全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第二十一話 はたらく魔力炉

「この扱いに抗議します!」

「まーしょうがないんだよ。カエラちゃんは『おにちく』だから。

 むしろジューニャ先生は働く場所を貰えて感謝するべきなんだよ」

 

 わめくのはジューニャ。

 皮肉げに肩をすくめるのはシルである。

 現在真なる魔法文明のアーティファクト、涙滴型機動艇はちょっとその姿を変えていた。

 具体的には巨大なマヨネーズ容器の下にこれまた巨大なそろばんを固定。

 珠が大きめで丸く、不整地でもうまくそろばんスケートが出来るようになっている。

 荷車の車輪でも良かったが、下手な車輪よりシルのそろばんの方がよほど強度が高いし作業の手間も省けるしでいいことずくめである。

 一方でジューニャの職場は古代アダマンタイト合金のカプセルの中。

 窓から顔をのぞかせて、バンバン壁を叩いてる。

 要するに魔力炉の中に放り込んで、魔力源にしようという腹だ。

 

「カエラ君は人を何だと思ってるんですかぁ!?」

 

 魔力だけは凄い自称大魔術師。

 

「自称じゃありませぇん! ちゃんと称号を授かってますぅ!

 特例で落とそうかとか、そう言うことはさんざん言われましたけど!」

 

 ほっぺたを膨らませて「私怒ってます!」と全身でアピールするジューニャ。

 こいつ人間換算でも俺より年上だと思うんだがなあ。

 この「大魔術師(ウィザード)」という称号、人間の場合はただの通称や敬意の表れだが、エルフの場合は古代文明時代から受け継がれてきた明確な基準がある。

 なので、魔力量とか術力とかは文句なく条件を満たしたジューニャが大魔術師を名乗ることが許されてしまっているのである。

 まあ大魔術師並みのスペックを持ちながらロクな呪文を使えないなんて偏りまくった存在、古代王国期の本物の大魔術師ですら想定はしてなかったんだろうなあ・・・。

 それはともかくジューニャ。

 

「なんです!」

 

 マジメに魔力炉をやるなら、その間は毎日一本ワインを飲ませてやる。

 ぴくっ、と動くジューニャの耳。

 

「ふ、ふん! そうですか! そこまでいうならしょうがありませんね!

 まあカエラ君のお願いですし? 聞いて上げなくもありませんね!」

 

 意味不明のマウントを取りに来るジューニャだが、まあそれで気持ちよく働いてくれるならそれでいい。

 そう言う訳だ、ミナ。

 悪いが貴女のところの酒蔵を当てにしてもいいか?

 

「それで事態が打開されるなら安いものですわ」

 

 今のやりとりで大体のところを察したのだろう、辺境伯令嬢は苦笑して扇を閉じた。

 すまんね。ところでミナ、あの船なんて名前だ?

 そう聞くと彼女の目が露骨に泳いだ。

 

「ええと、その・・・」

 

 ちょっと頬が赤い。

 あー、聞かないほうがいいようなことなら聞き流してくれて構わないが。

 

「い、いえ、そこまでのことでは・・・その。・・・・・です」

 

 ええと、聞こえなかった。

 

「・・・『我が輝きミナ』。『我が輝きミナ(ミナ・マイ・レイディアンス)』号ですわ!」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

 

 顔を真っ赤にして叫ぶミナ。周囲に沈黙が落ちる。

 あーその。お父上の命名で?

 

「そうですわ! もう本当にあのクソ親父は・・・!」

 

 複雑な表情の彼女に、俺達は野暮は言わずに生暖かい視線を送るのだった。

 

 

 

 そろばん玉がガラガラと音を立てる。

 巨大なマヨネーズ容器・・・もとい涙滴型機動艇が道を移動していた。時々馬車が前からやってくるのだが、全長10m、幅だけでも6mはあるデカブツだけに、そんな時はジューニャの《念動》で機体を持ち上げて貰わないとすれ違えない。

 橋もちょっと無理臭いので、同様に《念動》。

 そうして時速50kmほど(普通の乗用馬が全力疾走するくらい。この世界ではこれでも結構大したスピードだ)で目的地に向かう。

 タチバナ、この速度だとどれくらいだ?

