全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第二章「シル」
第八話 才女の失踪


「銭の花の色は清らかに白い。だが蕾は血がにじんだように赤く、その香りは汗の匂いがする」

 

     ――ドラマ「細うで繁盛記」――

 

 

 

「ふぅぅぅぅぅぅ・・・」

 

 一定のリズムで息を吸い、吐く。

 走る馬の振動が呼吸のリズムと重なる。

 俺から伝わる波動が馬体に吸い込まれ、馬の生命力が活性化するのが分かる。

 

「ヒヒイィンッ!」

「ひええええええええええええええ!?」

 

 暴走寸前まで活性化させた乗用馬が街道を疾走する。

 時速180km。文字通り通常の三倍。

 ちなみに悲鳴を上げてるのは俺の後ろにまたがってるロウ。

 必要になりそうなので連れて来た。閑話休題(それはさておき)

 

 これも《波の加護》のちょっとした応用、生命活動の活性化波動である。

 生命の流れもまた波だ。それ自体を増やしたり減らしたりすることはできないが、活動を活発化させたり鎮静化させたりすることは出来る。

 簡単に言えば身体能力の強化(バフ)。加えて細かい理屈は分からないが、恐らく成長促進の効果がある。外からバフを取り付けるのではなく、生命力を活性化するから、刺激された潜在能力が開花しやすくなるんじゃないだろうか。

 

 ともかくこれがあればこそ、この年齢でここまで強くなれたし、継母の送り込んできた刺客達をああもあっさりと全滅させられた。

 普段は自己強化に使っているが、密着すれば他人を強化することも出来る。フジの《加護》の鍛錬の時にも使っていた。

 まあ身体能力の強化を密着しながらというのが活用しづらくはあるが、乗騎の強化に使うならかなり便利な能力だ。なのだが・・・

 

「ロウ様、声を上げると舌を噛みますよ」

「まあしょうがないんじゃないかな。普通の人には――」

「――この速度は怖いよ」

 

 何でこの速度で走る馬に追随出来てるんだよニンジャども!?

 《加護》じゃないよな。単純な鍛錬でもなさそうだし・・・術か? 魔道具か?

 

「若様と言えどもそれは――」

「――秘密にございます」

 

 時速180kmで走りながら、器用にウインクして口元に指を当てるヒョウとレイ。

 こう言うところまでシンクロしてるのはさすが《双子の加護》というべきなのか。

 まあいい、今はとにかく急ぐことだ。

 

 

 

「替え馬だ! ロウ、金を出せ!」

「は、はい・・・」

 

 マット村最寄りの宿場町。

 息も絶え絶えのロウから財布を奪って替え馬に乗り換える。

 ロウ以上に息も絶え絶えの馬はしばらくここで休ませて貰い、新しい馬をレンタル。

 宿場町ごとにそれを繰り返し、日夜急行。

 マット村からメットーまで、歩いて一ヶ月以上の道のりを俺達は二日で走破した。

 

 

 

「あの、ロウ様。大丈夫ですか?」

 

 へんじがない。ただのしかばねのようだ。

 

「だ、大丈夫です・・・聞いているので話を進めてください・・・」

 

 心配そうに覗き込むタチバナに、か細い声で返事するロウ。

 ソファに転がって起き上がれないままだが、それでも話を聞くくらいの気力はあるらしい。

 

「まあそういう事なら・・・」

 

 ともかく改めて説明頼む。ヒョウとレイからはざっくりとしか聞いてない。

 

「はい。シル様が行方知れずになっております」

 

 俺が伯爵家嫡子だった頃の許嫁の名前を、タチバナは口にした。

 

 

 

 シル。

 シル・ディル・マリネスキー。

 マリネスキー男爵家の次女で、俺の幼馴染みであり元許嫁。女性不信を患ってる俺が気兼ねなく話せる数少ない女だ。頭が良く、愛の神(アルリカ)の司祭でもある才女。

 シルの家は元々商売で成功して爵位を買った家だそうで、現在でも商家との二足のわらじを履いて成功し続けている。

 貴族になって時間が経っているせいか、この手の家にしては上品で成金らしさがあまりないという話は聞いたことがある。

 侯爵家出身なのを鼻にかけ、二言目には貴族らしさがどうの、品性がどうのとやかましい継母が、シルにはさほど当たりがきつくなかったのは男爵家の金目当てか、あの継母から見ても見苦しくない程度の品性とやらがあったのか、多分両方だろう。

 

「行方知れずになったのは、恐らく一月半ほど前」

 

 俺との婚約が解消されて一月半くらい、俺がワイバーンを持ってくる少し前か。

 

「はい。ヘルム()様との婚約を嫌がっていたという話は聞こえて来ていたのですが、ある時を境にぱったりと。

 それ以降はいくらか探りを入れてみても、お屋敷にいらっしゃらないことがわかっただけでして」

 

 うーん・・・あれのおやじさん、現在の当主は結構冷徹な人間だからな。

 数度顔を合わせただけではあるが、あまり娘に情があるようには見えなかった。

 

「わたくしもそう思います。付け加えるなら同業者の評判もそのようなもので」

 

 だよなー。

 行方は分かってないのか。

 

「マリネスキー男爵家と商会の両方に探りを――」

「――入れておりますが中々・・・」

 

 ロウ、悪いが少し休んだらお前の方からも動いてくれるか?

 

「無論です。お嬢様にはお世話になりましたからね」

 

 無理して笑うロウ。そもそも俺がこいつと面識を持ったのもシルを通じてだし、恩義を感じてもいるのだろう。だから連れて来たのだ。

 まあ何時間か活性化波動を送り込んでいれば何とかなるだろう。

 

「はは、やっぱり若様は大したお方ですな・・・賭けた甲斐がありました」

 

 それを言うのはまだ早いと思うがな。

 肩をすくめてからフジの方に向き直る。

 お前もタチバナ達を手伝って情報収集を頼む。

 そう言うと、フジ以外の親子三人が微妙な顔になった。

 

「あー、若様。フジについてはこれまで通り――」

「――お側に置いて頂くのがよいかと」

 

 ? タチバナの方を向くと、苦笑しつつ話してくれた。

 

「この子は何と言うか、いくさや隠密に関しては私や息子たちよりも上なのですが、こと情報収集となると・・・」

 

 複雑な顔のフジをちらりと見て、俺は頷いた。

 まあ人間得手不得手はある。

 

「生暖かい目で見るのはやめて頂けないでしょうか!?」

「まあそれはともかく」

 

 こちらも生暖かい目の母親(タチバナ)

 

「そうなると若様とフジには、ロウ様の体力を回復させつつ、しばらくここで待機願うことになりますか」

 

 いや、一箇所当てがある。タチバナ達にも手伝って欲しいんだが。

 

「当てと――」

「――言いますと?」

 

 ニシカワ伯爵家。

 実家だよ。




> 時速180km。文字通り通常の三倍である。
サラブレッドならもっと早いのですが、量産品としての乗用馬なら短距離走でもこの程度だと思います。
名馬でもないならこれでも早すぎるかも。
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