全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
刀と刀がすれ違い、火花を散らす。
俺の剣は奴の右こめかみを削り、奴の剣は俺の頬を大きく削ぐ。
ちいっ!
鎧を着ていない奴の脇を、俺の左手の「クサナギ」が狙う。
奴が右手を剣から離し、右肘が俺の剣を打ち落とした。
「っ」
奴が僅かに顔を歪める。
剣の腹を叩いたとは言え、高速震動していたクサナギに直接触れてしまったせいだろう。
奴の左手の刀と俺の右手の刀が絡み、俺の左手の剣は奴の右肘で弾かれた。
つまり今、中央はがら空きだ。
ガイア・インパクトォ!
「ぬっ!」
奴は俺より頭半分背が高い。
高速震動を帯びた俺の額と、カウンターで打ち下ろした奴の額が激突した。
「がっ!」
さすがに脳に直接震動を食らってはたまらなかったのか、奴が後退する。
とは言え俺も追撃は出来ない。自分で脳みそを揺らしたので、同等とは言わないでも結構ダメージが来てる。そうだった、これだからこの技封印してたんだった・・・!
視線は奴から外さぬまま、波動感覚で周囲を探る。
視界の外でエフティとフジが他の護衛に襲いかかっている。
並の兵士じゃ二人を止められない。
あっという間に壇上を駆逐して二人を助けだした。
憑依されてるケーン兄さんは今のところ本人のようだが、大事をとって拘束している。
だが、問題は壇の下だった。
波が引くように逃げていった群衆。波に洗われる小石のように現れたのは、敵が用意していた戦力。
秘印級が十数人に剣士級が百人以上・・・いや、この気配はブラッド・リーを使ってるな。
どこからこんな戦力かき集めたんだと思っていたが、剣士級が十数人に旅人級が百人だった訳か。確かにこれならそれなりのコネと金があれば集められる範疇だ。
「波動陣」が使えれば話は別だが、逃げ遅れた群衆がまだかなりいる。
一人二人ならともかく、これだけ入り交じっていると無理だ。
どうする・・・!?
「ぬっ」
必死に頭を回転させていると、ダスキーニの動きが鈍った。
この最近見慣れてきた魔力の波動は・・・ジューニャの念動か!
支援してくれているんだな、ありがたい。
「ふんっ!」
と、思った次の瞬間、奴の剣の一振りで念動の魔力は雲散霧消した。
ええい、スペックだけなら巨人級のジューニャだぞ!? 化け物か! 化け物だったわ!
(シル、俺の方はいいから雑魚どもを一人でも二人でも足止めするように伝えてくれ)
(わ、わかったんだよ)
そんな会話を交わすと、俺は奴に向き直る。
体中の関節を動かして、体をほぐすダスキーニ。
互いに揺れた脳は回復しつつある。
「誰か知らんが中々の術師だ。とはいえ、さすがにあれを食らってお前が相手では分が悪いな」
そりゃどうも。
そう軽口を返しつつも、俺はこいつから視線を外せない。
外したら最後、一太刀で終わる。
周囲の雑魚どもがどんどん壇上に上がってくるのを、俺は放置するしかない・・・っ!
上がってきた何人かがこちらに向かってくる。
背後から来た連中も波動感覚で大体の動きはわかるが、目の前のダスキーニを抑えつつ、こいつらに対処出来るか・・・?
「かあっ!」
横薙ぎの「飛ぶ斬撃」!
咄嗟にクサナギで切り落とそうとしたが・・・なんだ、俺ではなく、俺の左右を通過していった!?
「がっ!」
「ぎゃあっ!」
どさどさ、と上下に両断された体が壇上に落ち、鮮血や内臓をぶちまける音。
短い悲鳴と後ずさる気配。
「邪魔をするな! こいつは俺のものだ! 俺が食らうのだ! お前らがつまみ食いしたら味が落ちるだろうが!」
吼えるダスキーニ。
怯えた気配がして、壇上に昇った敵がフジたちに向かうのがわかる。
奴がニヤリと笑った。
「お前みたいなごちそうを他の奴らと分け合う訳がないだろう?
血の一滴まで、余さず俺の『ケイケンチ』にしてやるよ」
なるほど、そう言う事か。
この世界、強い魔力にさらされると魂が危機感を覚えて強靱になる。
魔力は強ければ強いほどよく、命の危険があればなおさらいい。
つまり、俺は奴が成長するための極上の生贄として選ばれた訳だ。
くそ、ありがたいんだかありがたくないんだか。
さすがにこの数じゃフジとエフティでも多勢に無勢。
恐らくは半分倒せるかどうか。
そんな考えが表情に出ていたのだろう、奴が哄笑する。
「さあ、大ピンチだなあ、飛竜殺し! 必死の力というのを見せてみろ!
お前はどうだ、カエラ・ニシカワ!」
・・・参ったね。それを言われたら頑張らない訳にはいかんだろう。
おじさんの前でみっともないところは見せられんな!
「かはっ! いい面構えだ!」
哄笑はそのまま、奴が刀を振り下ろす。
膨大な魔力を帯びたそれを、俺は二刀を揃えて迎え撃つ。
火花と魔力の爆発。
揃えて構えた二刀のうち、オレンジ色に輝く
だがそれでもなお押し合いは互角。
元から
「このっ!」
「オラァッ!」
背後ではフジが畳で敵を分断、おじさんたちを守りつつ、エフティが獅子奮迅の活躍を見せている。
剣を振るうたびに人間が両断され、体のパーツが宙に舞う凄惨な光景。
「ひっ!」
だが何分数が多い。そして仲間が惨殺されても怯まない。
周囲から命を捨てるかのように飛びかかり、その隙に組み付いて一瞬でも動きを止める。
それを連続してやられると、怪力のエフティでも次第に動きを止められる時間が長くなっていく。
フジもそうだ。組み付かれることはないにしても、五人がかり六人がかりではいずれ捕まる。
くそ、やむを得ん!
シル、《
(わ、わかったんだよ! え・・・え? ちょ、ちょっと待ってカエラちゃん!)
動転したシルの思念。
「・・・なんだぁ?」
つばぜり合いをしながらも、あっけにとられた声と表情のダスキーニ。
奴の背中越しに「それ」を俺も見た。
わぁぁぁぁぁぁぁ・・・!
ときの声と共に広場になだれ込んでくるのは、思い思いの武器を持った数百人の・・・なんだろう、ごろつき?
明らかに服装の整ってない、しかし喧嘩慣れした感のあるコワモテ集団。
やくざ風のもいるし、冒険者風の奴もいる。
大半は
多勢に無勢。
先ほどまで数の論理を行使していた特調の手先たちが、今度は自分たちがそれを思い知らされる番。
「ぬおおおおおおおお!?」
一方でダスキーニには四方八方から破城槌のように丸太が押しつけられる。
それらを切り払って一瞬動きが止まったところで《
「のおおおおおお! てめぇらぁぁぁぁあ!?」
粘着質の球体が破裂し、奴の全身を覆う。
衝撃波ではじき飛ばしても更に飛んできて視界と動きを封じるし、下半身なんかもう山みたいになってまともに動かせない。
幸い奴は腕からしか波動を放てないらしく、顔面にこびりついた粘着質を弾くことが出来ないでいる。
行くぞ、撤収だ!
号令と共に煙玉が飛び、視界を遮る。それが晴れたときに広場に俺達は残っておらず、後に残されたのは怒号を上げて処刑台を吹き飛ばすダスキーニと、呆然とする特調の手下だけだった。