全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第二十六話 土壇場

 十一時三十分。

 中央広場は既に黒山の人だかりだった。

 東西南北のメインストリートが交差する王都の中心、差し渡し500mはある広場は死刑を見物しに来た人達で足の踏み場もない。

 広場の中心には既に処刑台が作られ、罪人を据えるための台が用意されている。

 

 変装した俺とフジ、エフティが処刑台正面。

 タチバナとシル、ヒョウが周囲のホテルの一室に潜んで状況を俯瞰。

 レイとジューニャは幻影で姿を偽装して処刑台からやや離れた所に。

 ジローには悪いがクレアさんの屋敷で待機して貰っている。

 シルは心話の術で俺と繋がり、ヒョウとレイが《双子の加護》で繋がって、タチバナが全体に指示を出す。

 これ以外に周囲にも影の一族が潜んでおり、かく乱をしてくれる手はずだ。

 ジリジリと太陽が進んでいく。

 

 十一時四十五分。

 ジョンおじさんとケーン兄さんが連れてこられた。

 観衆が歓声を上げる。

 

(カエラちゃん、ジューニャ先生によれば二人とも本物なんだよ。

 ケーンさんにはまだ例の霊体が憑依してるって)

 

 シルからの心話。

 ちっ、厄介な。

 だが両方とも本物なのはベネだ。おじさんは体中黒く固まった血がこびりついているが少なくとも見た限りでは五体満足だし、自分で歩けている。

 兄さんに取り付いたオバケは助け出してからなんとかしよう。

 取りあえずはもっと厄介なのがいる。

 

 その一番厄介なのは当然壇上にいた。

 首切り役人に扮したダスキーニ。

 首切り用の処刑剣(エクスキューショナーズ・ソード)の代わりに持っているのは抜き身の日本刀。

 殺る気満々だな、おい。山田浅右衛門でも気取ってるのか。

 前回のように『ブラッド・リー』を使ってる気配がないのが幸いだが・・・奇妙なことに、壇上にはダスキーニ以外使い手らしき人間はいない。誘いか?

 もっとも・・・まあ予想されたことだが、観客の中にも奴らの手のものがいる。

 現在俺の波動感知は集中すれば50m、大雑把ならその倍。

 だがその大雑把な感知でもはっきりと分かる。

 一般人とは格段に違う巨大な生命力=魔力を持つ剣士級(第三級)の使い手が群衆の中に少なくとも百人。秘印級(第二級)が十人ほど。

 あるいはもっと多いかも知れない。

 メットーは冒険者の都でもあるからかき集めればそれ位いるかも知れないが、さすがに剣士級や秘印級が自然にこれだけ集まるってことはなかろう。

 

(・・・これ、どうにかできるんだよ?)

 

 どうにかするしかないだろう。

 場合によってはエフティ、頼むぞ。空飛んで二人を脱出させてくれ。

 

「まあやれって言われりゃやるけどさ。無茶だよなお前」

 

 肩をすくめる。

 ちなみにそう言うエフティは赤いフルプレートの完全武装だ。

 暴れる気満々じゃないか? それだと鳥になれないだろ。

 

「逃げる前に暴れる必要はあるだろ? いざとなったらワンタッチで脱げるから心配すんな」

 

 にやり、と笑うエフティ。便利だなあ。

 

 十一時五十五分。

 おじさんと兄さんが処刑台に据えられ、首切り役人ダスキーニが剣を構えて斬首ポジションに着く。

 告知役の役人が巻物を構えて処刑台の横に立った。

 

「早くしろー!」

「やっちまえー!」

 

 無責任な見物人の声が広場に響く。

 くそ、何も知らない奴らが勝手な事を。

 

(カエラちゃん、タチバナさんが抑えてって)

 

 分かってるよ。割と本気でたたっ切ってやりたくなってるが我慢だ。

 所詮他人事だから気軽に言ってるだけだしな。

 

 十二時ジャスト。

 メットー各所の寺院の鐘が一斉に時を告げる。

 役人がオホンと咳払いし、巻物を開いて。

 

「告げる! ここに反逆者ジョン・カーター及びケイン・カーのわっ!?」

 

 目を丸くする役人。

 まあ、目の前にアクションゲームみたいな足場がいくつも出てくればそれは驚くだろう。

 そしてそれを飛び渡ってくる俺とフジとエフティ。

 もちろんタネはフジの《畳の加護》。

 それをジューニャの念動で群衆の頭上に浮かべているのだ。

 前にダブルエッジ相手にやったやつだな。

 壇上のダスキーニが喜々として両手を広げる。

 

「来たか! 飛竜殺し! 待ちかねたぞ!」

 

 おう、待ちかねられたぞ!

 カエラ・ヴォロディア・ヴィクトリアス・ヴァレンタイン・ニシカワ、推して参る!

 

 

 

 火花が散る。

 俺が振り下ろした西川正宗を奴の刀が受け止めた。

 高速震動剣を並の剣で受け止めればそのまますっぱりだが、やはり巨人級(第一級)の《剣の加護》、剣自体の強化も規格外だ。

 そのまま剣を押し込もうとするが、山のように重く動かない。

 

「かあっ!」

 

 !?

 気合一発で俺は数歩後ずさった。

 いや、そうさせられた。

 奴の全身から禍々しい魔力が吹き出している。

 内務省を脱出するときに見たあれだ。

 「ブラッド・リー」で爆発的に増幅された魔力。

 ダブルエッジ相手に使った波動陣と同じ、魔力の衝撃波で俺を吹き飛ばしたのだ。

 周囲の見物人まで巻き込まれ、十数人が倒れている。無差別かよ!

 やばいことに気付いた見物人たちが、潮の引くように処刑台周辺から逃げ出した。

 そうだ、さっさと消えろ!

 

「ふんっ!」

「キェェェィッ!」

 

 奴が「飛ぶ斬撃」を放つ。俺の剣からはフォノン・メーザー斬りが。

 っ!

 俺の放った光の刃は、丸太のように巨大な魔力の斬撃の前に砕け散る。

 やばい!

 咄嗟に左手で抜きはなった「クサナギ」が光り、振り下ろされる巨大な刃を迎え撃つ。

 かろうじて、本当にギリギリのところで滅魔の剣が魔力の斬撃を叩き斬る。

 それ自体吹き飛ばされそうな魔力の爆発を残し、巨大な魔力の刃が砕け散った。

 哄笑。思わずその出所を凝視する。

 ダスキーニ・ヴォルタ。

 必殺だったであろう自分の斬撃が切り払われて、何故か奴は心底嬉しそうに笑っていた。

 

「やはりやる! 俺の『飛ぶ斬撃』を切り払ったのはお前で二人目だぞ!」

 

 この剣だよりだがな!

 一瞬にして距離を詰めてくるダスキーニの斬り下ろしを、かろうじて二刀で止めて受け流す。

 

「だからなんだ? 強くなるなら何でも使えばいい!」

 

 人の命を使ったワインでもか!

 一刀一剣、俺の左右からの同時攻撃を、右の西川正宗は刀で払い、左の短剣を刀の柄で叩き落とす。

 

「なるほど、そういうものだったかあれは!

 だが、だからどうした!

 使えるものなら使えばいいのだ!」

 

 限度があるだろうが!

 互いの突きがクロスカウンターのように交錯した。

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