全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第二十三話 オクレ兄さん

「ケーンにーさーん?!」

 

 キャシャリーン!

 

「え、何!?」

 

 いや、思わず。関係ないから気にしないでくれ。

 

「関係なくねえよ! 兄さんに何してくれてんの!?」

 

 畳の棺桶と、その中で悶絶してるだろうケーン兄さん。

 俺の襟首掴んでまくし立てるジロー。

 まあまあ。今から説明するから落ち着いて聞け。

 まずそこにいるのはケーン兄さんだが、中身は兄さんじゃない。

 

「どういう事だよ!? どう見ても・・・」

 

 察しの悪い奴だな。お前も同じ状態だったろうが。

 

「あ、何かに憑依されてるってことか!?」

 

 そういうことだ。

 しかしこれは参ったな。

 コアを追わなきゃならないが、兄さんを放置しておく訳にもいかん。

 

「フジちゃんやタチバナさんの一族の人がいるんだろ? 兄貴は彼等に頼むから、お前達は先に行ってくれ」

 

 ・・・いいのか?

 

「兄さんは霊術師呼べば何とかなるんだろ。迷惑かけっぱなしじゃ男がすたる」

 

 すまん。ヒョウ、連絡つけてくれ。ここに・・・何だ? 周囲に人の気配が?

 

「若様! レイから警邏隊が貧民街に突入してきてると!」

 

 何だと!?

 外を窺うと、足音と人の気配。百人越えてるぞこれ。

 

「全員武器を捨てろ! 警邏隊である! 術師もいる! 透明になって逃げようとしても無駄だぞ!」

 

 ・・・くそっ!

 

 

 

 取りあえず名前と身分を名乗ると武装解除はされずに警邏本部に連れて行かれる。

 平民だったら身ぐるみ剥がされて直で牢屋行きだったろうな。

 レイ経由で連絡したジョンおじさんがやってくると来客用の部屋に移され、それから更にしばらくしてしょぼくれたおっさんがやってきた。

 もっともしょぼくれてるのは外見だけで、にやついた目が嫌悪感と危険さを感じさせる。

 シルのオヤジさんが吸血鬼ならこいつはヒルだ。

 人の血を吸うのは同じだが、生かさず殺さず食いついたら離さない。

 

「やあどうも。しばらくぶりだねジョン。ジローくんとは初めてかな。

 そしてはじめまして、カエラ卿。ボクはウォルター・ゴットリープ。噂の『飛竜殺し』に会えて感激だ」

 

 ちっとも感激していない顔。

 挨拶されたジョンおじさんが顔を歪めた。

 

「特殊調査部の部長が何用だ」

 

 それだけで部屋の空気が変わる。

 内務省特殊調査部。

 警邏隊では捜査しきれない、あるいは不向きな調査を行うための内務省でも秘匿性の高い部署。

 つまる所が秘密警察だ。日本で言えば公安か戦前の特高か。

 しかしこいつは・・・?

 

「そう睨まないでくれ。内務省の中で人が消えたんだぞ?

 動くならボク達だろう?」

「にしても随分早いな。そして何故邪魔をした?

 カエラ君たちは犯人の追跡をするところだったんだぞ」

「あの状況では全員動きを止めるしかなかった。しょうがないだろう?」

 

 肩をすくめるゴットリープに、ジョンおじさんは険しい顔。

 後ろからエフティが囁いてくる。

 

(おい、こいつ・・・)

 

 多分お前の思ってる通りだ。匂いは嗅がなくていいぞ。まあそれはともかく。

 ゴットリープ、ケーン兄さんはどうした?

