全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
退屈だった。
退屈だった。
ずっとずっと退屈だった。
冒険者族で剣術道場を代々営む家に生まれ、物心ついたときには既に剣を握っていた。
11の時には既に並の大人には負けなくなっていたし、13の時には師範代を打ち負かした。
そして15の時に父親を殺した。
腕は中途半端なくせに伝統だの何だのにこだわるのが鬱陶しかった。
古い技法にこだわり、新しい工夫をするとかんしゃくを起こす。
それが死ぬほど嫌いだった。
無論ニホンから伝えられた剣の技法は大したものだ。
「始まりのサムライ」以来様々な剣士がニホンから流れ着き、技を伝えて来た。
我が家に伝わるゴータ流もその一つ。その技法はニホンから伝えられた他の剣術に何ら劣るものではない。
だがそれはあくまでパーツとしてだ。
剣と剣の戦いに特化した技術は、純粋に戦闘術として見た場合余りにもろい。
格闘術。投擲術。槍術。盾術。弓術や魔術。射撃戦や隠密戦、対魔法戦に至るまで、あらゆる戦闘に対応し、技術を組み合わせる必要があった。
伝統にこだわり、その邪魔をする父親は不要。
だが、それでもあれは師であり父であった。
達人と言える業前の持ち主で、自分より強かった。
だから従っていた。
それが強さにしか興味のない、戦餓鬼の外道に残された最後の一線。
強者に対する敬意。
そして十五の歳、父を越え、父を殺し、別れを告げた。敬意と共に。
それから二十年ほど。
故郷を出て工夫を重ねた。
他流の道場破りを何人も見てきたし、逆に自分で何度もした。
やはり戦闘術のベースとしてゴータ流は優れている。
同時にそれに様々な技法を組み合わせた時の有用性も確認出来た。
無論技術の工夫だけではなく、自分自身の地力の鍛錬にも余念はなかった。
あらゆる流派の奥義である「飛ぶ斬撃」も会得し、更なる高みを目指した。
武名は鳴り響き、いくつか仕官の誘いもあったが全て断った。
望みは強さ。それを磨き上げ、高める為の実戦。
強敵と戦うことこそ強さへの近道。
この世界では戦うことによって、相手の放つ魔力の刺激を受けて自分の魂と生命力が鍛えられる。
冒険者族言うところの「れべるあっぷ」。
冒険者がダンジョンに潜り、モンスターを倒して強くなるように、強い武芸者や、戦場の敵、あるいは裏の世界の強者どもと戦うことが強さへの唯一の道。
冒険者として、傭兵として名を馳せた彼は、いつの間にか裏の世界の住人となっていた。
強い敵と戦えるなら、そして強くなれる手段があるのなら。
そして一ヶ月前に依頼を持ってきたのは一人の特徴のない男。
はっきりとは名乗らなかったが、雰囲気で官憲、それも裏に通じた連中だと当たりをつける。
相手が噂の「飛竜殺し」、そして報酬が魔力を爆発的に増大させる魔法薬だと聞いて二つ返事で引き受けた。
そして今、不意を打って放ったはずの、必殺の「飛ぶ斬撃」を事も無げに切り払われた。
しばらく覚えのない、猛烈な歓喜が男を支配する。
「さすがは噂の『飛竜殺し』だ。
こいつを止められたのは初めてだぜ」
気がつけば、満面の笑みを浮かべていた。
右手にまだ痺れが残っている。「飛ぶ斬撃」を切り払った衝撃。
満面の笑みを浮かべた巨漢の剣士、右手には恐らく日本由来のものであろう刀。
だがそれよりも目を引いたのは――
「カエラくん・・・あの人、『ブラッド・リー』を使っています!」
これだ。
間違いなく達人、恐らく
しかしそれ以上に禍々しい魔力が体からあふれ出している。
ジューニャほど正確じゃない俺の魔力感知でも分かるくらいのそれ。
反射的にオリハルコンの短剣クサナギを左手に移し、西川正宗を抜く。
ヤバい、こいつはヤバい・・・!
たたずまいだけでも達人レベルの使い手なのが分かる上に、吹き出る魔力が尋常じゃない。
下手すりゃ
エフティも、ジョンおじさんも、タチバナも、実戦経験豊富なはずの面々が誰一人動けない。
下手をすればこいつひとりに全員が瞬殺されかねない。
それを肌で感じる。
「っと、さすがに名乗りも無しってのは無礼だな。
俺はダスキーニ・ヴォルタ。冒険者族だ。
『飛竜殺し』カエラ・ヴィクトリアス・ヴォロディア・ヴァレンタイン・ニシカワとお見受けする。
一手御指南願いたい」
周囲の庁舎から人の走り回る気配。そりゃ人も集まってくるか。
急いでこの場を離れないといけないが、こいつが許してくれる訳がない。
無茶でも何でもこいつを倒して――
「カエラくん。ここは私に任せて先に行きたまえ」
持っていた杖からすらりと剣を抜き、ジョンおじさんが奴の前に立ちふさがった。
ダスキーニが道ばたのゴミを見るような目でおじさんを見下ろす。
「よしなよ、ご老体。『飛竜殺し』ならともかく、あんたじゃ足止めにもならん」
「そうでもない」
抜きはなった刃を青眼に構え、静かにおじさんが言う。
「ほう?」
「この戦いにはな、ケーンとジロー。わしの二人の息子の命がかかっておる。
子供を守る親というのはな、強いぞ・・・!」
「・・・」
おじさんをしげしげと見下ろしたダスキーニが、ふむと頷く。
「こいつぁ失礼した。ではその親の力とやら、見せて貰おう」
「数分でも数秒でも足止めする。その間に逃げろ。カエラくん、息子たちを頼む・・・!」
・・・承りました。
タチバナッ!
「はい!」
「親父!」
タチバナが印を結んで《
ヒョウとレイの投げた煙玉が炸裂し、更に視界を遮る。
剣戟の音を背に、俺達は全力でその場を離れた。