全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
人狼ロボの残骸を呆然と眺めていたのはそう長い時間ではなかった・・・と思う。
取りあえず服を早く着ないと、と周囲に散らばった服を見渡すと。
「カーヴェ! 無、事で・・・」
エフティを先頭に突入してきたシルたちが固まる。
うん、僕知ってるよ! 起こって欲しくない事って最悪のタイミングで起こるんだよね!
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
水飲み鳥みたいにぺこぺこ謝るロビン。
工房でのあれと違って、礼服は縫い目が全て綺麗にほどけ、ただの高級な布地の端切れと化していた。パッチワークの材料には使えそうだな。
ジューニャ、《
「さっき着ていた服みたいなものでしたらなんとか・・・」
それでいいから頼むわ。
あー気が重い。絶対背びれ尾びれがついて「好色カエラがオークションハウスで発情して、女を抱こうと衆人環視の中で裸になった!」みたいな噂になるぞ。
これも打ち消して貰えるようにおじさんに頼んでおかないとな。
「まだ諦めてなかったんですか?」
うるせえよ。常に希望は存在するんだ。
シルに成長の余地があるくらいにはな。
「・・・カエラちゃん? それはどういう意味かな? かな?」
倒れていた護衛の応急処置を終えたシルが、こっちをじとっと睨んでくる。
もちろんシルが将来グラマーでデンジャラスなダイナマイトボディになるってことだよ。
「心がこもってないんだよ!」
ぽかぽか俺を殴り始めるミニ怪獣。
それは置いておいて、まだぺこぺこしているロビンの方に目をやる。
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
もういいから。助けて貰ったのは確かだしな。
それより今のはどういう事だ? 《露出の加護》を使ったんだというのは分かるが。
「は、はい。暴走させると工房でやったみたいに全員が裸になっちゃうんですけど、さっきみたいにこう、絞る?感じで力を放つと、露出させる力が強くなるんです」
指向性を持たせて収束させる感じか。
しかし古代王国期のゴーレムまで分解するとなると大したもんだな。
「工房では武器以外の魔道具の手入れもやってましたから・・・魔道具が爆発しそうになったときに、咄嗟に《加護》を使ったら安全に解体できて・・・それを思い出してやってみたんです」
なるほど。いい判断だった。良くやったぞ。
「あ、ありがとうございます」
露骨にホッとした顔になるロビン。ひょっとしてこの失態の罰にあれこれお子様に聞かせられない事を強要されるとかそんな事を危惧してたのか?
これは何としてでも世間の噂を打ち消して貰わないとな。
「ここまで広まっちゃ無理じゃねえかなあ・・・」
黙ってろエフティ。
そこでジューニャの呪文が完成し、俺は何とかまともな格好になった。
しかしこうなるとオークションはどうするんだろうな?
「オークションハウスの面子にかけて強行するみたいですよ」
返事をくれたのは金髪のイケメンだった。面子って。
オークショニア、今のお前に足りないものを教えてやろうか? 危機感だよ。
にしても今までどこにいたんだお前。
「打ち合わせをしておりました。申し訳ありません、あれと戦える程の戦闘力は持っておりませんで・・・」
まあそりゃそうか。剣がないとは言え
「ご理解いただけて幸いです」
そう言う事で俺とロビン、フジとイヴァンはそのままオークション会場に移動する。シルたちは姿を消した。
「あ、その前にちょっとロビンさまはこちらに来て頂けますか?」
「はい?」
何かあったのか?
「彼女の家族に関わる事ですので、出来れば外して頂けると・・・」
わかった。早めに済ませろよ。
「かしこまりました」
席を外した二人はすぐに戻ってきた。
何だったんだ?
