全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第三十五話 無限の残滓

 森の中に、直径数百メートルのクレーター。

 光る龍は消え失せ、俺達はその中心あたりに着地していた。

 アマデウスは跡形もなく吹き飛び、後には魔力の残滓が残るだけだ。

 ふうっ、と全員が息をつく。

 

「やりましたね、カエラ様、エフリーティ様」

 

 お前達の協力があったればこそさ。

 シルもジューニャも、タチバナもヒョウもレイもよくやってくれた――スカージ?

 

「・・・」

 

 気をゆるめた俺達の中で、唯一スカージだけが未だに気を張っていた。

 いや違う。

 エフティが警告を叫ぶように短くいななく。

 それを見て、タチバナたちも再び戦闘態勢に戻った。

 

「カエラちゃん、そろそろ術を解いても・・・え?」

「え? え? どういうことですか?」

 

 気配や殺気にうといシルとジューニャだけが戸惑っている。

 スカージ、エフティ、何かあったのか。

 

「わかりません。ですが敵意が消えておりません」

 

 賛同するかのようにエフティが鼻を鳴らす。

 そのタイミングでジューニャが悲鳴を上げた。

 

「みなさん気を付けて下さい! あいつの霊魂が滅んでいません!」

 

 どういう事だと聞く間もなく、俺達にも見える形で「それ」が具現化した。

 周囲に突如として現れる、半透明のもやのような影。

 それはあっという間に形を変え、様々な動物の姿になった。

 犬、猫、ネズミといった小型動物から、牛、馬、豚、山羊や羊と言った家畜。

 狼、虎、ライオン、ヒョウのような猛獣。ワシや雀、梟に至るまでの各種の鳥。

 トカゲにカメに蛇、象にサイにカブトムシや蝶々。

 マグロやサメ、エイにクジラと言った水生生物までいた。

 それも実際のサイズにかかわらず、1mから3mほどの大きさだ。

 大型犬サイズのクジラが空中に浮かんでいるのはユーモラスだが、3mの蜘蛛がこちらを見て牙をカチカチ鳴らしているのはシャレにならない。

 それら幻の獣たちが全て、穴の底にいるこちらをぎらぎらした眼で見下ろしている。

 どういうことだこれは!?

 

『ははははは、愚かですね』

 

 声が響いた。

 恐らくは精神に直接響く心話。

 

「ゴットリープの霊体です!」

 

 くそ、生き汚い奴だ! あれだけ食らってまだ滅んでなかったのか!

 

『ええ、危ういところでしたよ。せっかく得たダンジョンの力も雲散霧消してしまいましたしね。こうなってはもう私たちもこれを利用することは出来ません。ですが制御を離れて暴走した魔力の残滓だけでも、今のあなたたちの命を奪うには十分』

 

 はん、まだ波動陣は維持されてるんだぜ。

 こんな連中・・・こうだ!

 手を振り抜くと周囲、穴の中にいた半透明の獣たちが全て一瞬にして消し飛んだ。

 ざっとこんなもの・・・なぬ?

 

「嘘なんだよ!?」

 

 シルが目を丸くする。

 消し飛ばされた次の瞬間、幻獣たちは元通りの姿で復活していた。

 

『ははははは、そやつらは獣という概念ですよ! 概念をただの衝撃波で消し飛ばすことなど出来ません!

 魔獣を討たれたのは業腹ですが、貴方がここで死ぬとなれば安いもの!

 エルフの大魔術師であればまだしもですが、そちらの駄エルフは魔力こそ並外れていてもその様な術は身につけていないでしょう?』

 

 言われているぞ駄エルフ。何か言う事はないのか?

 

「ひどい! カエラくんまで駄エルフって言ったぁ!」

 

 単なる事実じゃろがい!

 しかしそうなると空を飛んで逃げる・・・ダメだ、陸上生物も空中を泳ぐように飛び跳ねてる。空を飛んだら上下前後左右から袋叩きになるしかない。

 地上を移動すればまだしも下からの攻撃は免れるだろう。

 霊体の類だと思うが、どういう訳か地面には潜れないみたいだしな。

 

「概念ですから。空中であれば跳躍もしますし、水中に見立てて泳ぐことも出来ますが、地面の中を自由に移動出来るのはモグラかミミズくらいのものです」

 

 それでも空中を動けるのはずるいと思うがな。

 全員一丸になれ! 周囲の連中を吹き飛ばしつつ、脱出するぞ!

