全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第三十一話 お釣り

「うおおおおおおおおおおおおお!?」

 

 奴らの悲鳴が聞こえる。

 ぶちまけられた油はあっという間に火がまわり、多分100m四方位の範囲が火に包まれた。

 間髪を入れず、俺の剣が高速震動を始める。

 フォノン・メーザー斬り。

 炎の中、奴の生命の波動に向けてそれを振り下ろす。

 光の刃が奴にぶつかる直前、何かが広場に飛んでくる。

 

「人間!?」

 

 誰かが叫ぶ。それを見定める前にフォノン・メーザーが奴にぶつかり、爆発が起きた。

 

「きゃあっ!?」

 

 こちらまで爆風が飛んでくる。正確には魔力の衝撃波の余波。

 それが収まった後には円形に吹き飛ばされた森の木々と炎。

 その中心には巨漢のローニン、ダスキーニ・ヴォルタ。右手に剣。

 恐らくは何度も見た波動陣もどきで炎を吹き飛ばしたのだろう。

 体からは既にあの膨大な魔力が吹き出している。

 投げつけられてストーンサークルの中央付近に転がってうめいているのはゴットリープ。まだちょっと燃えている。

 恐らく巻き添えにしないように放り投げたのだろう。実際二人の乗ってきただろう馬は、ダスキーニの足元で無惨な姿をさらしていた。

 

「火なんぞ使いおって! 興醒めだぞ!」

 

 怒りの表情でこちらを難詰するダスキーニ。

 知ったことか、お前が強すぎるのが悪い。

 それに使えるものなら使えばいいというのはお前のセリフだったよな!

 右手の西川正宗、左手のクサナギ。双剣を構えて半壊した塹壕から走り出る。

 

「限度ってものがあるだろうが!」

 

 どこかで聞いたセリフを吐くダスキーニを無視し、バネ足ダッシュ。

 一瞬にしてストーンサークルを飛び越え、俺は奴に斬りかかった。

 

 一方でヒョウたちはゴットリープに殺到する。

 どちらがコアを持っているか分からないが、ともかく遺跡から引き離さなければならない。

 トリスとチコによると、あの時「コアを持って」「ストーンサークルの中に入れば」それで勝ちだと言われていたそうだ。

 だからダスキーニもストーンサークルに入れずに倒す。

 奴の横薙ぎの剣と、俺の縦に振り下ろされた二刀が激突した。

 激しい震動。互いの剣に込められた魔力がぶつかり、クサナギがそれを打ち消し、また奴の剣から魔力が吹き出す。

 生命の危険を感じて感覚が鋭敏化する。

 ――この感覚は!?

 

「どうした、気を散らすな!」

 

 剣を外し、今度は下段と中段の間くらいからの突き。

 ヤバいものを感じて、咄嗟に左手のクサナギで叩き落とす。

 刀に込められた膨大な魔力が弾けた。

 こいつ、俺を刺突するふりをして、後ろのシル達を狙いやがった!

 

「よそ見をするからだ!」

 

 足元に伏兵を忍ばせておいてよく言う!

 そう言うと奴はちょっと意外そうな顔になり、破顔する。

 

「さすがだな! だがこれも料理の味を引き出すちょっとしたスパイスだ!

 俺を倒すのに手間取るようなら、奴がこのダンジョンの封印を解くことになる!」

 

 そう、俺が感じたのは足元からの震動。

 地面の下を動く、人間大の何か。

 恐らくはケーン兄さんの受け渡しの時にコアを奪って逃げた地術師。

 こいつらと別行動して、地中を潜ってきていたのだろう。

 距離はダスキーニの後方30m、地下10mほどか。

 歩くくらいの速度でこちらに近づいている。

 

「よそ見をするなと言ったッ!」

 

 山が落ちてくるような重たい斬撃。

 通常サイズの、西洋剣に比べればむしろ細身の日本刀が、鬼の金棒めいた太く重い鉄塊に思えるような剣。

 それが弾かれた。

 俺に遅れて塹壕を出たエフティの炎の剣。

 純粋な膂力で言えば恐らくダスキーニに迫るそれが、振り下ろされる日本刀を横から弾いた。

 

「悪い、遅れた」

 

 構わんさ。ここからは二対一だ。卑怯とは言うまいな?

