全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
首輪をはめられたとき、オレは正直ホッとしていたと思う。
祖父が恐らく死んで宮殿から連れ出され、山奥の修道院に押し込められた時の事だ。
カーヴェが来てくれるようになってからはそんな事もなくなったが、オレの力はたくさんの人に怪我をさせた。
侍女も、騎士たちも、飼っていた犬にも、かんしゃくを起こしたり力加減を誤って大怪我をさせてしまった。
友達だった侍女は死んでしまったかもしれない。
もうそんなことがないって思うと、首輪をつけられたり、ムチで打たれたりすることも気にならなかった。
むしろ今までの罰だと思うと心が安らいだ。
高圧的に接してくる修道士たちに唯々諾々と従い、日々を過ごした。
けど、それを認めない奴もいた。
「あんた何やってんのよ。
馬鹿じゃないの?」
今まで正面から馬鹿呼ばわりされたことなんてなかったから、オレはきょとんとしてた。
王宮の連中はもちろんだが、カーヴェもそんな事は言わない。
いや、あいつは結構意地が悪いが、紳士だから遠回しに言う。たぶん。
けどそいつは何の遠慮もなくオレを馬鹿呼ばわりした。
「聞こえてるの? 耳が悪いって訳じゃないんでしょ? あのクソ修道士たちの言うことは聞いてるんだから」
明るい赤の髪。ちょっとくしゃくしゃしたそれは背中の半ばまで伸びている。
年の頃はオレと同じ7、8歳位。小柄で元気そうな女の子だった。
当然だけどオレの角はここでも隠してなかったから、他の連中はみんなオレを遠巻きにして近寄ってこなかった。
怖くないのかと聞くと、そいつは笑った。
「別に? 面白い子だとは思うけど! 私はルイ! ただのルイよ! よろしくね!」
それがカーヴェに次ぐ二人目の友達との出会いだった。
修道院はとにかく厳格な場所だった。
いかつい修道士たちの命令に従わなければすぐ鞭が飛んでくる。
たまにきかん坊な子供が入ってきても暴力であっという間に黙らされた。
誰もがうつむいて、唯々諾々と従うだけ。
そんな中であいつだけが輝いていた。
鞭打たれても、メシを抜かれても、地下室に閉じ込められてもあいつは変わらなかった。
修道院をこっそり抜け出して湖で水遊びし、森の中でかくれんぼし、食事の残りでリスを餌付けした。
うつむいていた他の連中も顔を上げるようになった。
あいつと一緒に修道院を抜け出し、遊んだり笑ったりするようになった。
もちろんオレもその一人だった。
枯葉が落ちて、雪が降って、花が咲いて・・・そんな時間が多分一年くらい続いた。
ある時、また修道院を抜け出して花を摘みに出かけた。
もちろん帰った後は鞭打ちの上でメシ抜きで地下室に放り込まれたが、もう慣れっこだった。
地下室を出た後、笑って食堂に行ったらみんなが暗い顔をしていた。
逆に、修道士たちがニヤニヤしている。
寝室に走った。嫌な予感が外れていてくれと願いながら。
寝室のドアを突き飛ばすように開けた。
ベッドにはルイ達六人が寝ていた。
様子がおかしい。
あれほど活動的だった顔には表情がなく、口を開けてよだれを垂らし、虚ろな目で天井を見ていた。
呼んでも応えず、揺らしても反応がない。
いつの間にかニヤけヅラの修道士がドアのところに立っていた。
「凄いだろう? 術師を呼んできてな、みんな『いい子』にしてもらったのさ。
頭のな、この辺あたりに術をかけて『悪い心』を消すんだ
いっぺん消したらもう俺達に迷惑をかけることはない。一生このままだ。まあ、そう長くは生きられないんだがな」
呆然として言葉が出てこなかった。
よほどオレ達のことが腹に据えかねてたんだろう、そいつはニヤニヤしながら俺の顔を覗き込む。
「お前は特別らしいから悪い子のままでもいいってさ。良かったなぁ?」
咆哮。
それが自分の喉から出たものだと一瞬分からなかった。
首輪がはじけ飛び、爪が伸び、牙が生え。
そこから先は覚えていない。
気がつくと血まみれでボロボロの服で、どこかの山道を歩いていた。
ああ、そうだ。カーヴェが言っていた。
「やさしくない力は人を傷つけるけど、やさしさだけでは誰も守れない」って。
これは罰だ。
親友の言ったことを忘れてたオレへの罰だ。
オレには力があったのに、友達を守るためにそれを使おうとしなかった。
封印されてることに満足しちまってた。
それがルイ達を殺しちまったのかもしれねえ。
だから。
もう二度と間違わねえ。
『ク・・・クハハハハハハハ!』
風を切り、空を駆ける。
「アマデウス」は上機嫌だった。
白のサムライの子孫を殺せなかったのは残念だが、チャンスはいくらでもある。大事なのは封印を解き、力を開放することが出来たこと。
内務省内部の勢力を失ったのも痛手ではあるが、また改めて浸透すればいい。
時間はこちらの味方なのだから。
何よりこちらが逃げを打ったときの奴の表情!
それだけで十分苦労が報われるというものだ。
ちらりと地上を見る。地平線まで続く森。
奴らも高速移動手段を持ってはいるが、それは地上に限定される。
森の上空を飛べばまくことは難しくない。
このまま逃げ切って姿を隠し・・・そこまで考えたところで後ろから近づく巨大な魔力に気付く。
肩の海蛇がうねり、後方を向く。
『・・・・・・・・・!?』
後方に見えたのは光る魔力に包まれた翼ある蛇。あるいは――龍。
それが見る見るうちに距離を詰めてきていた。
くい、と「エフティ」が首を振って前方を指し示した。
空の彼方に小さな黒い点があり、それがぐんぐんと大きくなる。
あれだ、見つけたぞ!
エフティが短くいななく。
翼が空気を叩き、風を切り裂いて矢のように進む。
今、エフティは翼の生えた四本足の龍の姿をしていた。
もっというなら龍のような馬、龍馬と言う奴だ。
大きさは最大級の軍馬ほど、パーツ構成は馬に近いが、頭はほぼ龍だ。体にも鱗が生え、背中に翼。前後両足のかかとからも小さな翼が生えている。
その背にまたがるのは俺。後ろにはジューニャの念動呪文を命綱代わりに、フジ、シル、ジューニャ、タチバナ、ヒョウ、レイ、スカージが一列に繋がってついてきている。
俺の波動陣はまだ継続しており、彼女らを魔力の波動で守っている。
傍から見たら、光り輝く龍(いわゆるドラゴンではなく)に見えたかもしれない。
どうしてこんな事になっているかというと・・・エフティがシルの《
俺がこれで限界を超えて《波の加護》の力を発揮出来たように、エフティもまた《百獣の加護》の限界を超えて力を発揮する事ができた。
それがこの姿だ。
重量を念動で軽減しているとはいえ、俺達八人を連れてなおあの大魔獣を凌駕する速度。
馬サイズではあるが、俺の倒した飛竜を恐らくは遥かに超えるパワー。
千里の彼方を見通す目と鋼のような鱗。
視界の中でぐんぐん大きくなる「アマデウス」。
エフティが軽くいななく。人間の言葉ではないが、俺には意味がわかった。
ああ。あいつ、ぶっ潰してやろうぜ。
龍馬は土佐の坂本さんちのどら息子の命名の元ネタになったやつですね。
あるいは麒麟(ビールのロゴの方)を想像して貰った方がわかりやすいかも。