 

「ああ、ケーンくんなら隔離しているよ。

 現在霊術師を連れてくるところだ」

 

 そうか。その言葉が信じられればもっと良かったんだがな。

 と、これは心の中だけで呟く。

 

「それで、ケーンをどうするつもりだ?」

 

 ジョンおじさんも険しい表情。

 ゴットリープが肩をすくめる。

 

「もちろん真実を見極めるのさ。キミ達の言うことが本当かどうかだってまだ分からない。

 だから、キミたちには――カエラ卿も含めて――しばらくここにいて貰う」

「貴様!?」

 

 ジョンおじさんが顔色を変えた。

 

「元からこれはボク達の仕事だよ。元警邏隊総括とは言え、今は別部署のキミが口を出すことじゃない」

「私は内務省次官だ。おまえたちに対しても指揮権が・・・」

 

 にまり、とゴットリープが笑う。

 

「残念だが今のキミは容疑者だ。既に逮捕状に大臣閣下のサインも頂いたよ」

 

 おじさんの顔色が変わる。

 

「容疑だと!? 何のだ!」

「内乱及び違法な魔法薬の流通。息子を使ったダンジョン・コアの強奪。他にもいくつか」

 

 ふむ。だがそれなら俺は関係ないはずだな?

 俺まで拘束する理由はなんだ。

 

「ダンジョン管理の不行き届きと、カーター一家との共謀の疑いだ。

 こちらも既に逮捕状へのサインは頂いてある」

 

 手回しのいいことだ。

 

「プロだからね。ではごきげんよう」

 

 再びにまりと笑うゴットリープの姿が、突然かき消えた。

 ジューニャ! 全員に《鎧》と《念動》!

 

「は、はい!」

 

 呪文が発動して俺達の周囲に不可視の防御フィールドが発生するのと、部屋の扉に鍵がかかるのが同時。

 次の瞬間、部屋の四方から薄青色の煙が勢いよく吹き出す。

 

「! 眠りの香です!」

 

 タチバナの焦った声。

 大丈夫、ジューニャの《鎧》は体を完全に覆うから、しばらくなら問題ない!

 

「くそ、してやられた!」

 

 ジョンおじさんが机に拳を叩き付ける。

 

「ど、どーゆーことだよ!?」

 

 パニックを起こすジロー。

 落ち着け。つまりハメられたんだよ。

 こうなったら力ずくだ。全員衝撃に備えろ。ジューニャは合図したら俺達を持ち上げるんだ。

 

「はっ」

「了解なんだよ」

「わ、わかりました」

 

 ガイア・インパクトォ!

 全力の震脚を踏むと、震動が走る。

 次の瞬間、内務省の建物は一棟丸ごと崩壊した。

 

 

 

「うわああああああああーっ! 死にたくないーっ!

 どうせ死ぬならミルクホールで全裸のミス・ヨシワラ百人に圧迫祭りされて『ええんやで(Let it be)』を歌いながら死にたかったーっ!

 ・・・あれ?」

 

 アホな事をわめいていたジローが我に返る。

 俺達はガレキを突き破って上昇していた。

 全員傷一つない。

 ジューニャの呪文のおかげだ。

 このまま脱出・・・

 

「!?」

 

 見えない巨大な「何か」が飛来する。

 西川正宗ではなく、咄嗟に脇差しに差していたオリハルコンの短剣を抜いて「それ」を斬る。

 大木か巨石を叩き割ったような重い手応え。滅魔の剣が「それ」を砕き、膨大な魔力の残滓が周囲に突風を巻き起こす。

 

「何だと・・・今のは?!」

 

 顔色を変えたのはジョンおじさんとタチバナ。

 他の面々は何が起きたか理解出来ていない。

 

「まさか・・・『飛ぶ斬撃』ですか!?」

 

 一瞬遅れて思い当たったフジの声に、今度こそ全員が顔色を変える。

 「飛ぶ斬撃」。

 気、すなわち魔力を刃の形に凝縮して離れた敵を斬る剣士の奥義。

 かくいう俺も、使い手といえば爺さんとこの前のダブルエッジしか知らない。

 それもダブルエッジのとは比較にならない、巨人サイズの刃。

 斬撃の飛んできた方向から声がする。

 

「さすがは噂の『飛竜殺し』だ。

 こいつを止められたのは初めてだぜ」

 

 恐らく瓦礫をかき分けて地上に現れたのだろう。

 そこに立っていたのは筋肉の塊にボサボサの黒髪を乱暴に束ねた、いかにも人斬り浪人と言った風情の剣士だった。




>オクレ兄さん!
>キャシャリーン!
伝説のギャグマンガ「すごいよ!マサルさん!」より。

ええんやで(Let it be)
「Let it be」を関西弁に直すとこうなるらしい。
まあ間違ってはいないと思う。
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