全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第二十八話 今日から俺は!

「どうぞこちらへ。客人をお連れしろと命令を受けてます」

 

 カミソリと言う形容がぴったりの男。恐らく秘印級。

 魔法のものらしき革の胴着に、腰にはたくさんの短刀。

 フジと、おじさんとケーン兄さんを担いだエフティがこちらをちらりと見る。

 いいだろう、お邪魔しようじゃないか。

 

 途中でシルやタチバナたちと合流し、おじさんたちの傷を治して裏路地の下水のマンホール(古代に作られた奴が残っているのだ)に入り、迷路のような下水道を走り回って数十分。

 俺達は古びた、地味だが手入れの行き届いた屋敷の庭の片隅から地上に這い上がって来た。

 

「頭目がお待ちです。こちらへ」

 

 案内された部屋は、これも古びてはいるが落ち着いた談話室だった。

 テーブルの向こう側の端には、にこにこ笑うひげの中年男性が座っている。

 年齢は四十代半ばくらいか・・・何かどっかで見たような?

 

「やあ、はじめまして、カエラ卿。名高き『飛竜殺し』をお迎え出来て光栄だよ。

 私はタムレイン。ホーギと名乗ることもある」

 

 ・・・。

 不幸なことに、俺はその名前に心当たりがあった。

 フジやシル、タチバナも。だが一番驚いたのはジョンおじさんだっただろう。

 

「盗賊ギルドの頭目が、何故わしらを助ける!?

 わしは貴様らを取り締まる側の人間だぞ!」

 

 ニコニコして動じないタムレイン。

 むしろ親しみを感じるような笑みを浮かべている。

 

「つれないじゃないかね、ジョン。私はこの二十年、君のことを忘れたことなど片時もなかったのに」

「そりゃあワシはきさまらを撲滅すべくかけずり回っていたからな。

 ワシの顔に恐怖しない日はあるまいが・・・ん? んん?」

 

 吐き捨てようとしたおじさんの表情が変わる。

 眉を寄せ、記憶をたぐり寄せるような・・・

 

「ほう、少しは記憶に残ってくれてたようだな。

 そうそう、あの頃私はソージャンと名乗っていたっけ。これは失礼」

「「「ソージャン?!」」」

 

 おじさんと俺、ケーン兄さんの驚きの声がハモった。

 ちょっと待て、それっておじさんが若い頃に死闘を繰り広げた密輸団のボスの名前・・・

 

「いかにも。いやあ、若かったなあ」

 

 はっはっは、と毒のない笑顔で笑う盗賊ギルドのボス。

 確かに、言われてみればそういう達人のたたずまいもあるが・・・!

 

「それで、貴様が何故ワシを助ける! 首を切るなら自分の手でかっ切りたいと、そういうことか!?」

「落ち着け落ち着け。確かに君とは色々あったが、これからは親戚同士だ。この際過去の行きがかりは忘れて仲良くやろうじゃないか」

 

 親戚? ・・・いや待て、まさか、な。

 

「どうしましょうカエラ様。どうしようもなく心当たりが一件あるのですが」

「私もなんだよ」

 

 ひそひそ話をする俺とフジとシル。タチバナも察したようだが口にはしない。

 

「親戚? 悪い冗談だな。一体何の・・・」

 

 おじさんの言葉を遮るようにタムレインが手を上げると、横の扉が開く。

 そこから入ってきたのはジローと、腕を組んだクレア嬢。ジローの顔が盛大に引きつっている。

 彼女の顔にはニコニコした笑み。そうか、どこかで見たようなと思ったが・・・これタムレインの笑い方と一緒だぁ!

