全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
「どりゃあっ!」
気合い一閃、ダスキーニ渾身の「飛ぶ斬撃」が空気を裂いて黒い壁に迫る。
大地をうがち、生半可な城壁ならぶち破って穴を開けるだろう「気」の豪剣は、しかし渦巻く黒壁の表面に波紋を残し、僅かな稲妻を走らせたのみで跡形もなく消えた。
後ろで見ていたギャラリーにざわめきが起きる。
「おい、今のは記録したか!?」
「機器にはほとんど反応ありません」
「吸収されたように見えたが・・・」
「いや、単に通過したのではないか? 魔力の海に魔力の水を注ぐようなものだ」
熱心に議論をする学者・術師たち。
ダスキーニが唇をへの字にしてそれを眺めている。
「よう、話しあうのはいいけどな、俺はこのまま待機してなきゃならんのか?」
「データをとりたい。もう一度全力で放って貰えるか」
「わかった」
言われた通りにもう一度「飛ぶ斬撃」を放つ。
やはり結果は同じ、渦巻く黒壁に波紋を起こしただけで斬撃はその中に吸い込まれた。
「しかし・・・ちょっと意外ですね。てっきりわがまま放題にまわりを困らせて、機嫌を損ねたら手当たり次第人を斬る危険人物かと思いましたが」
俺も。面倒な細かい指示にも一々ちゃんと従ってて、本当に同一人物なのか疑いたくなる。隙を見てこちらに斬りかかってくるくらいはするかと思ったがそんな気配もないし。
「聞こえてんぞおい」
じろりとこちらを睨んでくるダスキーニ。まあコソコソ話してはいないし、
「請け負ったならマジメにやるだろう普通。仕事が台無しになるようなことはしねえよ。
まあ仕事のついでに美味しい思いをする事はあるだろうけどな」
つまりこの依頼の間は俺に斬りかかったりはしないって事か。
い、意外とまじめな奴・・・!
でも終わったら斬りかかってくるんだよな?
「気が向けばな」
ニヤリと笑うダスキーニ。フジが溜息をつく。
「危険人物というレッテルは剥がさないでも良さそうですね」
同感だ。
「カエラ卿! 次はカエラ卿の『飛ぶ斬撃』をお願い出来ますか!」
おっと、出番だ。行ってくる。
「行ってらっしゃいませ」
その後俺がフォノン・メーザー斬りを見せて、ダスキーニ以上にギャラリーがどよめいた。
まあ自分の魔力=気を飛ばす「飛ぶ斬撃」とは全く別物だからな。
飛ぶ斬撃を使える剣士たちも興味深げに見ていたが・・・やはり結果は同じ。
黒壁の表面に波紋を残すだけで終わった。
「うーむ、変化は無しか・・・ところでカエラ卿、その技について調べさせて頂きたいのですが・・・」
ええい、寄るな触るな、ワラワラと取り囲むな、手をわきわきさせるな!
今はこの「
そう言うと残念そうな顔で学者たちが散っていく。しっしっ。
しかしフォノン・メーザー斬りでこれだと、もう一つを出した時の反応が怖いなあ。
とは言えマット村が消えるかどうかの瀬戸際だ。出し惜しみする訳にもいかん。
「しょうがないですなあ」
「大変興味深い現象だったのですが」
「恐らくは音系の術式に近い・・・」
って、おい、魔法省次官と大魔術師! しれっと議論に加わってんじゃないよ!
あの光る刃を一目見て音波系の効果だと見抜くのはさすがの慧眼ではあるが!
「ああすまない、研究者の血が騒いでね」
「黙れ小僧! 目の前にある未知を解明せずして何が術師、何が学究か!」
一見堅物のエリート官僚だと思ってたが、あんたも
そして汚いな大魔術師! つばを飛ばすな!
ますます反応が怖くなったが、これも村のためだしょうがない。
ちょっとこれを見て貰えるか、と脇差しの「クサナギ」を抜いて見せる。
「うん? かなり古い剣・・・古代、いや下手すると神代の・・・?」
「 」
次官の方は興味深げに刀身を眺めているが、爺さんの方は一目見るなり固まった。呼吸も止まってる。うんまあ気持ちは分かる。専門家でない俺ですら結構ビビったからな。
「・・・ケイロン師? 一体これは何なのです?」
「オッ、オッ、オッ」
次官が眉を寄せて爺さんの顔を覗き込むが、爺さんの口から漏れるのは変な声だけ。
アシカの鳴き声かな(すっとぼけ)。
「
一瞬の空白。
「「「「「なにぃぃぃぃ!?」」」」」
その場のほとんど全員が絶叫した。
耳が痛い。
周囲の連中がわらわらと、どころか腐肉にたかるハイエナのように全力ダッシュで寄ってきて、俺はあっという間に取り囲まれてしまった。
小柄なフジや幼女体型のシルなどは、もうどこにいるか分からない。
学者や術師だけではなく、冒険者の面々やダスキーニまで興味深げに覗き込んでいる。
最前列では他の面々を押しのけ、ロビンがかぶりつきで観察。目がちょっと怖い。
「こっ! これはどこで手に入れたんじゃ!?」
「そうですよ! こんな神代の金属・・・ああ、親方にも見せて上げたかった・・・!」
だからつばを飛ばすなジジイ。そしておまえもかロビン・・・。
嫌そうな顔で見ると、顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
「ご、ごめんなさい領主様。でも魔剣鍛冶としてはもうどうしても・・・」
まあお前は職業柄しょうがないか。ともかくかくかくしかじかで、百年前のマイステミス迷宮暴走事件の犯人であるケイン・リッターの子孫を名乗る男が持っていたんだ。
「なんと・・・!」
「そう言えばあれを解決したのも当時の『白のサムライ』だったな・・・」
「因縁だねえ」
「しかし
ああ。魔力現象を消滅させる事ができる。
俺ひとりの魔力では、渦の規模が大きすぎて気休め程度にしかならなかったが。
「うむむ」
「いかがしますか、ケイロン師。予定ではこの後『飛ぶ斬撃』をありったけ打ち込んで観察、しかるのち術式による干渉となっていますが」
「むむ・・・一応予定通りにこなすとしよう。とにもかくにも最低限データは取っておきたい。
カエラ卿、今日はそれで調査を終了し、明日
その辺は専門家にお任せしますよ。
正直今すぐオリハルコンの剣を使った解呪を試したいが、うまく行かなかったときの事を考えるとデータをとっておくべきだろう。
いや、これも考え過ぎって奴なのかな。何も考えずに突っ込んだ方がうまく行く事もあるが・・・
ぽん、と背中を叩かれた。
首を動かすと、脇にフジの姿。
にっこりと笑ってもう一度背中を叩いてくれる。
それだけで俺の中の不安は綺麗に解けた。
そうだな、今は焦っても仕方ない。任せるべき部分は任せないとな。
マット村のみんな、無事でいてくれよ。