全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
実験終了後、俺はエフティとロビンの肩を借りて即代官館に担ぎ込まれた。
体中がガッタガタで歩くのも辛い。術師にしろ《加護》にしろ魔力を使う人間は俗に魔力経絡という体内のルート、つまり神経や血管などを通じて魔力を行使伝達する。
つまり、俺みたいに魔力を使いすぎると神経や血管や筋繊維があちこちで断裂したりして酷い事になるのである。最悪腱が切れたり骨が吹っ飛んだりもする。
並の回復魔法では筋肉と血管しか治らないのだが、幸い調査隊には不慮の事態に備えて
とは言え酷くダメージを負ったのは確かなので、今日一日は絶対安静である。
調査隊は引き続きデータの解析と、「黒の災禍」の魔法的調査。
三時くらいになって、俺の寝室にケイロン爺さんがやってきた。
調査の方はどうなんです?
「まあ、予定してた調査をそのままやっておるよ。
何をどうするにせよ、データの収集は無駄にはならん」
せやな。
俺としてはあの黒雲が消えてくれればそれでいいが、調査が黒雲撤去に役だつかも知れないし、同じ事が起こった場合を考えるとやらない訳にはいかんだろう。
そう言えば探知系の術者もいると思うんだけど、魔法の眼を飛ばして黒雲の壁を突破出来ないのか?
あの時見た黒雲の厚さは100mくらいだから、できない事はなさそうだが。
「お主は本当に良く勉強しておるのう。
わしらも試してみたが、残念ながらあの濃密な魔力の渦に巻き込まれて術式ごと分解されてしまったわ。千里眼や透視の術も、あれほど濃密な魔力の壁を突破する事はできん」
やっぱりそうなるか。
術式含めて魔力で作ったものはより強い魔力にさらされるとそれだけで崩れてしまう。
強い魔力はより弱い魔力の干渉を打ち消すからだ。
魔力の高い人間が魔術に強い抵抗力を持つのもそう言う事だし、無生物に比べて生物に術が効きにくいのも、生命が基本的に魔力を内包しているからである。
もっというとあらゆる物質も僅かに魔力を含んでいるから、これが更に強い魔力になると触れた物質を分解し始める。今目の前にある黒い渦のように。
しかしケイロン老、古代文明では魔法の眼をより強力にした、魔道具型の偵察道具とか偵察ゴーレムとかあったと思うんですが、持ってきてないんですか?
「もちろん持ってきておるとも。先ほど飛ばしたが、残念ながら途中で操縦機器との接続が切れた。魔力を介した遠隔操作では、あの渦の中で接続を維持できんようだ」
電磁パルスの嵐の中で無線操作できるわけねえだろ! ってことか。
言われてみれば確かにそうだなあ。有線ラジコン爆弾とか、どっかの国が作ってたけど。
「念のためとロープを結んで飛ばしたが、ロープ自体がボロボロになって回収できんかった。何かデータが得られていればよかったんじゃがのう」
うわあ、貴重な古代文明のロストテクノロジーが・・・
まああの濃密な魔力の中じゃな。入るな危険ってのが改めてわかった感じだ。
「まあそれでも、渦の中がほぼ無傷で残っておるというのは朗報じゃった。
中の人間たちが生存しておる可能性はぐんと増えたの」
ですね。こうして絶対安静になった甲斐もあったというものだ。
「うむ、その辺の使い手なら体が爆発四散しておる所をよく耐えた! 感動した!
やはり限界ギリギリまで出力を上げて正解じゃったの!
自分で自分を褒めてやりたいわい!
次はそうじゃの、今回の二倍くらいの出力で行ってみるか?」
思わずこのジジイを殴った俺は悪くないと思う。
翌日事態が動いた。
上空からの観察作業に協力していたジューニャだが、任されているのが空中での姿勢維持だけで退屈だったらしく、渦の中心をぼうっと見ていたのだそうだ。
まあ普通観測飛行機のパイロットに観測作業まで任せないのだろうが、幸か不幸か色々常識を外れてるこいつは数トンのものを持ち上げて維持するくらいは寝ながらでも出来る。
村の酒蔵で盗み飲みをしたときは番人を宙づりしながら高いびきをかいていたくらいだ。
ぼうっと見ていたジューニャは、渦の中心から細い魔力の「線」が西のほうに延びているのに気付いたそうだ。
黒い渦とは明らかに違う、白い輝く魔力の線。
最初は見間違いかとも思ったのだが、何度も見続けて、間違いなく魔力の線、恐らくは術式による霊的なリンクであると確信した。
ただ、畳に同乗していた他の術師たちは、その白い線を一人も視認出来なかったらしい。
魔力観測機器にも一切反応がないため、ジューニャがエルフの大魔術師だと言う事を差し引いても半信半疑と言った案配なのだそうだ。
話を聞いたザイオン次官とケイロン老も畳に乗って上空から観察してみたが見つからなかったとか。
「こうまで否定されるとちょっとへこみます・・・」
でもお前はそれを見たんだな?
「はい。最高級のメットー・ウィスキーにかけて確かです!」
もうちょっとマシなもんにかけて誓えよ。
エルフの森の大樹とか自分の杖とか。
まあそれはともかく自信があるのは分かった。
ここで俺が出来る事は大体終わったと思うし、ちょっと直談判に行ってこよう。
「ニコロデ王国に行く?」
「例の白い魔力リンクの事か」
器用に片眉を上げるザイオン次官。ケイロン老は白髭をいじりながら考え込むような目つき。
こっちでクサナギを使った実験を繰り返すのもいいが、このままじゃいつ突破口が見つかるかわからない。
見間違いでも何でもリンクを辿ってみるべきじゃないかと思うんですが。
「ふーむ・・・一理はあるが」
「筋は通っておるの。中の人間たちが恐らく無事とは言え、長期間この状態が続いたのではやはり何が起きるかわからん。手は打てるだけ打っておくべきじゃ」
「むう」
またしても綺麗に片眉だけ上げるザイオン次官。
変な特技持ってるな。
「若い頃に練習してね」
わざわざ練習したのか・・・
「そう言うのがかっこいいと思う時代は誰にでもあるだろう?」
まあ分からなくはないが。
「ともかく君の言う通りだ。調査隊の責任者として君の別行動を許可する。
幸運を祈るよ」
ありがとうございます。
何としてでも手掛かりをもぎ取ってきましょう。
>有線ラジコン爆弾
二次大戦の時にドイツが使った「ゴリアテ」。
外見は1.5mくらいのラジコン戦車で、敵の塹壕等に送り込んで自爆させる。
いわゆる珍兵器の類だが、役に立ったこともあるらしい。