全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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登場人物紹介

カエラ ニシカワ伯爵家を追放された元嫡子。オリジナル冒険者族(転生者)のサムライでマット村の領主、飛竜殺し。《波の加護》を持つ。通称カーヴェ。名刀西川正宗と、滅魔合金(オリハルコン)の剣を持つ。
フジ 冒険者族(転移者の子孫)のニンジャメイド。《畳の加護》を持つ。ヒロイン。
シル 商人と貴族の二足のわらじを履くマリネスキー男爵家の次女。写真記憶の持ち主で商売と事務仕事に長け、愛の神(アルリカ)の司祭位も持つ才女だが幼児体型。《そろばんの加護》を持つ。ヒロイン。
ジューニャ エルフの大魔術師(ウィザード)。広範な知識と隔絶した魔力を持つが初歩の呪文しか使えない。容姿も性格も完璧だが度を超した酒好き。《汗の加護》を持つ。ヒロイン。
エフリーティ 通称エフティ。角を持つ怪力無双の傭兵。傭兵団「真紅のオーガ」団長。カエラの幼馴染みで実はディテクの廃王女。《百獣の加護》を持ち、あらゆる動物の力を使うことができる。ヒロイン。
タチバナ カエラの乳母でフジの母。《光の加護》を持つ腕利きのニンジャ。ヒロイン。

ヒョウ、レイ フジの双子の兄たち。《双子の加護》を持ち、数キロ離れていても意志疎通が出来る。
ケイトー カエラの家臣団長老。
ロウ・アイランド 元マリネスキー商会所属で、現カエラの御用商人。商売をギャンブルのように楽しむ性格破綻者。
ジロー・カーター 宮廷官僚の次男で冒険者族。カエラの旧友。新しく見つかったカピラ・ダンジョンの管理責任者になる。前巻で結婚と言う名の墓場に入った。

ロビン 魔剣鍛冶。
ガニア親方 ロビンの親方で魔剣鍛冶。
ジョン・カーター 内務大臣でジローの父。
タルカス ジョンの懐刀。
ザイオン 魔法省次官。
ケイロン 魔法省所属の大魔術師。
ミナ 隣国ニコロデの辺境伯令嬢。
トーマ・マーガセン 辺境伯家に仕える騎士。
ソロ、アポロ、ジャンゴ、ジュカル、ジョズ 傭兵兼冒険者。

ケンシン・ニシカワ ニシカワ伯爵家現当主でカエラの祖父。
ゲルタ・ニシカワ 伯爵家の後妻でカエラの義理の母。カエラを追放した首謀者。
ヘルム・ニシカワ カエラの腹違いの弟。母と違ってカエラとも仲がよい。



第三巻「踊る人形」
第一話 嵐来る


 中段青眼に刀を構えて立つ。深く呼吸を繰り返す。

 目前には地平線の彼方まで途切れない黄金の軍団。

 力を溜めるように身をかがめて、その時を今か今かと待っている。

 正直絶望的な戦いだ。

 フジも、シルも、ジューニャもエフティもタチバナも、その他の家臣達も助けにはなってくれない。完全な孤立無援。

 

(やるしか・・・ないのか)

 

 心の中で悲鳴を押し殺す。

 弱音を吐くな。

 吐けば、気組みはそこから崩れていく。

 

 ィィィィン・・・

 

 名刀西川正宗が震動し始める。

 高周波震動剣。

 高速で微細に震動する刃であらゆる物体を断つ、俺の《波の加護》の基本技の一つ。

 そしてここから派生する、震動を収束して限界まで圧縮した空気の衝撃波として剣先から放つそれ。

 剣士の奥義「飛ぶ斬撃」にも似た光る刃。

 

「フォノン・メーザー斬り!」

 

 腰を落とし、ほとんど地面すれすれにそれを放った。

 刃渡り100mの光の刃が人間の足首のあたりを通り過ぎ、途中にある全てのものを断つ。

 黄金の軍団が一斉に倒れ、地に伏せた。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 見ていた村民たちから歓声が上がった。

 拍手。喝采。

 

「見よ皆の衆! やはりカエラ様こそは神! 即ちゴッド!

 危機に陥ったマット村を救うべく、地上に降り立った神の化身!」

 

 お目々グルグルさせて、逝っちゃった表情で拳を掲げる村長。

 

(ゴッド)! (ゴッド)! (ゴッド)!」

(ゴッド)! (ゴッド)! (ゴッド)!」

 

 村長に合わせて拳を掲げ合唱する村人たち。

 俺が言うのも何だがこの村大丈夫か・・・?

 

「お疲れさまです。まあ農民からしたら神様にしか見えないでしょうね」

 

 溜息をつくフジの視線の先には100mほどの範囲で綺麗に刈り取られた麦。

 俺がたった今フォノン・メーザー斬りで切り倒した麦畑である。

 その向こうには地平線の向こうまで続く麦畑。

 この麦畑、今日中に全部俺が刈り取らなきゃいけないのか・・・?

 

「天候が急変しております。今日中に刈り取らねば、残った分は大きな損害を出して今年の収穫がかなり目減りするかと。無論村人たちも総出で収穫してはおりますが・・・」

 

 麦畑の向こう、ちらりと見える黒雲を眺めながらケイトー。

 ええい、分かってるわい! やるしかないんだよな!