 

『できるかな?』

 

 やるんだよ!

 

 

 突破を開始して五分。

 俺達は未だにクレーターから出られないでいた。

 武器が利かないと言う事はないが、倒しても倒しても次の瞬間には体を再構成して復活する。

 そのくせあちらの牙や爪はこちらにダメージを与えてくる。

 ジューニャの《鎧》呪文もこれには通用せず(ジューニャ曰く、対霊体防御が必要)、動きも迷宮の深層レベルのため、俺達は苦戦を強いられていた。

 波動陣で吹き飛ばしても多少再生が遅くなる程度で歩みは遅々として進まない。

 

『おやおや、高言の割には足が進んでいませんねえ。どうです、諦めたら?』

 

 うるせえな!

 叫んで、そこで俺は妙な事に気付いた。

 フジやタチバナ、スカージが斬った獣はすぐさま復活するのに、俺が斬った奴やエフティがひづめで踏みつぶしたりした奴は僅かに再生が遅いのだ。

 これは・・・

 何か引っかかった俺は、念のために心話でジューニャに聞いてみる。どういう事だ?

 

(・・・そうですね。カエラくんもエフリーティさんも、普通の《加護》ではありません。

 カエラくんの《波の加護》は魔力の波動に通じるそれですし、エフリーティさんの《百獣の加護》は獣繋がりで概念干渉出来るのかも知れません。

 その、あくまで推論ですし、どちらもそれだけでは概念を滅ぼしきるには弱いようですが)

 

 なら二つの《加護》を合体させたらどうだ?

 

(どういう事です・・・まさか、『融合(ユナイト)』ですか!?)

 

 『融合(ユナイト)』。複数の術者が精神を同調させ、一つの呪文を発動する事を言う。名前通り下手をすれば互いの精神が融合してしまい、元に戻れなくなることもあると聞く。

 

(危険です! 二人とも魔術の素養はないんですよ! よほどの術者でないとそんな真似は出来ません! 成功しても精神に深い傷を負う恐れが・・・!)

 

 《加護》ってのは真なる魔術に似たある種の魔術機構なんだろ?

 俺もエフティも《加護》をかなりのところまで使いこなしている。

 ましてや今は二人とも《明晰(クリア・マインド)》で潜在能力を最大限引き出している。

 成功率は低くないと思うぞ。

 

(それ、は・・・)

 

 口ごもるジューニャ。術師だけに、危険性は良く理解しているのだろう。

 だが多分勝機はこれしかない。頼むよ。

 そう言うとエフティが心話で割り込んで来る。

 

(よくわかんねーけど、オレ達が協力すれば何とかなるかも知れないんだろ? カーヴェがやるってんならやるぞ、オレは)

(・・・わかりました。お手伝いします。二人とも! 肌を合わせて下さい!)

(ふわっ!?)

 

 動揺でひづめ攻撃がぶれる。

 エフティのキックを避けて飛びかかって来た半透明の狼を、脇からタチバナがフォローして切り倒した。

 

(す、すまねえ)

(いえいえ)

 

 妙にニッコニコなタチバナである。何やねん。

 ともかく密着すればいいんだな!

 

(はいそうです!)

 

 ジューニャの返事と共に、俺は再びエフティにまたがる。

 これでいいか!

 

(はい!)

(・・・紛らわしい事言ってんじゃねえよ! 勘違いするだろうが!?)

 

 勘違いって何がだ?

 

(さあ・・・)

 

 ハテナマークを浮かべる俺とジューニャである。

 いいからお前も集中しろ!

 

(・・・わかったよ!)

 

 怒りの心情が伝わってくるが取りあえず無視。今はこいつらをブッ飛ばすことだけを考える。

 

(心を落ち着けて・・・互いのことだけを考えて下さい。

 心と体を一体化するイメージで)

 

 おう。

 

(・・・)

(・・・)

 

 またがった足と腰を通じて、エフティの体温が伝わる。

 多分エフティにも。

 

(エム・クリフ・オト・ライカ・・・)

 

 眠気を誘うようなジューニャの呪文。恐らくはトランス状態にするような祝詞(のりと)のようなもの。

 ひたすら集中していた俺の周囲から、いつの間にか世界が消失していた。




コンバインオッケイ、コンバインオッケイ(古い)
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