全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第三十二話 神に愛されしもの

 スカージの「飛ぶ斬撃」が飛びダスキーニが身を翻した瞬間、反射的に剣を振っていた。

 ごくごく薄い、圧縮された震動の刃。

 この薄さは「飛ぶ斬撃」同士で撃ち合ったさいのもろさでもあるが、同時に鋭さでもある。

 ダスキーニのそれもクレーターを作りはするだろうが、地下10mまでは恐らく届かない。

 だが俺には出来る。極限まで圧縮されたカミソリのような刃は、土を突き抜けてその切っ先を地中の地術師に届かせる。

 

「・・・!」

 

 地中から断末魔が震動として俺に届く。

 地層と木々の根を断ち切り、俺のフォノン・メーザーは地術師の命を確実に奪っていた。

 一瞬の空白の後魔力がぶつかり合い、見えない火花を散らす。距離を一瞬で詰めたスカージとダスキーニのつばぜり合い。

 

「お見事です、カエラ様」

「あの深さに潜ってたトリエを斬るかよ・・・! 悪かったな、お前のことをまだ少し舐めていたようだ」

 

 全力で剣を押し合いながら、対照的な表情で二人が言葉を発する。

 ダスキーニの日本刀に対してスカージはやや短めの木剣。

 狭い所でも自在に振り回せ、万が一当たっても主人を傷つけない、「護衛」という役割のためのベストなチョイスなのだと、昔に聞いたことがある。

 とは言え、魔法強化も施された業物の日本刀とつばぜり合いを演じているあたり、スカージの木剣もただの木の棒ではない。

 樹神(ラーマン)の迷宮に生えていた巨大な千年樹(ヤクスギ)を削りだし、金剛金属(アダマンタイト)より固い真芯を加工したものだ。

 一度だけ握らせて貰ったことがあるが、超硬質なのに加えて生体素材だけあって魔力の通りが半端ではない。

 刃はついていないが、スカージが使えば鋼だって豆腐のように切り裂けるだろう。

 巨人級の上に「ブラッド・リー」で膨大な魔力を得ている奴ですら、気を抜けば斬られる相手。

 それはともかく気にするな、得手不得手ってものがある! エフティ!

 

「おう!」

「ちいっ!」

 

 俺達が飛びかかると同時に放たれる魔力の爆発。

 俺はガードしながら後ろに下がり、エフティはまともに食らいながらも耐えて数メートル吹き飛ばされ、スカージは一瞬早くふわりと後ろに飛んだ。

 

「かあっ!」

 

 再度ダスキーニの気合が響き、奴が左手を地術師のいた方に伸ばす。

 大地が噴火した。

 

「なんだっ!?」

 

 吹き上がったのは大量の土砂と、その中の・・・ダンジョン・コア!

 大量の魔力があればこんな真似も出来るのか!

 一直線に飛んだコアが奴の手に収まったその瞬間。

 

『良くやった』

 

 !? 誰だ?

 ダスキーニすら驚愕の表情を浮かべている。

 後方、フジたちの方から聞こえて来たように思えたが・・・

 振り返ると、ストーンサークルの中央に「何か」がいた。

 目には見えないが波動感覚にはビンビン来る。

 その時、視界の端に拘束されたゴットリープが映った。

 両手両足を縛られ、猿ぐつわに目隠し。だがそれらが緩んでいた。

 頭頂から後頭部、背中にかけて裂け目が出来ていて、蛇の脱皮のように中身がない。

 ジューニャが叫ぶ。

 

「カエラくん! そのコアを――!」

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■(詩神夜陰に紛れ 亀は拳で門を打つ)

 

 聞き取れないのに意味は理解出来る不思議な呪文。

 ストーンサークルとダンジョン・コアが呼応する。

 石床の継ぎ目に光が走り、ダイヤル錠のように回転する。

 ストーンサークルの石が組み替えられ、展開。

 地獄の蓋が開いた。

 

 立ち上がる光の柱。

 その中央に浮かぶのはおぼろげな人間の顔。

 ぼんやりとしていて分からないが、歳を取った禿頭の老人男性に見えた。

 

『契約を果たしてやろう、ダスキーニ。貴様の欲しがっていた強さをくれてやる』

 

