全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
「かあっ!」
「破ッ!」
「斬!」
俺とダスキーニを入れて総勢七名。
最低でも秘印級の剣士たちの「飛ぶ斬撃」が黒壁の一点に炸裂する。
それでもやはり黒壁は僅かに表面を揺らすのみ。
「お疲れさまです、計測を終了いたします」
担当の術師の人の声と共に、俺達は一斉に息をついた。
三十分近く連続で「飛ぶ斬撃」を打ち込んでいたのだから無理もない。
消費した魔力こそジューニャが補填してくれていたが、それでもそう連発していいもんじゃない。全員が体の節々に痛みを覚えていた。
「はい、疲労を回復しますのでじっとして下さいねぇ」
「ああっジューニャさまっ!」
「あなたは私の女神です・・・」
なお疲労を回復してくれるジューニャに対してはさっきからずっとこんな感じ。
まあエルフの超美人でプロポーション抜群、性格最高となれば、そりゃ男は大概落ちる。
何度も繰り返すが酒癖以外は本当に完璧なエルフの女神なのだこいつは。
「いやあ、ジューニャ師は素晴らしいですな」
「さすがにエルフの
「エルフの術師と付き合いがありましたが、彼に比べても桁外れの魔力。貴方がこの現場にいて下さるのがどれほど心強いか・・・!」
そして人間どころかエルフの基準でも破格の魔力量を誇るだけあって、調査隊の術師たちからは下にも置かぬ敬われっぷりである。
時々チラチラこっちを見て「どうです、私凄いんですよ!」アピールしてくる。
はいはい、すごいすごい。
まあジューニャも初歩呪文しか習得してない『大魔術師』としてエルフの里では馬鹿にされ、酒蔵に忍び込んで村人の前で尻を百叩きされ、酒乱を見せつけて白い目で見られた上に盗み飲みでニシカワ家を首になり、それでも酒を手放せず、かと言って労働もせずに魔法で作った水とアスファルト味の人造パンで生き永らえ、俺の村にたかりに来て強制就職させられ、酒蔵で盗み飲みして宙づりになり、村を救うためにひんむかれ、酒で買収されて鳥のふん製造器呼ばわりされたかわいそうな身の上なのだ。
褒められて少しくらい調子に乗ったとして誰が責められよう。
いや、割と自業自得だなこれ?
それから夕方までは魔法使いたちの世界だった。
呪文を唱えて色々やってみたり、儀式っぽい事をしたり、古代王国時代のアーティファクトを使って干渉してみたり。
こればかりは門外漢の俺にはさっぱり理解出来ない。
なお術師たちから女神の如く崇められているジューニャはフジの出した畳二十枚ほどを連結して、他の術師十数人と観測機器を乗せ、上空3000mに浮かべて観測作業をしていた。
これを三時間ほど続けて疲れた様子も見せないのだから、まあ人間じゃねえわこいつ。
いや元からエルフだけどね? この世界の妖精族って人間を元に神様が作った種族だから、広義では人間なんだよ。
ちなみにジューニャの空中観測にはロビンも同行していた。あれこれ魔道具の調整とかできるし腕力もあるので、重宝がられているそうな。
2mくらいのでかい機器を軽々持ち上げてたのには思わず吹いた。すげえな鍛冶屋。
エフティとはかなり最初から親しげに話す仲だが、フジやシル達とも楽しそうにおしゃべりしてるんで、まあ何よりである。
夜。
百人余りの食事を、ダンジョンに来ていた冒険者から調理補助のアルバイトを募ってまで何とか用意。宿舎の方もあらかじめ多目に作っておいたせいで余裕を持って割り当てる事が出来た。
なおフジとタチバナは当然手伝いに回っていたが、意外な事にエフティとロビンも結構料理が出来る方だった。エフティはハーラおばちゃんに、ロビンは親方の奥さんに最低限のところは仕込まれたらしい。
うちの女らしさヒエラルキーで、シルとジューニャが下位に転落した瞬間である。
「あー、取りあえずみなさんの世話が何とかなって良かったわ・・・クレアたちには頭が上がらんな」
代官館の談話室でジローが溜息をつく。
「ご面倒をおかけする」
頭を下げたのは魔法次官のザイオン氏。魔法省筆頭魔術師のケイロン爺さんも一緒だ。
代官館も余り大きくはないので、泊められるVIPは俺達とこの二人が限界なのである。
「いや、カーヴェを助けに来てくれたんだから文句言う筋合いじゃないですよ。
俺に出来る事なら何でも言って下さい」
「ははは、その時は頼むとするかのう」
機嫌良さそうに笑うケイロン爺さん。
いかにも偏屈な学者バカの頑固ジジイだが、にもかかわらず初見のジローに愛想が良い。
こいつはどこからどう見ても馬鹿だが、それ故に相手に警戒されない。
大抵の奴の懐にするっと入り込んで仲良くなってしまうのは俺にはない長所だ。
それでいて父親が内務大臣だったりするから、大抵の人間は余計友好的に接してくる。
名家ではあっても軍人貴族で権力に乏しい家の出身者としてはうらやましい限りだ。
まあ馬鹿には変わりないから
「けど実際見通しはどうなんです? 一日調査して何か分かったんですか?」
「流動的な魔力が巨大な流れで動いているらしいのは分かるが、まだ何ともだね」
「ある種の気体生命に近いのう。実体のないコアを中心にして魔力が流動的に動いているから一緒に空気も動いて、ガスが生きているように見えるんじゃがの」
「あー、英雄譚で出てくる霧の怪物みたいな?」
「それじゃな」
明日はこの「クサナギ」を使った実験をしますが、仮に同じものだとすると、コアに直接突き立てなければいけませんよね。
「そうなるだろうね」
やはりコアは渦の中心にあるんでしょうか。
「可能性は高いのう。取りあえずその剣のポテンシャルがどれほどあるか確かめてみねばなるまいが、最悪渦の中心まで飛んでいって上空から降下する必要があるじゃろうな」
ジューニャの念動だと秒速1m、100km近くを移動するには流石に辛すぎる。
飛行術が使える術師か、さもなくば転移術師の助けを借りる必要があるだろうな。
「でも最悪それでどうにかなるならいいじゃん。少しは光が見えてきただろ。
雲が晴れたらマット村からジューニャ先生印のブランデー持ってきてくれる約束だしな!」
「ジューニャ師印のブランデーとな?」
「ああ、最近メットーで噂になっている、マット村名産のブランデーですよケイロン師。
安い割に品質が良くて、ジューニャ師が手ずから作っているとか」
あ、いや、その・・・。
「カーヴェが一本持ってきてくれる事になっているんで、うまくいったらお帰りになる前にみんなで一杯やりましょう!」
「いいね。私も興味があったんだ」
「ジューニャ師の作ったブランデーならワシもご相伴に預かるかのう!」
盛上がる三人。
おいちょっと待て。待て(汗)。
「そう言う事だカーヴェ、さっさと片付けてアウジュニャ・ブランデーで乾杯しようぜ!」
無邪気な笑みを浮かべてはしゃぐ
顔面にガイア・インパクトを叩き込む衝動に、俺はかろうじて耐えた。