 でも刈り取りって領主が直々にやる仕事だったかなあ!?

 

「立ってるものは親でも使えなんだよ」

「わ、私も念動で運ぶのをお手伝いしますので・・・」

「うんまあ、オレそう言うの向いてねえから」

 

 何て頼りになる女たちだ。もう泣きそう。

 そんな女たちの中で、フジだけはにっこりと俺に微笑みかける。

 ああ、やっぱり俺の心を癒してくれるのはお前だけ・・・

 

「使えるものは何でも使えと言うのがカエラ様の口癖でしたよね?

 子曰く『まず隗より始めよ』でございます」

 

 うるせえよ!

 

 

 

「あいたぷしゅー」

「カーヴェが死んでる・・・」

 

 死んでねえよ、生きてるよ、と言いたいところだが、最早反論する気力もない。

 ソファに沈んでピクリともしない俺をシルが膝枕し、頭を撫でてくれている。

 外からは強い雨と風の音。領主館の建物が僅かに軋んでいる。相当の強風が吹き荒れているらしい。

 

「ギリギリのところでしたな」

「いやまったく。領主様がいらっしゃらなければ危ないところでした」

 

 ケイトーと村長の声が聞こえる。

 村人総出、文字通り女子供や傭兵団の連中まで駆り出しての刈り取りはギリギリ間に合い、脱穀する間も惜しんで収穫した麦と米をそのまま倉庫に放り込んだ直後にやって来たのが、今外で吹き荒れてる台風並の雨風である。

 刈り取りが遅れていたら、残った作物は全滅していただろう。

 なんせマット村の作付け範囲は、現在優に10kmを超えている。10×10で100平方キロメートルだ。

 一振り100m、どこかのキャラメルのキャッチフレーズみたいな芸を持つ俺をもってしても、一万回のフォノン・メーザー斬りが必要になる計算である。

 そして多分九千回くらいは剣を振った。村人を刈り取りに当てるより、俺が刈り取って村人に運ばせる方が効率いいんだからしょうがない。

 消費魔力に関してはジューニャが適宜補充してくれていたが、それでも酷使した体にダメージが残るのはいかんともしがたい。

 いくら車にガソリンを補充しても、長時間走り続けたら整備が必要なのだ。

 工場に送って完全分解整備をしたいくらい。いや人間だから分解したら死ぬけど。

 

「さすがに今日は私もちょっと疲れましたねえ」

 

 そして俺がフォノン・メーザー斬りに使った魔力を全補填した女のセリフがこれである。

 《念動》呪文で十数トンの麦や米を何度も運んでたと言うのに。

 ちなみに現在この場にいるのがフジとシル、ジューニャ、エフティ、そして村長とケイトー。

 打ち合わせに来ていた村長だが、この嵐なので泊まっていくらしい。

 村長の屋敷まではそれほど遠くないが、この超巨大台風で外に出たら、それはもう「ちょっと田んぼの様子見てくる」並の死亡フラグだ。結構な年齢でもあるし。

 フジは足の速いのもあってあちこち走り回っていたし、シルも怪我人の対応で忙しかったし、エフティも足りない家畜の代わりに荷車を引いて大活躍だった。

 ので、「ちょっと疲れた」などとほざく化け物エルフを除くと全員が多かれ少なかれ疲労している。

 ・・・寝るか。

 

「それがよろしいかと存じます」

「賛成なんだよ・・・」

「だよな。今日はゆっくり休もうぜ」

「ね、ね、カエラくん! 今日は私役に立ちましたよね! だからよく眠れるようにワインを一瓶・・・」

 

 周囲が頷く中、卑しい目でこちらを覗き込んでくる駄エルフ。

 まあ、今日は確かに役に立ったことでもあるしな・・・

 

「ですよね! ですよね!」

 

 ワインをグラス二杯、追加で飲ませてやる。

 

「けちぃ!」

 

 なお翌朝、酔っぱらったジューニャが盛大にワインの汗をかき、ベッドごと酒漬けになって俺達も全員で朝風呂に入るはめになった。

 

「あー・・・朝風呂はいいですね・・・」

「風呂は人類の生み出した至高の快楽なんだよ・・・」

「毛穴からワインがしみ出して来る感じがするぜ」

「ふふん! 魔法で水を出して瞬時に沸かせる私であればこその贅沢ですね! 感謝してくれていいですよ!」

 

 おう、感謝してるとも。

 ご褒美に今後三日間禁酒な。

 

「アイエエエエエエエエエエエ!? ナンデ、禁酒ナンデ?!」

 

 マット村は平和である。

 少なくとも今日のところは。




>まず隗より始めよ
「言い出しっぺがやれ」という意味に使われてはいるが、本来は「まず私(隗)を重用すれば、もっと優れた人材が『それなら俺も』とやってくるでしょう」という意味なのでちょっとニュアンスが違う。ただ、中国でももっぱら前者の意味で使われてるらしい。
なおこの世界には普通に論語が伝わっている。

>ちょっと田んぼの様子見てくる
死亡フラグ。
何で台風の時にわざわざと思っていたが、下手に決壊させるとよその田んぼにも被害が及ぶわ村八分にされるわで、見に行かざるを得ないのだという。
お百姓さんは大変だ。
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