 瞬間、顔が巨大化してダスキーニを飲み込んだように見えた。

 吸い込まれるように顔が消え、ダスキーニの巨体がびくりと震える。

 

「ぐ、ぐあがおこあがGGRFABGOAAAAAAAAAAAAAAAA!」

 

 剣を手放し、両手で頭を押さえるダスキーニ。

 その絶叫が人間のそれからかけ離れていくと共に、その姿も人ならざるものへ変わっていく。

 鱗が生える。

 鉤爪が伸びる。

 新しい腕と足が生え、翼と尻尾が生える。

 そして新しい首が生え、見る見るうちに体が大きくなる。

 

「GWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」

 

 山を揺るがす咆哮。

 変身が完了したとき、そこにいたのは三つの首と四本の腕、六本の足と四枚の翼を持つ怪物だった。

 中央はダスキーニの面影を残す鬼の首。その両脇から一角クジラのような長い角を持つ海蛇の首がそれぞれ生え、四本の腕の先からは剣のような長い爪。

 六本の脚は爪が四つ、ヒヅメが二つ。

 体は暗い緑色の羽毛と鱗で覆われ、黒いコウモリのようなそれと鳥のような極彩色の翼が二枚ずつ。

 それが20mほどの高さから俺達を睥睨している。

 シル!

 

「行くんだよ! 《明晰(クリア・マインド)》!」

 

 全身の毛穴が開いてエネルギーが吹き出し、心の目が開く感覚。

 俺の体から巨大な魔力の波動が放たれるのと、奴が海蛇の頭の角を突き込んでくるのが同時だった。

 

「うおっ!?」

「きゃあっ!」

 

 悲鳴が上がる。

 波動陣の衝撃波と、奴の角がぶつかり合い、火花を散らす。

 次々に突き込まれる海蛇の首と四本の腕。

 海蛇の角と揃えた指から伸びる爪。

 六本の「剣」と波動陣がぶつかり合い、スパーク。

 

「かあっ!」

 

 気合いと共に増大する波動陣の「気」。

 角と爪が弾かれ、異形のケンタウロスがたたらを踏む。

 

『なんと・・・! ダブルエッジがしくじったのも、満更奴のブザマではないか!』

 

 響く「ゴットリープ」だったものの声。

 一体何なんだお前はよぉ!

 

『我は神に仕え、その恩寵を受けるもの。そうさな、「神に愛されしもの(アマデウス)」とでも名乗ろうか』

 

 その体が神の愛の印か?

 なるほど、お前らが崇める神は魔神だったな。

 

「恐らくダンジョンのエネルギーというか、モンスターになる未分化の魔力を取り込んで変異したものと思われます」

 

 ジューニャの推測に顔をしかめる。

 全く趣味の悪い事だ。

 

『この美しさが理解できんとはな。

 しかしさすがは「白のサムライ」の直系。あわよくばと思ったが、そうもいかんようだ』

 

 跳躍。一跳びで200mは後退した「アマデウス」が四枚の翼を広げる。

 こいつ、まさか。

 

『ここで君と戦って万が一倒されても面白くない。もちろんいずれ死んで貰うが、今日のところはさよならだ』

 

 こいつ、一番効果的でいやらしい手を出して来やがった!?

 

『ではさらばだ! そうそう、ダンジョン・コアはお返しするよ。私にはもういらないものだ、来るべき日までせいぜい君のちっぽけな村を栄えさせるがいい』

 

 波動陣を収束して・・・巨大な斬撃を放つ!

 だがそれより一瞬早く、「アマデウス」は空高く羽ばたいていた。

 二撃目を放とうとしたときには既に奴は空高く。

 あそこに届かせるには《明晰(クリア・マインド)》を貰っても地力が足りない。

 恐らく奴はどこかに飛び去り、力を蓄えて更に大きな計画を実行するつもりだ。

 くそ、今倒しておかなければとんでもない被害が出るのに、森の中では馬を加速させても到底追いつけん!

 歯ぎしりした俺の肩を、鋼鉄の籠手が掴む。

 振り向いた俺の目に映ったのは、今まで見たこともないような真剣なエフティの顔だった。

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