全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第三十四話 ケイセン森の大空中戦

 逃げ切れないと悟ったか、暗緑色の魔獣がきびすを返して突進してくる。

 龍の頭にまたがるのは光の剣を構えるサムライ。

 エフティを頭に、体となり尾となるフジたち。

 シルの術が俺とエフティの力を維持し、全員の精神を心話で繋げる。

 ジューニャは《念動》で龍の体を維持し、《鎧》で俺達を守りつつ、シルに魔力を注ぎ込んで術を維持する。

 タチバナたちも待機している。

 行くぞ!

 

「「「「はいっ!」」」」

 

 龍馬(エフティ)が吼えた。

 

 光の龍と暗緑色の魔獣が激突する。

 すれ違いざま俺が振った剣から、波動陣の衝撃と「飛ぶ斬撃」を合わせたような気の刃が飛んでいく。

 振り向いたアマデウスが二本の首と四本の腕を振りかざす。

 角と爪の先には集中させた魔力。

 気の刃と六本の角爪が激突した瞬間、気の刃が砕け散った。

 ぱりぃん、という幻聴。正確には波動感知で感じた、魔力の砕ける衝撃。

 

 攻防はそれで終わり、光の龍と暗緑色の魔獣はすれ違う。互いにかなりの速度で飛行しているから、接触は一瞬。互いに方向転換して振り向いたのはほぼ同時。

 向こうはあの巨体だから方向転換もそれなりに時間がかかると思ったが、波動陣もどきのような魔力衝撃波を噴出して姿勢制御しているようだ。魔力アポジモーターってところか。

 

 そしてもう一つ、今の攻防で分かったこと。

 「アマデウス」は会話から察する限りダスキーニの意識はないようだが、奴の技量はほぼそのまま保持している。

 先ほどの攻防、海蛇の角にも四本腕の剣のような爪にも、明らかに達人レベルの滑らかさと鋭さが見てとれた。

 切っ先に帯びた魔力の集中も美しいとさえ言えるレベル。

 「飛ぶ斬撃」すら放ってくるかも知れない。

 ダブルエッジと熾火の巨人を合わせたような強敵だ。

 

(次にすれ違ったら仕掛けるぞ。フジ、タチバナ、ジューニャ。・・・)

 

 心話で仲間達に指示を出す。

 了承の思念を確認して、俺はもう一度剣を振りかぶった。

 

 すれ違う。

 向こうの角と爪に集中する、先ほど以上の魔力。

 やはり「飛ぶ斬撃」を六連で放つつもり。

 一撃の威力自体はこちらの方が上だが、リーチは実質差がない。

 こちらの一振りでどれだけの斬撃と相殺されるか。

 やってみなけりゃわからない。

 はあっ!

 

『しゃあっ!』

 

 奴の首筋を狙った俺の一太刀。

 人間だった時とは逆に、巨大な俺の一太刀を、奴が複数の剣で迎撃する形。

 俺の斬撃とぶつかり、六本中一本目の刺突が砕け散る。

 二本目。三本目も同様。

 四本目と五本目が左右から十文字にクロスして更に迎撃にかかる。まだ押し切れる――そう考えた瞬間に、左側の下の腕、最後の一太刀が刺突の形でこちらを狙っているのに気付いた。

 それも龍の頭である俺とエフティではなく、胴体狙い。

 くそ、最初から他の五本は囮か! さっきもそうだが手段を選ばん奴だ! ジューニャ!

 

(はいっ!)

 

 心話でジューニャにショートメッセージ。

 奴の刺突のみならず、その予測コースのイメージまで送れるのが便利なところだ。

 

『!』

 

 四本目五本目を俺の斬撃が砕いて奴の胸板に浅く傷跡を残す。

 

「このおっ!」

 

 同時に放たれた刺突を、ジューニャの追加の《鎧》が弾き返した。

 弾き返したとはいうものの、この馬鹿魔力エルフが渾身の魔力を込めただろう防御力場はほとんど砕けて、もう使い物にはならない。

 ジューニャが術を解いて力場を消滅させた。

 そして攻撃を放った両者がすれ違うそのタイミング。

 今だ!

 

(はいっ!)

 

 光の龍に翼が生えた。

 差し渡し20m、俺の倒したワイバーンよりやや小さい程度の、若草色の翼。

 その正体は無数の畳を《念動》で連ねたもの。

 

(うおっ――)

(――これは!?)

 

 ヒョウとレイの思念が驚愕を伝えてくる。

 翼の「フラップ」を全力で上げて急上昇からの鋭角な宙返り。180度ターンする直前で左フラップを全力で下げ、右フラップはそのまま全力で上げたまま全速で飛行。

 左が持ち上がり、右が押し下げられる。もう一度くるりと回転(ロール)すると、俺達はまだ旋回し始めたばかりのアマデウスの、背面後方を取っていた。

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 史上初の戦闘機による空中戦が行われた第一次世界大戦でドイツのエースパイロット、マックス・インメルマンが編み出した必殺技。相手より早く旋回し、かつ上空に占位する。

 位置取りが決定的な意味を持つ空中戦において、これが圧倒的なアドバンテージを生む。

 現に今、魔獣は俺達に無防備な背中をさらしている。

 剣を振り下ろす。

 時間が足りないために今までの二発に比べて魔力の収束自体は甘いが、今はこれだけで十分。

 

 驚愕の表情を浮かべるアマデウスの鬼の顔。

 それでも何か反応しようとしたところに、最大出力でのタチバナの《閃光(フラッシュ)》。

 目を焼かれて悲鳴を上げるそのすぐ脇を通り抜ける魔力の刃。

 左肩の海蛇の首と二本の腕、二本の足、そして二枚の翼を切り裂かれて、奴は真っ逆さまに落ちていく。

 十数秒後、森の中に巨大な土ぼこりが立った。

 

 

 

『G、GRRRRRRRRR・・・・・・』

 

 木々をなぎ倒し、緑のクレーターの中でうなり声を上げる魔獣(アマデウス)

 1000mほども落下したというのに目立った損傷は見受けられない。

 それどころか切り裂かれた傷口が早くも盛り上がり、再生しようとしている。

 

(ぶちかましてやろうぜ)

 

 エフティからの思念。

 もちろんだとも。行くぞ! 全員衝撃に備えろ!

 シルの呪文で強化された精神と肉体で、魔力を更に引き出す。

 龍の周囲を覆う波動陣の魔力が倍加する。

 それは龍馬となったエフティの魔力と融合し、渦巻く流星となる。

 

『GWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!』

 

 咆哮。

 だが翼も足も再生途中のアマデウスにこれをかわすすべはない。

 白き彗星が鉄槌となり、大地の魔獣を滅ぼすべく落下する。

 そうだな、即興で名付けよう。

 

白き(クエーサー)・・・波動の彗星(ガト・ラン・ティス)!』

 

 エフティの魔力を加えた波動陣の全力の爆発が、森ごと魔獣を消し飛ばした。

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