全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第五話 王都の北北西

 それじゃ俺達もこれからやる事がある。明日の朝までは好きにしていいぞ。

 なんなら工房で過ごしてもいいし。

 

「えー・・・」

「あれだけ涙の別れをさせておいて今更それはないでしょう。

 大体それならさっき言えば良かったじゃないですか」

 

 呆れた顔のフジ。

 いや、止める間もなく盛上がってたんでタイミングを逃してな・・・

 

「あ・・・それではお世話になったところに挨拶回りに行ってもよろしいでしょうか」

 

 お、義理がたいな。もちろん構わないぞ。ほら、小遣いだ。手土産買うなりお茶するなり好きにしろ。俺達は金目亭にいる。「梟の法廷」通りにある宿屋だ。金色の目の看板が出てる。

 わかるか?

 

「こんなにたくさん!? ありがとうございます。分かると思います」

 

 驚いてちょっと笑顔になるロビン。

 好感度+1である。

 攻略ヒロインでも悪魔でも、好感度は金で買えるのだ。

 フジを介してとかではなく、直接手渡すのがコツ。

 こうやってこまめに好感度を稼いでおかないと民忠が下がって叛乱が起きる。

 民忠ゼロが最良の支配方法とか言ってはいけない。あれはわるい仕様だ。

 

「何を言ってるんでしょうこの人は」

「いつものことだから気にしない方がいいんだよ」

「本当にどこからああ言うことを学んでくるんでしょう・・・?」

「カーヴェは頭良すぎてちょっとおかしいからな」

 

 失礼な奴らだ。

 その後宿でタチバナたちからここ一月ほどの情勢を聞いた。

 マリネスキー商会の大番頭だったアレン・ベグイルはまだ捕まってないのか。

 

「はい。見つかったら商会の内部にある程度動きがあるはずと思うのですが・・・」

 

 ちらりとロウを見るタチバナ。ロウが肩をすくめる。

 

「こちらもそんな感じですね。まあ、人知れず処理したなら話は別でしょうが・・・」

 

 あの人が? ないな。

 

「御父様に限ってそれはあり得ないんだよ。捕まえて脳みその裏側までひっくり返して情報を抜き出そうとするはずなんだよ」

「俺も同感ですね。殺すなら利用価値がゼロになってからの話でしょう」

 

 うんうん頷く俺達三人。

 あ、ジューニャとエフティがちょっと引いてる。

 

「怖そうな人だとは思いましたけど・・・」

「何者だよ、シルのおやじさんは」

 

 吸血鬼かな。

 

「絶対法律に引っかからない大犯罪者なんだよ」

「商人なり貴族家の当主なりとしては非常に有能な方だと思いますよ。尊敬されるかどうかはともかく」

「・・・」

「・・・」

 

 あ、もっと引いた。

 閑話休題(それはさておき)

 

「と、わたくしどもからはこの程度ですね。ロウ様は他には?」

「俺からもそんな所です。お帰りになる際にハトの補充を持っていって下さい」

 

 オーケー、それじゃ久しぶりのメットーだしうまいメシでも食いに行くか。ロウもどうだ、おごるぞ。

 

「御馳走になりましょう」

 

 ロウがそう言った直後だった。

 後ろに控えていたレイの表情が変わる。

 

「大変です、若様。ロビンさんが誘拐されたとヒョウから」

「何!?」

 

 レイの双子の兄のヒョウは、普段ニシカワ家に残って影の一族の一員として、また屋敷の下働きとして働いている。

 そうして得た情報をタチバナを介して俺に伝えてくれているのだ。

 そしてヒョウとレイの間には《双子の加護》という絆がある。

 これがどうも文字情報や思念だけではなく、イメージや感情、視覚情報まで伝えられるらしい。

 それでヒョウもロビンの顔を知っていたのだが、屋敷の外にお使いに出ていたときに、馬車に押し込められるロビンを目撃。現在追跡中とのこと。

 

「どうします?」

 

 もちろん追うぞ。うちの家臣に手を出したらどうなるか、思い知らせてやる。

 そう言う訳だ、ロウ。うまいメシはまた後でな。

 

「了解です。俺は商会に戻って情報を集めさせますよ」

 

 ああ、頼む。行くぞ、みんな。

 

「「「「「「はいっ!」」」」」」

 

 一斉に返事が返ってくる。

 腰帯に西川正宗を差し込みつつ、俺は頼もしさに頬をゆるめた。

 

 

 

 ヒョウとレイの誘導に従い、メットーを駆ける俺達。街路では他人とぶつかって危ないので家の屋根を走っているが、非常時なので勘弁してくれ。

 この面子の中で、時速100km超で走れないのはシルとジューニャだけなので、二人は《念動》呪文で体重を消した上で俺とエフティに引っ張られてついてきている。

 俺の家臣になった途端に死ぬなんて許さないぞ。ロビン、間に合ってくれよ――!