 ダスキーニがにたりと笑う。

 

「無論だとも、これはまた食べがいのある御馳走じゃないか。

 まとめて美味く食らってやろう!」

「オレは悪食だ! 食ったら食あたりするぜ!」

 

 俺の刀とエフティの剣が、左右から同時にダスキーニの体を襲った。

 

 

 

 嵐のような剣の応酬。巨大な竜巻にぶつかる二つの竜巻。

 少しでも油断すれば俺達の体は挽肉(ミンチ)になる。クサナギの滅魔の力とジューニャの《鎧》があってようやく互角を保っているようなものだ。

 しかもこいつ、隙を狙って後ろで俺達を支援するジューニャ達を「飛ぶ斬撃」で狙ってくるのだ。

 俺はそのたびに回避ではなく、防御を選択せざるをえない。

 既にシルは《無限珠算》を発動し、無数のそろばんを鳴らして《明晰(クリア・マインド)》の呪文を詠唱している。

 だが恐らく呪文が完成するより地術師がストーンサークルに到達するのが先。

 フジたちではこれ以上俺とダスキーニの戦いには割って入れない。

 その間にも地術師はストーンサークルに近づいてくる。

 ジューニャが《念動》で地面を掘って地術師を捉えようとしているがさすがに深すぎる。

 《念動》の呪文は力はあってもスピードが遅く、10mまで掘り進めるのは間に合わない。

 ならば、とエフティに目配せ。

 

「おうっ!」

 

 大きく振りかぶって全力の薙ぎ払いを叩き付けるエフティ。

 それを弾いたところに俺の二刀による斬り下ろし。

 あちらも翻した剣を上段から。

 狙うのは西川正宗とクサナギによる、二重の(がっ)()ち。

 エフティに仕掛けた、相手の剣を滑らせて相手の拳や腕を打つ技。

 だが今回俺が狙うのは地下の地術師。

 クサナギによる滅魔(がっ)()ちでダスキーニの剣をかわしつつ、西川正宗を奴の剣とすれ違わせ、フォノン・メーザー斬りを放って仕留める。

 そのはずだった。

 

「かっ!」

 

 ダスキーニの爆発的な踏み込み。バネ足ダッシュに匹敵する瞬間速度を、技量と身体能力、そして体内魔力で再現。

 一瞬にして剣の間合いからつばぜり合いの間合いを飛び越して体が密着する。

 次の瞬間、魔力ではなく純粋な物理的作用によって俺の体は吹き飛ばされた。

 

「来ると思ったわ!」

 

 先読みされた! さすがに巨人級、こいつ剣術家としても超一流だ!

 だがこいつを倒さねばコアが・・・

 

「カエラ様! いけません!」

 

 俺が何をしようとしているのか察して、フジが顔色を変える。

 捨て身。

 コアがダンジョンの封印を解いてしまったら終わり。

 その前に地術師は何としてでも始末する必要がある。

 シルの《明晰(クリア・マインド)》をエフティにかければ、恐らくは奴と互角。

 そうすれば俺が戦闘不能に陥っても何とかなるはず。

 現状ではこれが唯一の勝ち筋だろう。

 

「貴様! つまらんぞ!」

 

 つまらないと言いつつ、奴の剣は止まらない。

 後は頼むと言おうとした瞬間、剣を振り下ろそうとしていたダスキーニがとんぼを切って側転した。

 同時に俺と奴の間を飛び抜けていく魔力の斬撃。

 俺、エフティ、ダスキーニの三つの視線が森の奥に刺さる。

 木々の間からダスキーニが吹き飛ばした空間に歩み出てきたのは傷だらけのいかつい大男、スカージ。

 シルのオヤジさんの護衛のお前が何故ここに!?

 

「御当主様の命令でして。『お釣り』だそうです」

 

 「災厄」の名を持つ男は僅かに笑った。

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