全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
周囲には何もなかった。
光も、闇も、空も地面も。
いつの間にか目の前にエフティがいた。
ごく自然に互いに手を伸ばし、触れあう。
その瞬間、奔流のように流れ込む断片的なイメージ。
これまでのエフティの人生全て。恐らくは俺の人生のイメージもエフティに。
一瞬の交流が終わり、互いに見つめ合う。
『・・・』
『・・・』
言葉はいらなかった。互いに拳を作り、軽く打ち合わせる。
じゃあ、やろうか。
『ああ』
世界に光が射す。
俺は/オレ達は/現実世界に帰還した。
目を開くと時間はほとんど経過していなかった。
やはり精神世界での出来事というのは時間が加速されているものらしい。
俺は/オレは/龍馬と化したエフティに/オレに/またがったまま、周囲を睥睨する。
俺は/オレは/大きく息を吸う。
それは俺の/オレの/中から自然に出て来た。
「カエラ」と「エフティ」の融合。《波の加護》と《百獣の加護》の融合。
波動陣と動物への変身が一体になった形。
二つの声が重なる。
『波動』『百獣陣』
忍者刀で幻獣の虎を切り裂く。
畳を立てて突進してくる狼をブロック。
空から襲ってくる2mの燕を手裏剣で撃ち落とす。
フジの全力を尽くしてようやく戦線を維持出来ている。
母や兄たちもほぼ限界。
スカージが一人で半分くらい相手取ってくれているから保っているようなものだ。
シルは術の維持でほとんど動けないし、カエラとエフティ、ジューニャが打開してしてくれると信じるしかない。
カエラがエフティにまたがり、ジューニャが呪文を唱える。
僅かな間。
周囲が魔力に包まれる。何度か経験した波動陣の魔力。
主に抱かれているような安心を感じる、カエラのそれ。
だが今はそこに何か別の物が混じっている。
それがエフティの魔力なのだと理解したとき、周囲が一変した。
『WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!』
咆哮が上がった。
モンスターの濁ったそれとは違う、気高い狼の轟き。
それと同時に、周囲に現れる無数の獣。
モヤのような幻獣達とは違う、本物の獣。少なくともその様に見える何か。
虎。狼。象。羊。犬。猫。その他無数の獣、鳥、魚たち。
違うのは実体を持っているように見えることと、動物本来のサイズであること。
『な、な、な!?』
虚空からの驚きの声。
あの霊体にしても、これは予想外。
「引き裂け!」
カエラの声とエフリーティのいななきが重なる。
それと共に無数の獣達が、無数の獣たちに襲いかかった。
牙で食いちぎられ、爪で引き裂かれ、ひづめで踏みつぶされ、角で貫かれ。
殺された幻獣達は次々に消滅し、今度こそ復活しない。
幻の獣たちはあっという間に駆逐されていった。
『馬鹿な、馬鹿な・・・』
呆然とする「ゴットリープ」。
クレーターの中のみならず、周辺に存在していた幻獣達も百獣陣の獣たちによって消滅していくのが俺の/カーヴェの/波動感覚で感知出来る。
恐らくは獣という概念ゆえに、獣に殺されてしまえばそれは自然淘汰となり概念として死ぬ。
弱肉強食という概念が、獣という概念自体に元から内包されているのだろう。
獣という概念にとって「人」は異物。
それゆえに人間が剣や弓で殺すのは弱肉強食の自然の摂理とは異なる、また別の現象として捉えられる。
そんな事を後でジューニャが/エルフの姉ちゃんが/説明してくれたが、それはどうでもいい。
厄介なモンスターがここで消える。重要なのはそれだ。
『・・・』
呆然としていたゴットリープの/クソ野郎の/気配が我に返る。
だが少し遅かった。
これまで周囲にわだかまっていたダンジョンの魔力――奴の言うところの未分化のモンスターの力――は、幻獣達の駆逐によって消滅しつつある。
これまで幻獣という形を崩しても魔力自体は消えなかったのが、幻獣を魔力ごと殺す事が出来るようになったことによって、魔力もまた消えるようになったのだ。
そしてそれは、ダンジョンの濃密な魔力の中で場所の分からなかったゴットリープの霊体の場所が割れることを意味する。
『ま、まずい』
それに気付いたゴットリープが逃げようとする。
だが、遅い。お前のいるのはオレの/俺の/敷いた魔力の結界の中。
その中で魔力の塊が動けば見逃しはしない。
加えて駄目押しにジューニャの霊視。
その二つの情報を心話のネットワークを通じて送る先はスカージ。
奴が言ったように霊体はただの魔力、飛ぶ斬撃では仕留められない。
だがスカージの武器、樹齢数千年の霊樹の芯を削りだして作った濃密な霊体の固まりである木剣なら。
「キイェェェェイッ!」
それが逃げようとしたゴットリープの霊体を両斬し、消滅させた。
「ぷしゅー・・・」
シルが頭から煙を噴いている。いやもちろん比喩的な意味でだが。
《
俺の波動陣とエフティの百獣変身を引き出し、スカージを含むこのパーティの完璧なコンビネーションを実現したのだから、隠れたMVPと言ってもいい。
「ちゅーなんだよ!」と騒ぐ気力もなく俺の膝枕でぐったりするシルの頭を撫でてやる。
俺は木にもたれ掛かり、その左膝にシル。
右側からはこれも疲労困憊したエフティがもたれ掛かってきていた。
例の開けっぱなしの古代ダンジョンのことも気になるし早く戻りたいところだが、さすがに全員がくたくただ。
特に俺とエフティ、シルは疲労が激しい。
タチバナたちの持っていた
比較的余裕のあるスカージが色々動き回って世話を焼いてくれていた。
タチバナやフジよりお茶を入れるのがうまかったのには心底びっくりだ。
「趣味でして」
かすかに笑う傷だらけの大男。うーん意外な一面。
ともかく、しばらくは動けん。少し休んで、シルとジューニャを手分けしておぶれば、後は高速で移動出来る面子ばかりだし・・・
寝息を立てるエフティのやわらかなぬくもりを感じつつ、俺の意識も闇に落ちていった。