全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
真夜中。
久しぶりに訪れた実家はひっそりと静まりかえっていた。
フジと一緒に塀を跳び越えて庭へ。
冒険者で言えば既に
庭木と植え込みの影を走って母屋へ。少し寂しさを覚える。
庭もそうだが、和風建築っぽいこの館は結構お気に入りだったのだ。中が地獄だとしても。
二階の窓に取り付いて、そっと持ち上げる。
鍵が内側から外されており、窓は音を立てず開いた。
中に滑り込むと、廊下の奥に執事姿の中年男。
こちらに一礼すると素早く闇に姿を消す。
「ケンさん、お元気そうでしたね」
フジと同じ影の一族の執事だ。
連中を掌握するのはさすがの継母にも無理だったらしく、彼らは基本俺に同情的である。
最優先はお家と当主の祖父なので頼り切るわけにも行かないが、今回は協力してくれた。
素早く廊下を走り、目当ての扉にたどり着く。
やはり鍵はかかっておらず、扉は静かに開いた。
扉の中は寝室。
寝ている人物を起こし、声を上げないように口を塞ぐ。
「・・・!?」
大きな声を立てるな、いいな?
頷くのを確認して口を塞いだ手を離す。
「兄様!」
月明かりでもはっきり分かる笑み。俺の二つ年下の弟ヘルムだった。
「どうしたんです? 会えたのは嬉しいですけど、戻ってくるってことではないんですよね」
残念ながらな。
「お前にとっては」と言う部分は口を濁す。
ともかくシルのことだ。行方不明になっているらしいんだが、何か知らないか?
「!?」
思わず大声を上げそうになって、かろうじて耐えるヘルム。
「ど、どういう事ですか兄様」
驚いた顔のヘルムが視線を動かすと、フジが頷いた。
そう言うわけで何か心当たりか、そうでなくてもあいつの様子が分かるような話があったら教えて欲しいんだが。
「そうですね・・・まずシルさんと兄様の婚約が破棄されて、改めて僕と婚約したのは?」
知ってる。
「ですか」
溜息。
「それなんですけど、どうも継承の儀の前に、母とマリネスキーの家で話がついてたらしいんです」
ああ、それで継承の儀にシルが来てなかったのか。
うちの継承の儀の重要性は知っているはずなのにな。
どこの家でも当主継承の儀式は重要なものだと思うが、うちの場合はひと味違う。
前に言った通り、ニシカワ家はオリジナル冒険者族「白のサムライ」が立てた家だ。
盟友「紅の影」と共に冒険者として幾多の武勲を上げ、ディテク王国を滅ぼしかけた古代の魔神を倒した英雄。
それはもう三百年経った今でも、酒場で歌われる冒険譚と言えばまずご先祖様のものってくらいに活躍した。
その活躍と武勲を支え、二つ名の元にもなったのが古代魔法文明の魔導鎧、日本で言うところのパワードスーツ「白の甲冑」だ。
西川正宗以上の家宝で、これを身につけることが即ち当主の資格とされている。
それを装着して巨大な青銅の壺を持ち上げるのが継承の儀のメインで、当主として最も重要な儀式とされているくらいのものだ。
つまり、そんな重要な儀式に許嫁が出ないなんていうのは有り得ない。
シルのオヤジさんは早々に俺を見限っていたってことだな、これは。
あのクソアマによほど良い条件を提示されたか、それとも貸しを作って優位に立とうという魂胆かは知らんが。
悪い、話の腰を折ったな。それで?
「はい。兄様が勘当された後に一度だけ会ったんですが、兄様以外の方と結婚したくないと泣いてました。
でもこのままだと無理にでも婚姻を結ばされるから、逃げ出すつもりだと。
その後マリネスキー家から連絡が来て、僕の婚約相手をシルさんではなくその妹のマデルさんとする、お爺様と母様も承諾したと」
と言うことは・・・逃げだそうとして捕まったか。
「恐らくは」
ロウが残ってれば助けになったろうがなあ・・・。
「え、ロウさん商会やめちゃったんですか!?」
かくかくしかじかでな。
「いくら兄様が優秀だからって、普通商会やめてまでついていきませんよね・・・将来の幹部候補筆頭だったって話なのに」
あいつは頭がおかしいんだ。考えるだけ無駄だぞ。
「そうします」
ためいき。
「ともかく、このままだと修道院に閉じ込められるみたいな事は言っていました。
メットーの郊外に貴族や商家からお金を貰って、表に出せない女の子を幽閉する修道院があるんだとか」
そうか・・・
「それでどうするんですか、兄様」
もちろん助け出す。そこまで言われて放っておけるか。
大体ロウがいなくなったのは俺の村への援助のためだからな。恩義を受けて返さないのはサムライの信義にもとる。
そう言うとヘルムが苦笑した。
「そんな理由がなくても助けに行くつもりだったくせに。嫉妬しちゃいますね」
「この方は意外と女泣かせなのです。ヘルム様におかれましては真似をされませんよう」
うるせーな、黙ってろお前ら。
また苦笑した後ヘルムが表情を変える。
「もう行ってしまうんですか、兄様?」
すまんな、時間がない。
影達がフォローしてくれてるとはいえ、さすがにお茶の一杯ってわけにも行かん。
「また会えますよね?」
もちろんだ。
そう言うとヘルムが立ち上がって俺の両頬にキスをする。
貴族の世界だと割とある挨拶なのだが、何度やられても慣れんなあ。
「兄様は恥ずかしがりですね」
くすくす笑う弟の頭をわしゃわしゃと撫でてやる。
これが俺の親愛を込めた挨拶だ。
「お気をつけて」
お前もこれから大変だぞ。頑張れよ。
「はい・・・」
寂しそうな弟の顔に気付かないふりをして、俺達は来た時同様、静かにそこを去った。
>冒険者等級
前にも書きましたが強い順に
真龍(ドラゴン)級 ―― 等級外。ゴジラを生身で倒せる伝説の勇者、ほとんどは転生者や神の使徒
巨人(トロール)級 ―― 第一級。巨人や亜竜と戦える超人、一般に人間の上限と見なされているクラス
秘印(ルーン)級 ―― 第二級。「普通の」達人
剣士(ソードマン)級 ―― 第三級。腕利き、ベテラン
旅人(トラベラー)級 ―― 最下級。一般の兵士や戦士
となっております。
>巨大な青銅の壺を持ち上げる
つまり「鼎の軽重を問う」という・・・多分どこかで間違って伝わったw