 

「恐らくは夕方ですね。山の麓で一泊して山中に突入することになるかと思います」

 

 ありがとう。

 俺も地図は読めるが、忍者であるタチバナはサバイバル系の技能にも優れている。

 こいつが言うなら多分間違いないだろう。

 ジューニャ、これ空に浮かせるとしたらどれくらいもつ?

 

「そうですねえ、浮かせるだけなら多分丸一日でも。

 ただ、それをやるとかなり魔力消費がきついですね」

 

 お前でもか。わかった。飛行は最後の手段にしておこう。

 この涙滴機動艇、本来慣性制御みたいなもので飛行するみたいなのだが、空を飛ぶには今ちょっと出力が足りない。のでこうしてそろばん荷車で地上を移動してる。

 ジューニャの呪文で浮かせることが出来ればもう少し高速で飛行できるのではないかと思ったが、そこまで甘くはないか。

 操縦席のロビンが済まなそうにうつむいた。

 

「メットーに戻ればもう少し部品を見つけるなり発注なりできるかも知れませんけど、ここでは・・・マット村に送って頂いた道具と、魔力結晶や魔鉄鉱があればどうにかなったかもしれませんが」

 

 魔力結晶と魔鉄鉱があればどうにかなるのか? 魔力を秘めた素材を加工したり、魔力結晶の魔力を他の物体に移して魔法の道具を作ったりするのは知ってるが。

 

「少なくとも応急処置は可能だと思います。聞いた話では他にもダンジョンのドロップアイテムがあるんですよね?

 それ次第ではもう少し完璧になるかもしれません」

 

 覚えておこう。

 だがとりあえずは魔女の山だ。安全運転で頼むぞ。

 三時間経ったら運転交代だ。

 

「はい、領主様」

 

 ロビンの返事に頷くと、俺は後部船室の棚ベッドで仮眠に入った。

 

 

 

 三時間後に予定通り運転を交代。

 ミナがつけてくれた家臣の案内もあり、何事もなく魔女の山に到着した。

 操縦自体は結構簡単だったが、うっかり普通に動かしすぎて、ロビンにはえらく感心されてしまった。

 

「領主様凄いですね・・・私も親方に教えて貰って、動かせるようになるまでには随分苦労したんですが」

 

 まあ本とかで勉強はしてたからな。俺にかかればこれくらいは軽いものだ。

 と、日記には書いておこう(意味不明)。

 ともかくは野営だ。

 「ミナ・マイ・レイディアンス」号、略してMMR号には仮眠室もあるし、そこで泊まれば問題ないだろう。

 

「えへへへへ~」

 

 夕食。

 バケツに水を入れて冷やしたワインの瓶に頬ずりする駄エルフ。あらかじめミナから何本か貰ってはきたが全くこいつは・・・え? おい、ちょっと待て。

 そのバケツの中!

 

「あげませんよ!? いくらカエラくんでも! 私が貰ったワインなんですからね!?」

 

 いらんわ! そっちじゃねえ、バケツに氷が浮かんでるだろう!

 

「あ、これですか? 新しく習得した《凍結(フリーズ)》の呪文ですよ。

 なんと! これでいつでもオンザロックやよく冷えたワインが飲めるようになるんです! すごいでしょう!」

「・・・」

「・・・」

 

 一同溜息をつく。

 いやまあ凄いけどな?

 他に何か役には立てようとは思わないのか。

 敵にぶつけるとか、生鮮食料品を運ぶとか、病人の熱冷ましに使うとか。

 そう言うとジューニャがちょっと目を泳がせた。

 

「も、もちろんですとも! 色々お役に立てますよ!?」

 

 こいつ・・・本当に冷や酒のためにだけ呪文習得しやがったな!?

 なあフジ、前々から思ってたんだがひょっとしてこの駄エルフ、知識はあるけど凄く頭が悪いのでは?

 

「カエラ様の発想が凄いのはあると思いますが・・・ノーコメントとさせて頂きたく」

 

 周囲の一同が(ミナの家臣も含めて)うんうんと頷いた。




>「ミナ・マイ・レイディアンス」号
略してMMR号。な、なんだってーっ!
没案で「クイーン・ブリリアント・キティ(QBK)」号とか「グレイト・グレイス・レイディアント・キティ・シスター(ggrks)」号とかいうのもあった(ぉ


>と、日記には書いておこう
1970年代に一世を風靡した龍角散のCMらしい。
昔面白CM特集番組みたいなので見た覚えが・・・
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