 

「若様。ヒョウからの連絡で、連れ込まれた屋敷から馬車が出たと!」

 

 どこへ行った!

 

「北西の方です。今城門を出て・・・あ、北に曲がったと!」

 

 ・・・待て。メットーの北北西の方には川があって、少し上流へ行ったら険しい崖沿いの道になってなかったか?

 年間通してかなりの事故があったはずだが。

 

「「「!」」」

「その通りです、カエラ様。レイ、ロビンさんはどんな状態でした?」

「・・・意識を失っていたらしいです」

 

 くそ! 急ぐぞ、みんな!

 返事はない。

 その代わり、全員が無言で速度を上げた。

 

 

 

 城壁を越えるところだけ、タチバナの透明化の術で切り抜ける。

 城門は混んでてこの速度で通り過ぎるのは危険だし、今はモラル云々言ってられる場合じゃない。

 しばらく走ると街道は山道になり、右側に川。

 川岸がどんどん高くなり、切り立った崖になる。

 

「! 若様! ロビンさんの馬車が暴走を始めました! このままでは・・・!」

 

 くそ、馬車はどこだ!

 

「もうすぐそこです! ヒョウが取り付いて・・・あっ!」

 

 どうした?!

 

「いえ、今すれ違ったのが馬車に乗っていた男で・・・!」

 

 よし、馬車は道の先だな? レイはあの男をつけろ! 手は出すな!

 

「わかりました!」

 

 頷くとレイが脇の森に姿を消す。

 そこから走る事一分。

 視界に入ったとき、馬車は今まさに崖から飛び出すところだった。ヒョウが取り付いているのが見える。

 タチバナ!

 

「はいっ!」

「きゃあっ!?」

 

 走りながらシルをタチバナにパスし、西川正宗を抜きざまにフォノン・メーザー斬り。

 更に一振り。更にもう一振り。

 左前方の森の木が切り刻まれて、駆け抜ける俺達の上に枝や葉っぱがバラバラと降ってくる。

 

 刀を放り捨てて落ちてくる枝を掴む。

 ファンデルワールスの波動! 放たれた波動は「くっつく」力を発揮し、それが生体である枝をつたって更に無数の枝や葉をくっつける。

 

「おおっ!」

 

 気合い一閃。一繋がりのムチのようになった枝を振り回し、馬車に向けて振り下ろす。

 手応えアリ。

 枝葉のムチが馬車に絡みつき、ファンデルワールス力(多分)で車体と接着する。

 

「うおおおおおおおおっ!」

 

 馬車と馬二頭の重さが手にかかり、踏ん張った足が引きずられる。

 後ろからエフティが俺を支え、フジが足元に畳を積み上げて、少しでも踏ん張れるようにしてくれる。

 だがそれでも支えられて数秒。秘印級の俺と、腕力なら巨人級のエフティとは言え、体勢が悪すぎる・・・が、数瞬あれば十分だった。

 

「お?」

 

 ふっ、と手にかかる重さが消失する。

 視界の先、崖の下からゆっくりと、馬車と馬が持ち上がってくる。

 よくやった、ジューニャ。

 

「カエラ君たちが支えてくれたおかげですよ」

 

 《念動》の呪文で馬車を丸ごと引っ張り上げたエルフがにっこり笑った。

 




>梟の法廷
バットマンのエピソードの一つ。
この世界の地名は大体アメコミ関係のパロである。

>民忠
信長の野望用語。
読んで字の如く民衆の忠誠度。低いと一揆が起こる。
もちろん高い方がいいはずなのだが、初代だと民忠ゼロのまま突っ走った方が効率よくゲームを進められる仕様上の不具合がある。
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