全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第十話 カエラ死す

「きゃああああああああああああ!」

「人殺しだ!」

「『飛竜殺し』が殺されたぞ!」

 

 悲鳴が上がる。

 心臓を魔法らしき光で貫かれた青年は倒れてピクリとも動かない。

 メイドが周囲の敵を警戒して身構えるが、混乱のうちにロビンとイヴァンの姿は消えていた。

 

 十分後。二人の姿は質素な馬車の中にあった。

 こわもての御者が操る馬車は、城門を出て街道を南に進んでいく。

 まだカタカタと小刻みに震えるロビンの手には、カエラを背中から撃った古代のアーティファクト。魔力を蓄えてビームとして発射する武器、通称雷光銃。

 単発の、服の袖にも隠せるデリンジャータイプ。

 

「こ、これでもう工房のみんなには危害は及ばないんですよね・・・!?」

「もちろんです。よくやってくれました。これで貴方の家族は安泰ですよ」

 

 笑みを浮かべるのはイヴァン。

 先ほど二人で席を立ったときにロビンが見せられたのは、親方の娘が大事にしていたハンカチであった。

 意味が理解出来ずに戸惑うロビンに、彼は言った。

 「私はリップヴァーンの側の人間です」と。

 本来カエラ達につくはずだった内務省の人間を始末し入れ替わり、工房の護衛の中に自分たちの仲間がいる事を示唆。

 家族を人質に取られた時点で、ロビンに選択の余地はなかった。

 デリンジャー雷光銃を手渡され、後ろにかばわれたタイミングで背中に銃口を当てて撃った。

 さすがの『飛竜殺し』も心臓を貫かれては生きていないだろう。

 後はリップヴァーンと合流してこの女から情報を抜き出せば終わりだ、とイヴァンはほくそ笑む。

 口惜しいが内務省の魔神教団勢力はもう終わりだ。

 一時国外に撤収して再起を図るしかない。

 河口の港町で船に乗ってしまえばもう追跡は出来ない。

 いささか浪費はさせられたが目的のものは手に入れたし、何より憎きニシカワの子孫の命を奪う事ができた。きっと魔神もお喜びになるに違いない。

 ゴットリープは死に、ディテクにおける計画も大幅後退を余儀なくされたが、あの小僧の命を奪えたならそれもきっと高くはない代償。

 満面の笑みを浮かべるイヴァンを、ロビンが無言で見つめていた。

 

 

 

 ビップル。

 ディテク王国の都メットーを南北に貫いて流れるハイオ川の下流に位置し、メットーの玄関口とも称されるディテク最大の港町。

 速度の速い川船をあえて避け、半日かけて街道を南に向かう。

 馬車が郊外のとある屋敷の前で止まったのは、もうすぐ夕方という時刻。

 雷光銃を取り上げられ、降りるように促される。

 それに従って屋敷の中に入ると、リップヴァーン達がいた。

 

「リップヴァーン、ロビン・・・いえ、カウプラン嬢をお連れしましたよ」

「ご苦労。それでは船に乗るぞ。オルスターにむけてすぐに出港出来るよう手はずは整えてある」

「オルスター、ですか・・・遠いのですか?」

 

 ロビンの言葉に頷くリップヴァーン。

 

「船で二週間ほどだな。申し訳ないがしばらくディテクを離れて貰う事になる。

 その間の家族の無事は保証しよう。

 お嬢さんもここに来たと言う事は、我々に全面協力してくれるつもりと考えていいんだね?」

 

 ロビンが頷くと、リップヴァーンがにっこりと微笑んだ。

 いかにも官僚的な、堂に入った愛想笑い。

 

「よろしい。我々『獣の星(マークー)』は君を歓迎しよう。

 しかし驚いたね。まさか内務省の放ったスパイが我々の手の者であったとは!