 

「そこのクレアはわしの娘でね。最近ジローくんの子を妊娠しているのが分かったんだ。

 最初は切り刻んで魚の餌にしようと思ったが、君の息子と知って考えが変わった。

 何より娘が大いに乗り気でね。ああ、知り合いの大店の養女として既に縁組みしているから、身元については心配しなくていいよ。

 将来の内務省大臣の息子の嫁が盗賊ギルドの長の娘では格好がつかないだろう?」

 

 つまりあれか、何もかもお膳立てが整ったところで、獲物が自ら虎の口に飛び込んできたわけか。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・気遣い、痛み入る」

 

 そう返すしかないおじさんの顔は、一気に十歳くらい老け込んで見えた。

 なんかこう、物凄い無表情でケーン兄さんがジローを見てる。

 それに気付いたか、ジローが引きつった顔でまくし立てた。

 

「ま、まあそのあれだ、とにかく親父と兄貴が助かって良かったよ。

 そういう意味では俺のナンパも悪い事ばかりじゃなかったってことで・・・」

「ええ、そうですわね。ジロー様とこうして出会えたのですから」

 

 もう満面の笑みでジローにもたれ掛かるクレアさん。

 俺が言えた義理じゃないが、その男で本当にええんかい?

 

「とりあえずなんだ。クレアさん、息子からちょっと離れて貰えるかな。

 男同士の話だ」

「はい。

 そうですわ、今後はクレアとお呼び下さい、お義父様」

「・・・」

 

 素直にジローから離れるクレア。

 蛇を前にしたガマガエルの如く油汗を流すジロー。今ならジューニャとタメを張れるかもしれない。

 そして長男と同じく凄い無表情で一歩、また一歩と歩み寄るジョンおじさん。

 

「あ、あの、親父・・・」

 

 おじさんの拳が硬く握られる。

 

「この馬鹿息子がぁっ!」

「へぶぅっ!?」

 

 電光のアッパーカット。

 ジローは虹色の汁をまき散らしながら天高く吹き飛んだのであった。

 いや、普通こいつを殴るのってタムレインのおっさんの方じゃない?

 

 

 

「・・・大体なんだ、その体は。ブクブクと太りおって。情けない」

「ははは、君だってあちこちぜい肉が付いてるじゃないか」

「貴様ほどではないわい」

 

 あの後結婚祝いの宴会になだれ込み、あの広場に突入した連中もやってきて飲めや歌えの大騒ぎが始まる。

 そんな中おじさんとタムレインが、差しつ差されつで静かに呑んでいたのが印象的だった。

 そして翌日。

 

「ほら、こいつが君の息子の中にいた『ラダッソ』だそうだよ」

 

 タムレインが見せたのは正二十面体の透明なクリスタル。

 その中に赤黒っぽいもやもやっとしたものがうごめいている。

 これが憑依してた霊体か。

 

「『十二角の水晶』ですか。古式ゆかしい技を使われる方がいるんですね」

「詳しい事はわからないが、ケーンくんから引きはがしてこれに封じたらしいね」

 

 感心するジューニャとタムレインが話をしている。

 一方、うへえと同時に声を上げたのはケーン兄さんとジロー。

 性格は正反対なのに変な所で似た兄弟である。

 

「こんなのが私の中にいたのかぁ」

「覚えてねえけど、カーヴェにさっさと取って貰って助かったぜ」

 

 偶然にしてもダンジョン・コアに引きずり込まれたのが幸運だったな。

 しかしラダッソ?

 

「ジローくんについていた霊と同じ名前ですねえ。考えられることは二つ。何らかの強力な霊体の分霊・・・つまり分身であるか、もしくは人工的に作られた使役霊体であるかです」

 

 人工霊体!? そんな事出来るの?

 

「ちゃんと修行した霊術師(ソウルマンサ―)なら、簡単なものを作るのはさほど難しくはありません。

 古代の真なる魔法文明では、こうした高度な人工霊体が作り出されて、様々な魔道具や魔導機械の制御を行っていたようですね」

 

 古代文明の魔導機械かあ。

 思い出すのは例の修道院にあった人間ワイン醸造機だが。

 

「あれも随分昔からあったんでしょうね。

 そう言えばフォルヴァン修道院って、昔は魔神教団が立てこもっていた砦だったんですよね。

 ほら、カエラくんのご先祖様の『白のサムライ』が退治したあれ」

 

 ・・・はい?




>十二角
正二十面体は12個の頂点を持ちます。
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