全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
「きゃああああああああああああ!」
「人殺しだ!」
「『飛竜殺し』が殺されたぞ!」
悲鳴が上がる。
心臓を魔法らしき光で貫かれた青年は倒れてピクリとも動かない。
メイドが周囲の敵を警戒して身構えるが、混乱のうちにロビンとイヴァンの姿は消えていた。
十分後。二人の姿は質素な馬車の中にあった。
こわもての御者が操る馬車は、城門を出て街道を南に進んでいく。
まだカタカタと小刻みに震えるロビンの手には、カエラを背中から撃った古代のアーティファクト。魔力を蓄えてビームとして発射する武器、通称雷光銃。
単発の、服の袖にも隠せるデリンジャータイプ。
「こ、これでもう工房のみんなには危害は及ばないんですよね・・・!?」
「もちろんです。よくやってくれました。これで貴方の家族は安泰ですよ」
笑みを浮かべるのはイヴァン。
先ほど二人で席を立ったときにロビンが見せられたのは、親方の娘が大事にしていたハンカチであった。
意味が理解出来ずに戸惑うロビンに、彼は言った。
「私はリップヴァーンの側の人間です」と。
本来カエラ達につくはずだった内務省の人間を始末し入れ替わり、工房の護衛の中に自分たちの仲間がいる事を示唆。
家族を人質に取られた時点で、ロビンに選択の余地はなかった。
デリンジャー雷光銃を手渡され、後ろにかばわれたタイミングで背中に銃口を当てて撃った。
さすがの『飛竜殺し』も心臓を貫かれては生きていないだろう。
後はリップヴァーンと合流してこの女から情報を抜き出せば終わりだ、とイヴァンはほくそ笑む。
口惜しいが内務省の魔神教団勢力はもう終わりだ。
一時国外に撤収して再起を図るしかない。
河口の港町で船に乗ってしまえばもう追跡は出来ない。
いささか浪費はさせられたが目的のものは手に入れたし、何より憎きニシカワの子孫の命を奪う事ができた。きっと魔神もお喜びになるに違いない。
ゴットリープは死に、ディテクにおける計画も大幅後退を余儀なくされたが、あの小僧の命を奪えたならそれもきっと高くはない代償。
満面の笑みを浮かべるイヴァンを、ロビンが無言で見つめていた。
ビップル。
ディテク王国の都メットーを南北に貫いて流れるハイオ川の下流に位置し、メットーの玄関口とも称されるディテク最大の港町。
速度の速い川船をあえて避け、半日かけて街道を南に向かう。
馬車が郊外のとある屋敷の前で止まったのは、もうすぐ夕方という時刻。
雷光銃を取り上げられ、降りるように促される。
それに従って屋敷の中に入ると、リップヴァーン達がいた。
「リップヴァーン、ロビン・・・いえ、カウプラン嬢をお連れしましたよ」
「ご苦労。それでは船に乗るぞ。オルスターにむけてすぐに出港出来るよう手はずは整えてある」
「オルスター、ですか・・・遠いのですか?」
ロビンの言葉に頷くリップヴァーン。
「船で二週間ほどだな。申し訳ないがしばらくディテクを離れて貰う事になる。
その間の家族の無事は保証しよう。
お嬢さんもここに来たと言う事は、我々に全面協力してくれるつもりと考えていいんだね?」
ロビンが頷くと、リップヴァーンがにっこりと微笑んだ。
いかにも官僚的な、堂に入った愛想笑い。
「よろしい。我々『
しかし驚いたね。まさか内務省の放ったスパイが我々の手の者であったとは!
これも魔神様のお導きと言うことか!」
「え?」
ロビンが目をぱちくりさせる。
どういう事かと問おうとしたとき、遠くで音が響いた。
「なんだ?」
「様子を見に行かせろ。他の者は荷物を運び出せ」
「はっ」
リップヴァーンの命令で男達が動き出す。
十分ほど後、外から馬蹄の音が聞こえてきて、中に男が駆け込んできた。
「リップヴァーン様! 内務省です! 内務省の奴らに船を拿捕されました!」
「なんだと!? ・・・まさか」
顔をこわばらせるリップヴァーン。
その視線の先で、ロビンが笑みを浮かべた。
「・・・このアマっ!」
先ほどまでの上品な物腰を消失させ、イヴァンがロビンにつかみかかる。
その手がロビンに触れるか触れないかのところで、打撃音と共にイヴァンの身体が大きくのけぞった。
「!?」
悲鳴を上げる間もなく、イヴァンが仰向けに倒れる。
次の瞬間、鞘に入ったままの剣を突き出した男がその場に現れた。
「な・・・お、お前は・・・」
パクパクと口を開閉するリップヴァーン。
「カエラ・ニシカワ!?」
「ご名答」
ニヤリと笑い、俺は西川正宗を腰に戻した。
種明かしをしよう。
狼ロボを倒した直後から、俺の周囲にはシル達が全員待機していたのだ。文字通り「姿を消し」て。
普通ならこれだけの人数、タチバナでも三十分とは保たないが、幸い今はジューニャという魔力タンクがいる。
ジューニャとエフティの嗅覚による嘘発見センサー、別名「これは嘘をついている匂いだぜ」センサーを活用するためについてきて貰ったつもりが、まさかイヴァンの裏切りを見破る事になるとは怪我の功名である。
それでロビンとシルの心話であれこれ相談して段取りを決め、タチバナの光の術とジューニャの幻術で、俺の胸がブチ抜かれたような演出をして死んだフリをした訳だ。
「な、な!?」
身構えようとしたリップヴァーンの部下たちがうろたえる。
周囲には既にフジ、シル、ジューニャ、エフティ、タチバナ、ヒョウの姿。
当然だよなぁ?
なおレイは内務省の部隊に同行させて、港で船を抑えてもらっている。
さっきの短い会話から船を割り出したタルカスさんパネェ。
まあそう言う訳だ、大人しくお縄につけ。つかないならそっちのほうが嬉しいけどな!
そう言うと魔神教団の内通者達が一斉に顔を引きつらせて「ひっ」と悲鳴を上げる。
「くそっ、いずれディテクを焼く時のためにと思っていたが!」
!
全員館の外に出ろ!
短く悲鳴を上げるロビンを脇に抱え、窓を破って外に出る。
「ふははははは! これぞ我らの切り札!
崩壊する館の中から現れたのは・・・赤いボディと甲殻、巨大なハサミを持つ・・・20mほどのロブスター?
ただしその頭部にはエビではなく、人間の頭が四つついている。
「うわあ、趣味ワリぃなおい」
自分も動物の力を使えるエフティがげんなりした顔になる。
「今度こそ確実に殺してやる、ニシカワの小せがれ!
狼の機人にすら苦戦した貴様が、この
ロブスターの背中に乗っているのはリップヴァーン。
まあ確かにあいつには苦戦した。サムライもカタナ持ってなきゃただの戦士だからな。
だが今は違う。サムライの奥義って奴を見せてやろうじゃないか。
抱えたロビンをエフティに任せ、両手で西川正宗を握る。
大上段に掲げた剣が震え、高周波音と光を発する。
「な・・・?」
とくと味わえ、これが飛竜の王を一撃で屠った技だっ!
フォノン・メーザーの光り輝く刃が振り下ろされ、巨大なロブスターを一刀両断する。
次の瞬間、ロブスターは爆発を起こして粉々に吹き飛んだ。
オーストラリアのキングストン・サウスイーストにはビッグロブスターと呼ばれる全長17mのロブスターの像があります。
一時期そう言うモニュメントを建てるのが流行ったそうな。