 これも魔神様のお導きと言うことか!」

「え?」

 

 ロビンが目をぱちくりさせる。

 どういう事かと問おうとしたとき、遠くで音が響いた。

 

「なんだ?」

「様子を見に行かせろ。他の者は荷物を運び出せ」

「はっ」

 

 リップヴァーンの命令で男達が動き出す。

 十分ほど後、外から馬蹄の音が聞こえてきて、中に男が駆け込んできた。

 

「リップヴァーン様! 内務省です! 内務省の奴らに船を拿捕されました!」

「なんだと!? ・・・まさか」

 

 顔をこわばらせるリップヴァーン。

 その視線の先で、ロビンが笑みを浮かべた。

 

 

 

「・・・このアマっ!」

 

 先ほどまでの上品な物腰を消失させ、イヴァンがロビンにつかみかかる。

 その手がロビンに触れるか触れないかのところで、打撃音と共にイヴァンの身体が大きくのけぞった。

 

「!?」

 

 悲鳴を上げる間もなく、イヴァンが仰向けに倒れる。

 次の瞬間、鞘に入ったままの剣を突き出した男がその場に現れた。

 

「な・・・お、お前は・・・」

 

 パクパクと口を開閉するリップヴァーン。

 

「カエラ・ニシカワ!?」

「ご名答」

 

 ニヤリと笑い、俺は西川正宗を腰に戻した。

 

 種明かしをしよう。

 狼ロボを倒した直後から、俺の周囲にはシル達が全員待機していたのだ。文字通り「姿を消し」て。

 普通ならこれだけの人数、タチバナでも三十分とは保たないが、幸い今はジューニャという魔力タンクがいる。

 ジューニャとエフティの嗅覚による嘘発見センサー、別名「これは嘘をついている匂いだぜ」センサーを活用するためについてきて貰ったつもりが、まさかイヴァンの裏切りを見破る事になるとは怪我の功名である。

 それでロビンとシルの心話であれこれ相談して段取りを決め、タチバナの光の術とジューニャの幻術で、俺の胸がブチ抜かれたような演出をして死んだフリをした訳だ。

 

「な、な!?」

 

 身構えようとしたリップヴァーンの部下たちがうろたえる。

 周囲には既にフジ、シル、ジューニャ、エフティ、タチバナ、ヒョウの姿。

 当然だよなぁ?

 なおレイは内務省の部隊に同行させて、港で船を抑えてもらっている。

 さっきの短い会話から船を割り出したタルカスさんパネェ。

 まあそう言う訳だ、大人しくお縄につけ。つかないならそっちのほうが嬉しいけどな!

 そう言うと魔神教団の内通者達が一斉に顔を引きつらせて「ひっ」と悲鳴を上げる。

 

「くそっ、いずれディテクを焼く時のためにと思っていたが!」

 

 !

 全員館の外に出ろ!

 短く悲鳴を上げるロビンを脇に抱え、窓を破って外に出る。

 

「ふははははは! これぞ我らの切り札! 四面の鬼神(ラモア)よ!」

 

 崩壊する館の中から現れたのは・・・赤いボディと甲殻、巨大なハサミを持つ・・・20mほどのロブスター?

 ただしその頭部にはエビではなく、人間の頭が四つついている。

 

「うわあ、趣味ワリぃなおい」

 

 自分も動物の力を使えるエフティがげんなりした顔になる。

 

「今度こそ確実に殺してやる、ニシカワの小せがれ!

 狼の機人にすら苦戦した貴様が、この四面の鬼神(ラモア)に勝てる訳もあるまい!」

 

 ロブスターの背中に乗っているのはリップヴァーン。

 まあ確かにあいつには苦戦した。サムライもカタナ持ってなきゃただの戦士だからな。

 だが今は違う。サムライの奥義って奴を見せてやろうじゃないか。

 抱えたロビンをエフティに任せ、両手で西川正宗を握る。

 大上段に掲げた剣が震え、高周波音と光を発する。

 

「な・・・?」

 

 四面の鬼神(ラモア)の両手のハサミに魔力が収束するが、遅い。

 とくと味わえ、これが飛竜の王を一撃で屠った技だっ!

 フォノン・メーザーの光り輝く刃が振り下ろされ、巨大なロブスターを一刀両断する。

 次の瞬間、ロブスターは爆発を起こして粉々に吹き飛んだ。




オーストラリアのキングストン・サウスイーストにはビッグロブスターと呼ばれる全長17mのロブスターの像があります。
一時期そう言うモニュメントを建てるのが流行ったそうな。
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