「いえその、大した事ではありませんでしたが・・・」
そうか。
結構動揺しているっぽいのはあえて指摘しない。
そのまま俺達はオークション会場に入った。
「・・・」
「・・・? ・・・!」
ざわ・・・ざわざわ・・・。
先ほどあんな事があったばかりでざわついている会場。
それでも帰った客は意外に少なかったらしい。
図太い連中だな。
目当ての男は・・・いた。ヒョウの似顔絵で見た、堅実な官僚と言った感じの男。
おじさんによれば名前はリップヴァーン。確認するとロビンが頷いた。
奴が座っているのは中央付近の席。女連れだ。
イヴァンと視線を交わし、頷くのを確認して後方左端の席に座る。
「大変お待たせ致しました。これよりオークションを開始致します」
さて、どう出てくるかな。
「こちらのオリジナル冒険者族カキエモン卿作、炎紋透かし鍔はレーマン卿が32万ダコックで落札! おめでとうございます」
拍手。
そして次の品物が運ばれてくる。
茶色の地にくすんだ緑色の釉薬が流れる、猿をかたどったツボだ。
「そして出品番号54、三代目タンゲー作、コケの猿壺。十年間座り続けて体に苔が生えた猿の寓話をモチーフにした渋さの光る一品であります。三万ダコックから!」
「四万」
リップヴァーンが手を上げた。
イヴァン、あれがあいつがここに出てきた理由か?
(どうでしょう。こちらの目をそらすための行動と言う事もあり得ます。
ともかくも自然に振る舞って下さい)
了解した。
「五万!」
「五万五千!」
十万!
「!」
俺が手を上げると、視線が集中した。
イヴァンが焦ったように小声で話しかけてくる。
(カエラ卿!? 自然にと申し上げたではありませんか!)
だから自然に振る舞ってるだろう? オークションの参加者なんだからな。
そう言うと反論出来ないのか、イヴァンは口を閉じる。
「・・・十一万」
「十二万!」
十八万!
俺が再び吹っかけると、リップヴァーンがこちらを振り向いて憎々しげな顔で睨みつけてくる。おーおー、気持ちいいねえ。
「十八万出ました。それ以上ありませんか」
「・・・二十万」
三十万!
リップヴァーンにかぶせると、会場がどよめく。
俺の知る限りそこまで有名じゃない作者で、しかも小品だ。
三十万ダコック、日本円で三百万の価値はさすがにない。
それでも奴は何とか冷静を保って勝負を続ける。
「四十万」
六十万!
「八十万」
百万ダコック!
今度のどよめきは先ほどより数倍大きかった。
「お静かに! 皆様お静かに願います!」
オークショニアが木槌を鳴らすが、会場が静かになるまで数分かかった。
「百万ダコック! 百万出ました! 他にありませんか!」
「・・・・・・・・・・・・・・・百五十万」
またしてもどよめき。
五十万か、目一杯上乗せしてきたな。
オークショニアがこちらに視線を向ける。
まあ嫌がらせはこの程度でいいだろう。
両手を上げるジェスチャーをすると、オークショニアは他に手を上げるものがいない事を確認して木槌を振り下ろした。
「百五十万ダコック! コケの猿壺、百五十万ダコックでハウンゼン様が落札です!」
まだざわついている会場。
ハウンゼンを名乗るリップヴァーンが壺を受け取って出口に向かう。
物凄い顔で睨んできたのでニタニタと嫌みな笑いを浮かべてやった。
うちの人間にちょっかいかけてきたのはそっちが先だからな。
それに好色趣味の噂をばらまいた復讐としてはまだまだ軽いもんだ。
「・・・ちっ」
かろうじて平静を保ち、会場を去るリップヴァーン。
さて、じゃあ俺達も帰るか?
「そうですね、『帰り』ましょうか」
うん? 今何かイントネーションが・・・
嫌な予感を感じてロビンを背中にかばう。フジが俺の横で身構えた。
イヴァン、お前・・・
「領主様・・・ごめんなさい」
背中に固いものが押しつけられる感触。
次の瞬間、雷光のような光が俺の胸を突き破って飛び出した。
>三代目タンゲー作、コケの猿壺
丹下左膳 こけざるの壺。1954年の娯楽時代劇映画。