいつは今公式ではマット村の近く、敵の組織からしてもあの遺跡のあたりにいるはずなので、念には念を入れて顔を隠させていた、のだが・・・こいつの顔を見た途端、おじさんと兄さんの表情が一変した。
「お前・・・確かマット村に出張していたんじゃなかったか?」
「うんまあ、色々あって・・・」
「また変な女にひっかかって、公金ごと身ぐるみ剥がされて泣きつきに来たのか?」
「それとも侯爵の娘と知らずにしつこく口説いて、決闘を申し込まれたのか?」
おい。
「違うんだカーヴェ! アレはちょっとした行き違いで・・・親父! 兄貴! 今回だって俺には何も責任はないんだよ! 不幸な事故なんだ!」
「・・・」
「・・・」
すげえな、父親と兄の目に、まるで信用の色が無い。
「それでカエラ、今回この馬鹿息子は何をしでかしたのかね?」
ダンジョン登録管理官の業務を利用してマット村に潜入し、ダンジョン・コアを盗み出して逃亡するのを手助けしました。
「カーヴェー!?」
「よしそこに直れジロー。今度という今度は堪忍袋の緒が切れた! そのそっ首落として性根を叩き直してくれる!」
「父上! 死んじゃう! 首落とされたら死んじゃうから!」
これ以上ないほど真剣な顔ですらりとカタナを抜き放つジョン・カーター宮廷子爵。
この人内務省のお偉いさんだが若かりし頃はバリバリの警察官僚で、ポン刀で犯罪組織と斬り合ってた指折りの武闘派、爺さんが認めるほどの使い手だったのだ。
密輸組織のボスと一時間に及ぶ死闘を演じたエピソードは今でも警邏隊では語りぐさだし、炎の星に転移して緑の巨人たちからお姫様を救出、それがジロー達の母親だとかいう武勇伝もあって、そんなホラ話に一抹の真実味を感じさせるくらいには強い。
「カーヴェー! 助けてー!」
はいはい。
今回そいつは利用されただけで、必ずしも責任がある訳じゃないので、まずは話を聞いてください。
「・・・」
説明を聞いても、二人は難しい顔だった。
「・・・その話が正しければ利用されただけとは言え、愚息が大変な迷惑をかけてしまった。
何としてでもこの埋め合わせはしよう」
「私からも謝罪する。愚弟のしでかしたことの詫びにできる事はさせてくれ」
ありがとうございます。
取りあえず・・・ジローの首にぴたりと据えられたままの刀、どかしましょうか。
>内務省
今の日本にはありませんが、戦前の内務省は警察と公安(特高)、神社本庁、総務省、国土交通省、厚生労働省を含む巨大機関でした。
いやでかすぎやろw
>ジョン・カーター
SFの古典「火星のプリンセス」の主人公の名前。
本来この人ただの内務官僚だったのだが、
「先祖が日本人だから坂田をもじってカーターにしよう」
「親父の名前適当にジョンでいいや」
「・・・あれ? これって火星シリーズの主人公の名前じゃね?」
という適当極まる経緯により、何故か剣の達人になってしまった。
数百メートルジャンプとかは多分出来ない。